1979年7月31日に放送された「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」。
この頃の「ヤマト・シリーズ」は人気絶頂で、2時間番組だったこの日も視聴率31%を叩き出した。
しかし、この時期からヤマト人気に陰りが出始めたのも事実である。
この年から放送開始されたのが「機動戦士ガンダム」で、初回放送こそ視聴率は振るわなかったものの、そのリアリティさは注目され、その後は再放送や映画を経て人気面でも「ヤマト」を逆転した。
逆に「ヤマト」はリアリティの無さや、ご都合主義が顕著になり、人気は下降していく。
この「新たなる旅立ち」にも、明らかにオカシイだろうというシーンが散見した。
「イスカンダルの暴走」も、その一つである。
滅びゆく運命にあったガミラス星で戦闘が起こり、既に年老いていたガミラス星はそれに耐え切れず大爆発を起こして、消滅してしまった。
煽りを受けたのが、ガミラス星とは二連星だったイスカンダル星である。
ガミラスが消滅したために重力のバランスが崩れ、イスカンダルは宇宙空間を暴走するようになった。
イスカンダルはどんどん加速し、やがて速度の限界点に達したため、遂にはワープしてしまったのである。
▼ガミラスを失ったため、暴走を始めるイスカンダル(6分40秒頃から)
Space Battleship Yamato "The New Journey"(3/9)
▼速度の限界点に達し、ワープするイスカンダル(5分40秒頃から)
Space Battleship Yamato "The New Journey"(4/9)
二連星の兄弟星を失ったために惑星が宇宙空間を暴走し、やがてはワープするという、無茶苦茶な展開だ。
ガミラスが消滅し、イスカンダルも重力のバランスが狂うのは間違いないが、そもそもイスカンダルは(もちろんガミラスも)恒星の周りを公転していたはずである(大マゼラン星雲の太陽系サンザーという惑星系に属している)。
つまり、イスカンダルが最も重力の影響を受けていたのはその恒星(地球における太陽)のはずで、ガミラスを失った途端に恒星の重力を無視し、宇宙空間を暴走するなど有り得ない。
でも、まあこれは、ガミラスを失った時がたまたま遠心力の最大点だったため、恒星の重力圏内から飛び出してしまったことにしよう(かなり強引だけど)。
さて、太陽系サンザーの軌道から外れたイスカンダルは、暴走しながら加速していくのだが、なぜ加速するのだろう?
イスカンダルは、ガミラスを失ったことによる遠心力で宇宙空間を暴走するようになったわけだが、その初速のまま移動し続けるはずだ。
つまり、この場合に働くのは慣性の法則で、邪魔な力が働かない限り一定のスピードで動き続けるのである。
例えるなら、惑星探査機がその役目を終え、宇宙人宛ての手紙を乗せたまま太陽系を飛び出して、同じ速度で宇宙空間を航行し続けているのと同じ理屈だ。
この場合、惑星探査機が星の重力の影響を受けない限り、加速も減速もすることはない。
それなのに、イスカンダルが加速するとは、自由落下運動でもしているのだろうか。
自由落下運動とは、たとえば高層ビルの屋上からパチンコ玉を落としたとき、パチンコ玉はグングン加速して落下し、地面に達する頃にはアスファルトにのめり込むほどの速度となる。
これはパチンコ玉に対して、あまりにも巨大な地球の引力が働くからだが、イスカンダルの場合はそういうわけでもない。
したがってイスカンダルが加速するのはおかしいのだが、これも他の星の重力やら何やらが色々ゴチャゴチャと働いて加速したとしよう(メチャメチャ強引だけど)。
最大の問題は、加速し続けたイスカンダルが、速度の限界点に達し、ワープしてしまうことだ。
いや、ワープが可能か否かについて論じるつもりはない。
ワープを否定してしまったら、「ヤマト」という作品そのものが成り立たないからだ。
ちなみにワープとは超光速航行のことで、異次元空間を通って最短距離を航行する方法である。
大阪の鉄道路線に例えると、大阪駅から天王寺駅に行く場合、地上路線ならJR大阪環状線の弁天町駅経由の内回り電車に乗るか、京橋駅経由の外回り電車に乗るしかない。
しかし、地上を通常の宇宙空間、地下を異次元空間と考えると、地下鉄(大阪メトロ)御堂筋線に乗れば最短距離で大阪駅(梅田駅)から天王寺駅まで行けるわけだ。
この場合、地下鉄に乗ることがワープということになる。
この世で最高速度を出せるのは光で、真空中を秒速約30万km(正確には299,792,458m)の速さで進むのはご存じの通りだ。
しかし「ヤマト」のファースト・シリーズでは、ヤマトは地球から14万8千光年離れたイスカンダルへ行き、1年で帰ってこなければならなかったのだが、光速でも往復で29万6千年もかかってしまう。
そこでヤマトは、光速を超えたワープ航法で地球~イスカンダル間を1年以内で往復した。
つまりヤマトは、ワープにより異次元空間の近道を通って、光を遥かに超える速さ(単純計算では、光速の29万6千倍以上)で地球とイスカンダルを往復したわけだ。
現在、ワープ航法は不可能とされているが、本稿では可能として話を進める。
話を戻すと、イスカンダルは宇宙空間を加速しながら暴走、やがて速度の限界点に達してしまった。
速度の限界点とは、秒速約30万km、即ち光速だと思われるが、これが有り得ない話なのだ。
ヤマトの場合はワープするための波動エンジンを備えているが、単なる惑星に過ぎないイスカンダルに波動エンジンなど付いているわけがない。
したがって、イスカンダルはワープなどできないのだが、そもそも光速まで達することも不可能なのだ。
いくら加速しようとも、である。
加速はするのに、光速に達することが不可能とは、どういうことなのだろうか。
アルベルト・アインシュタインの特殊相対性理論によると、物質は加速すればするほど質量(重さ)が増える。
そして、質量が増えれば増えるほど、加速度の法則により加速しにくくなるのだ。
もちろん、現在の地球人類が経験したことのある速度、たとえば新幹線に乗るとか、もっとスケールの大きいことを言えば宇宙飛行士が地球最速の宇宙ロケット(光速の約1万分の1)に乗った程度では、質量の増加など微々たるもので、それを実感することはない。
しかし、光速に近付けば近付くほど、質量の増加は顕著になる。
ヤマトを例に取ってみると、ヤマトの通常航行(即ちワープしないとき)での最高速度は光速の99.9%。
つまり、ヤマトと言えどもワープしなければ光よりも遅いわけだ。
とはいえ、光速の99.9%というのも、凄まじい速さである。
しかし、ただ速いだけではない。
光速の99.9%で航行するヤマトは、質量もとんでもないことになるのだ。
光速の90%に達した時、ヤマトの質量は普段の約2.3倍になる。
光速の99%になると、質量は約7倍。
光速の99.9%では、質量は約22倍にもなっているのだ。
ヤマトの排水量(重量)は6万2千トンなので、光速の99.9%で航行しているときは実に136万4千トンということになる。
もちろん、乗組員も同じように体重が増えるため、たとえば森雪ちゃんの体重が40kgだとしても、光速の99.9%航行時には880kgになっているわけだ。
ううっ、そんな森雪ちゃんは見たくない。
というよりも、自分の体重が22倍にもなって、人間の体は耐えられるのだろうか?
それはともかく、普通の物体が光速まで加速できないのは、以下のような法則となる。
加速する→質量が増える→加速しにくくなるので、さらに推進力を上げて加速させる→ますます質量が増える→さらにさらに推進力を上げようとしても、なかなか加速しない
という状態に陥るのである。
そして、光速度に達するとき、質量は無限大になるのだ。
つまり、速度の限界点は質量の限界点でもあるので、それ以上は加速できないということである。
これが、イスカンダルがいくら加速しても光速に達することは不可能な理由だ。
それでは、光はなぜ光速度(秒速約30万km)に達することができるのかと言えば、光(光子)の質量はゼロだからである。
イスカンダルやヤマトのような重い物質に限らず、少しでも質量がある物質が光速度に達するとき、質量は必ず無限大になるのだ。
しかし、光には質量がないので、光速度に達しても無限大にはならない。
質量ゼロのものを、いくら加速しても質量がゼロのままなのは当然だ。
それなら、いくらでも加速できそうなものだが、残念ながら質量ゼロの光と言えども、速度の限界点がある。
それが秒速約30万kmだ。
つまり、正確に言うとこういうことになる。
宇宙で情報を伝達できる最高速度は299,792,458m/sだ。光を伝える光子は静止質量がゼロのため、最高速度の実現が可能である。
現実的には、イスカンダルが光速度ギリギリまで加速するのは、質量が増えすぎるので不可能だろうし、仮に可能だとしても質量が無限大となる光速度に達することはできない。
即ち、結論としては「イスカンダルはいくら加速しても、光速度に達するまでに加速が止まってしまうので、ワープすることは有り得ない」ということである。