日本が誇る鉄道、新幹線。
300km/hにも達するそのスピードは、フランスのTGVと共に世界最高水準を誇り、海外の人からは日本名物として「ゲイシャ、フジヤマ、シンカンセン」と並び称されるほどだ(今時、こんなフレーズを使う外国人がいるのかどうかは知らないが)。
もちろん、日本国内では新幹線に対抗できるスピードの列車など存在せず、圧倒的な速さで独走状態である。
超電導磁気浮上リニアモーターカー(いわゆるリニア中央新幹線)が実用化されるまでは、この状況が続くに違いない。
ところが、新幹線以上のスピードを誇る列車が、日本にもあるというのだ。
しかもそれは、関西の私鉄に過ぎない阪神電気鉄道である。
それだけではない。
新幹線に勝てるのは、阪神電車の特急や急行ではなく、なんと各駅停車なのだ。
これはいったい、どういうことなのか。
阪神電鉄の本線は、駅間距離が約1kmと短い。
ということは、駅数が多いということである。
そんな路線に、各駅停車がチンタラ走っていると、後から来る急行や特急がスピードを出して走れないのだ。
そのため、各駅停車は短い駅間を素早く走り抜ける必要がある。
ジェットカーが注目を集めたのは、日本テレビ系の番組「ザ!鉄腕!DASH!!」でTOKIOのメンバーがリレーで対決した時である。
ジェットカーが登場したのはもっと古く、1958年のことだった。
上記の理由で、加速度と減速度が優れた各駅停車の車両が必要だったのである。
つまり、短い駅間を一気に加速して、一気に減速できる車両を。
そこで開発されたのがジェットカーである。
ジェットカーは、加速度が4.5、減速度が5.0という、優れた加減速度を持つ電車だった。
加速度とは、1kmあたり何km/hのスピードを出せるかの値で、加速度4.5なら10秒後には45km/hとなる計算である。
当時の電車における加速度は2.0程度だったので、ジェットカーがいかに優れていたかわかるだろう。
この加速度は、新幹線が100km/hに達さない限りは抜かれないという加速度である。
ただし、ジェットカーにも欠点があって、加速度は優れていても長い距離を速いスピードで持続することはできない。
したがって、駅を次々に通過する急行や特急には向いていないのである。
しかも、加減速が激しければ乗客の安全性が保てなくなるので、現在では加速度は4.0に抑えられている。
それでも、例えば阪神本線の梅田駅から隣りの福島駅まで勝負すれば、ジェットカーは新幹線に圧勝だろう。
これは新幹線でなくても、超電導磁気浮上リニアモーターカーでも結果は同じである。
駅間の短い各駅停車に限り、ジェットカーに勝る列車はないのだ。
当代最高のスピードを誇る新幹線、そして次世代では史上最高の列車となるであろう超電導磁気浮上リニアモーターカーですら、阪神電鉄の各駅停車では物の役にも立たないのである(おそらく他の私鉄やJR在来線でも)。
「世界に一つだけの花」ではないが、やはりどんな物(もちろん人も)にも適材適所というものがある。
そういう意味では、なんでも画一的に判断するべきではないだろう。
ただ、ジェットカーの「一気に加速するが、すぐに減速してしまう」という特徴は、同社が保有するプロ野球チームに似てなくもないが。