関西は私鉄王国と呼ばれ、大阪府下を走る私鉄としては阪急電鉄、阪神電気鉄道、京阪電気鉄道、近畿日本鉄道(近鉄)、南海電気鉄道の大手私鉄いわゆる関西五大私鉄、そして大阪市営地下鉄から民営化した大阪市高速電気軌道 (Osaka Metro=大阪メトロ)が有名だ。
しかし、これら以外でも大阪府内を走る私鉄が存在する。
ただし、大阪府下にはいわゆる第三セクター鉄道(JRおよび旧・国鉄、あるいは私鉄の赤字路線を引き継いだ三セク会社)はない。
★第一種鉄道事業者および軌道事業者
●大阪高速鉄道(豊中市、吹田市、茨木市、摂津市、守口市、門真市)
大阪高速鉄道と言ってもピンと来ない人がほとんどだと思うが、同社は第三セクターの鉄道会社で、要するに大阪モノレールのことである。
大阪府内を走る唯一のモノレールで、2011年までは世界最長のモノレールとしてギネスブックに認定されていた。
大阪モノレール線(本線)と国際文化公園都市モノレール線(彩都線)の2線があり、特に有名なのが大阪空港駅と門真市駅を結ぶ本線と呼ばれる線だ。
中国自動車道および近畿自動車道に沿って、大阪国際空港(伊丹空港)から万博公園を経て、京阪電鉄本線の門真市駅まで伸びている。
大阪市内は通らないものの、大阪モノレールは大阪北部の要所を結ぶ路線だ。
なお、車両は全て跨座式である(モノレールの車両には他に懸垂式がある)。
北大阪急行電鉄(北急)はおそらく、大阪府民が最も多く利用している中小私鉄だろう。
駅数は起終点を含めて僅か4駅、大阪府北部の吹田市と豊中市のみを走る小さな鉄道会社だが、大阪メトロの御堂筋線と直通運転しているため乗降客は多く、大阪市方面から乗ると地下鉄からそのまま北急に入るので「北急に乗っている」という実感はあまりない。
大阪メトロ御堂筋線と言えば、新大阪駅、梅田駅、難波駅、天王寺駅などを通る、大阪の大動脈だ。
直通運転区間は、大阪府北部の豊中市にある千里中央駅(北急)から、大阪府南部の堺市にある中百舌鳥駅(御堂筋線)まで4市を通り、走行距離は実に30.4kmにも及ぶ。
なお、2023年には箕面市の箕面萱野駅まで延伸し、あと2駅増える予定だ。
北急は阪急電鉄の子会社だが、阪急との直通運転はない。
初乗り運賃は非常に安く、僅か100円である。
したがって北急の駅で運賃表を見れば、御堂筋線に入る江坂駅を越えると運賃が跳ね上がり、驚く人も多い。
何しろ大阪メトロの初乗り運賃は180円なのだから。
北急独自の車両も所有しており、ステンレス製車両の大阪メトロとは異なって、クリーム色で塗装された鉄製車両だ。
地下鉄である大阪メトロと直通運転しているとはいえ、北急は大部分が新御堂筋と並行して地上を走っており、地下駅はターミナルの千里中央駅のみである。
なお、北急は準大手私鉄に分類されている。
▼北大阪急行の現在のターミナルである千里中央駅は唯一の地下駅
妙見線と日生線の2路線があり、特に日生線の終点である日生中央駅からは日生エクスプレスで阪急電鉄の大阪梅田駅まで直通で行くことができるうえに、現有車両も阪急電鉄から譲り受けた物なので、阪急電車に乗っているような気分だ。
ただし、阪急宝塚本線との分岐駅となる川西能勢口駅から能勢電に入ると、都会的なイメージのある阪急電車とは裏腹に、北摂の片田舎風景になるのが特徴だ。
なお、路線の大部分が兵庫県川西市であり、社名とは異なり能勢町(大阪府最北端の町)には通っていない。
妙見線の終着駅である妙見口駅(豊能町)は、大阪府最北端の駅である。
阪堺電気軌道(阪堺電軌)は、大阪府で唯一の路面電車として有名だ。
かつては南海電鉄の一部だったが、1980年に分離、現在では南海電鉄の子会社となっている。
ただし路面電車のため、南海との相互乗り入れは行っていない(路面電車と普通の鉄道との直通運転には、京阪電鉄の京津線と京都市営地下鉄がある)。
阪堺線と上町線との2路線があり、特に阪堺線は路面電車ながら大阪市と堺市に跨っている、長い路線だ。
しかし実際には、阪堺線の起点である恵美須町駅(大阪市)と、終点の浜寺駅前駅(堺市)との直通運転は行っていない。
上町線の起点である天王寺駅前駅(大阪市)から住吉駅(大阪市)で阪堺線に合流し、浜寺駅前駅までの直通運転が主流になっているため、現在では上町線が本線扱いである。
▼専用軌道から路面軌道に入る阪堺電車(上町線の阿倍野駅~松虫駅間)
大阪府南部を走る泉北高速鉄道は南海電鉄の子会社であり、南海電鉄の高野線と相互乗り入れしている。
沿線は泉北ニュータウンという大規模な新興住宅地で人口も多く、南海電鉄のターミナルである難波駅へは直通で行くことができるので、南海高野線の支線という感じで非常に便利だ。
起点は中百舌鳥駅(堺市)、終点は和泉中央駅(和泉市)で、起終点を含めて僅か6駅だが、中百舌鳥駅は大阪メトロ御堂筋線と乗り換え可能とあって乗降客はかなり多い。
最近では、難波駅まで直通の泉北ライナーという有料特急も走らせている。
独自の車両も所有しており、南海高野線によく似たステンレス製車両の他、クリーム色に青いラインの入った鉄製車両もあって、南海電車との違いは明らかだ。
泉南方面への延伸も囁かれているが、実現可能かどうかは定かではない。
▼泉北高速鉄道の中心駅である泉ケ丘駅付近
水間鉄道(水鉄)は大阪府南西部の泉南地域にある貝塚市のみを走る、非常に珍しい私鉄である。
起点の貝塚駅は南海本線との乗換駅であり、南海電鉄とは結び付きが強いが、同社の子会社ではない。
元々は独立系の鉄道会社だったが、経営難のため2006年に飲食系の会社である㈱グルメ杵屋の子会社となった。
沿線人口は少なく、水間観音への参詣客のために敷設された鉄道で、現在でも全線が単線だ。
そのため、大阪とは思えないのどかな田園風景が車窓には広がる。
車両は以前、南海電鉄のお下がりを使用していたが、現在は東急電鉄の中古車両となっている(トップ画像参照)。
かつては東京のド真ん中を走っていた東急の車両が、現在では大阪の田舎路線を走っている画というもの面白い。
しかも車内の吊り革には、関西に存在しない東急百貨店の広告が残っている(関西には東急ハンズはあるが東急百貨店はない)。
★第三種鉄道事業者
鉄道会社には大きく分けて3種類あり、最も多いのが第一種鉄道事業者だ。
第一種鉄道事業者は自社で線路を敷設し、営業も行う鉄道会社である。
上記の「★第一種鉄道事業者および軌道事業者」のうち、大阪モノレールと阪堺電軌は軌道事業者で、それ以外は第一種鉄道事業者だ。
それに対し、第三種鉄道事業者は線路を敷設するだけで、その線路を他社に貸して営業は行わない鉄道会社である。
第三種鉄道事業者から線路を借りて、車両を走らせ営業を行う鉄道会社を第二種鉄道事業者という。
以前は第一種鉄道事業者がほとんどだったが、新たに開通する路線はこの方式が主流になると思われる。
それでは、大阪府下の第三種鉄道事業者には、どんな鉄道会社があるのだろうか。
関西高速鉄道などという鉄道会社は、大阪に長年住んでいる人でも、ほとんど知らないだろう。
関西高速鉄道とは、1997年に開通したJR東西線の線路を敷設した第三セクターの会社だ。
JR東西線とは、JR西日本の京橋駅(大阪市)から尼崎駅(兵庫県尼崎市)までを地下で結ぶ路線である。
ちなみに、JR東西線というのは、日本で初めて名称に「JR」が付いた路線である。
にもかかわらず、線路を保有しているのはJRではなく別の会社だ。
関西高速鉄道は、2031年に開業予定のなにわ筋線の建設も請け負うことになっている。
なにわ筋線は、JR西日本と南海電鉄が第二種鉄道事業者になる予定だ。
大阪外環状鉄道は、新大阪駅(大阪市)から久宝寺駅(八尾市)に至るJR西日本のおおさか東線の線路を敷設した三セク会社だ。
なお、会社名とは裏腹に、環状運転は行っていない。
第三種鉄道事業者の意味が判った人で、しかも大阪人ならば中之島高速鉄道という社名を聞くと、どんな鉄道路線かは想像がつくだろう。
そう、2008年に開通した京阪電鉄の中之島線を敷設した三セクの鉄道会社である。
それまで、大阪市役所などがある中之島には鉄道駅がなかったが、中之島線の開業により待望の鉄道路線が通ったわけだ。
京阪電鉄本線の天満駅から、新駅となった中之島駅まで起終点を含めて5駅の路線である。
阪神電鉄の尼崎駅(兵庫県尼崎市)と西九条駅(大阪市)を結ぶ西大阪線という路線が元々あったが、2009年に西九条駅と近鉄の難波線の近鉄難波駅(この時に大阪難波駅と改称)が地下路線で繋がり、阪神なんば線と改称した。
阪神なんば線のうち、2009年に開通した大阪難波駅~西九条駅の区間を敷設したのが三セクの西大阪高速鉄道である。
第二種鉄道事業者は阪神電鉄で、近鉄の車両も走行するが、営業しているのは阪神電鉄のみのため、近鉄は第二種鉄道事業者とはならない。
阪神なんば線の中でも、旧・西大阪線の西九条駅~尼崎駅の区間は西大阪高速鉄道とは関係なく、従来通り阪神電鉄が第一種鉄道事業者である。
大阪市西側の湾岸部分に大阪メトロの南港ポートタウン線が走っている。
住之江公園駅~コスモスクエア駅を走る無人運転の新交通システム、通称ニュートラムだが、このうちのトレードセンター前駅~コスモスクエア駅の1駅間だけは三セクの大阪港トランスポートシステムが第三種鉄道事業者だ。
この1駅間は大阪メトロが第二種鉄道事業者なのは言うまでもない。
それだけではなく、地下鉄部分の大阪メトロの中央線、大阪港駅~コスモスクエア駅の1駅間も大阪港トランスポートシステムが第三種鉄道事業者、大阪メトロが第二種鉄道事業者となっている。
新関西国際空港などという、鉄道とは関係なさそうな会社も、レッキとした第三種鉄道事業者である。
社名を見れば判るように、関西国際空港(関空)へ至る鉄道路線の会社だ。
新関西国際空港が敷設したのはりんくうタウン駅~関西空港駅の1駅間で、この間をJR西日本の関西空港線と南海電鉄の空港線が通っている。
この間の線路と両駅はJR西日本と南海電鉄が共同で使用しており、当然のことながらこの両社が第二種鉄道事業者だ。