アメリカ(と思われる)のある街にある、小さなスポーツ用品店。
その店に来た金髪のクソガキ少年がレジに行って、
「ザナックスはありますか?(もちろん英語)」
と尋ねる。
カウンターにいたクソジジィ老店主は眼鏡の奥の目を細め、ニンマリと笑って、
「もちろん、ありますよ(当然、英語)」
と答えると、カウンターの奥にあった袋を少年に差し出し、袋からグラブを取り出すと(もちろん英語で)こう言った。
「キミは若いのに”いいもの”を知ってるねえ」
少年は嬉しそうにそのグラブを左手にはめ、右手の拳でポン、ポンと叩いた―。
スポーツ用品メーカー・ザナックス(XANAX)のCMの一コマです。
余計なBGMは流れず、グラブを渡す時の老店主の表情と、グラブを手にした野球好きそうな少年の嬉しそうな顔が印象的です。
実にシンプルでいいCMですが、それでもいくつか疑問があります。
(1)なぜ老店主は、少年の欲しているのが野球のグラブだとわかったのか?
少年は「ザナックスはありますか?」とは訊いたけど、「ザナックスのグラブはありますか?」とは訊いていません。
でも老店主は何の躊躇もなく、霊能者のように予知したかの如くグラブを差し出しています。
そもそもこの少年も、品名も何も言わずに「ザナックスはありますか?」とメーカー名だけで尋ねるというのも非常識すぎる。
いくら子供でも、それぐらいのことはわかるでしょう。
例えば文房具屋に行って「コクヨはありますか?」なんて尋ねても、店員は困惑するばかりだと思われます。
(2)なぜ老店主は、この少年が右利きだとわかったのか?
まあ、ほとんどの人が右利きなのだから普通の行動とも言えるけれど、もし少年が欲していたのがグラブだとわかっていても「右利き用でいいかい?」ぐらいは尋ねるでしょう。
(3)この少年は自腹切ってグラブを買うのだろうか?
こんな子供(どう見ても小学生)が一人でスポーツ用品店に来て、グラブを買おうとしているのだから、自分の小遣いで買うのでしょう。
随分リッチな小学生だなあ。
あるいは親から特別に小遣いをもらったのかも知れないけど、子供に大金を持たせると何に使うかわからないので、キチンと親が付き添うべきです。
僕が小学生の時は、自分の小遣いではとてもグラブなんて買えなかったなあ。
グラブなんて高価な物は、親に買ってもらうものだと思ってましたから。
グラブは一つだけ買ってもらったけど、それは僕専用ではなく、親父も使ってました。
だから僕の手にはやたらデカかった(*_*)
ちなみに、平尾誠二がラグビーをやっていて一番嬉しかったことは、
「中学生の時に、親父に初めてスパイクを買ってもらったこと」
だそうです。
(4)なぜ老店主は、ザナックスのグラブを店頭に並べてなかったのか?
ザナックスのグラブがそんなに”いいもの”なのならば、何もカウンターの奥に隠しておく必要はないでしょう。
まるで常連さん用に隠し酒蔵を用意している酒屋のようですが、所詮は子供用のグラブです。
少年がザナックスとアドバイザリー契約を結んでいて、オーダーメイドでグラブを作っているのなら別ですが、そんなことは(やり取りを見ても)絶対に有り得ないし。
むしろ”いいもの”ならば、堂々と店頭に並べるべきです。
”いいもの”を店頭に並べるのは商売の常識で、それによって店が繁盛するのならこんなにいいことはありません。
この少年が成人して、やがて死を迎える時にはやはりこう言うのでしょうか。
「ウラガン、あのグラブをキシリア様に届けてくれよ!あれは”いいもの”だ!」
(すんまへん、オチはガンダムネタになってしまいました)