今年の日本プロ野球前半戦で最もスキャンダラスな事件だったのが、読売ジャイアンツの原辰徳監督の「不倫・1億円騒動」だろう。
原監督が不倫をしたというのは大昔の話だし若気の至りとも言えて、そもそも家庭内の問題なのでどうでもいいが、問題は元暴力団員とされる男の脅迫されて1億円もの口止め料を払ったことである。
野球協約第180条には暴力団との交流を固く禁じており、1970年前後の「黒い霧事件」ではそれが元となった八百長疑惑で多数の永久追放者を出している。
「黒い霧事件」をすっぱ抜いたのは読売新聞だったが、今回の事件に関しては「原監督は被害者で、リークしたのは(前巨人軍代表の)清武英利氏だ」と問題のすり替えとしか思えない記事を書いている。
他人に厳しく、身内には大甘の企業体質がよくわかる。
原監督も清武氏に対して、
「巨人軍の一員だったことを誇りとして、これからを歩んでください。まだ間に合います」
と自分のことを棚に上げ、まるで清武氏が諸悪の根源だと言わんばかりの声明文を出した。
どうやら自分がやったことの罪の大きさがわかってないらしい。
仮に清武氏が暴露したにしても、原監督自身が脅しに屈して1億円もの法外な口止め料を払ったことには変わりないのである。
渡辺恒雄・巨人軍会長も、
「俺は原君が好き。辞めさせる理由は一つもない」
と大マスコミグループの頂点に立っている人物とは思えない、というよりガキのような論理を語っていた。
この事件に関して週刊ベースボールではスルーすると思っていたが、意外にも行動は早かった。
事件が起こった翌週号では、西武ライオンズなどで球団代表を務めた坂井保之氏が特別寄稿を書き、対応の拙さを鋭く突いた。
また、名物コラムの「オレが許さん!」では、豊田泰光氏が毎週のように今回の事件を徹底的に批判している。
それに比べ、同誌にコラム「多事正論」を隔週で連載している堀内恒夫氏は、この件に関して一切触れていない。
巨人のエースだった堀内氏はこのコラムで毎回のように「巨人の伝統は」「巨人の誇りは」という内容をウンザリするほど書いているのに、今回のような本当の意味での「巨人の伝統」「巨人の誇り」に関わる問題については、全くの無視。
自分では書きたくないのか、どこかから圧力がかかっているのかはわからないが、本当に「巨人の伝統」「巨人の誇り」を守りたいのなら、今回の事件でも真っ向から向き合うべきではないか。
オフシーズンに巻き起こった「清武の乱」の時は清武氏に対する批判記事を書いていたが、今回はそれすらもない。
まるで今回の事件は無かったことのように扱っているのだ。
一番悪いのは原監督であり、それをもみ消そうとした巨人軍および読売グループであることがわかり切っているからだろう。
ハッキリ言って、週刊ベースボールに堀内氏のコラムはいらない。
書いている内容はほとんど巨人のことばかりなのだから、巨人の大本営発表をしたければ「月刊ジャイアンツ」で書けばよい。
とはいえ、堀内氏はただの評論家なのでまだいい。
当事者の原監督および読売グループ以外で、今回の件で最も情けない対応をしたのが加藤良三コミッショナーだ。
今回の事件に関して調査委員会を立ち上げるどころか、原監督に対して、
「野球に集中して頑張ってください」
と激励したというのだ。
事情聴取すらせずに、激励である。
今、コミッショナーがやるべきことはただ一つ、巨人(あるいはプロ野球界)に蔓延る病巣について徹底的に調査し、二度とこのような不祥事が起こらない体質にすることだ。
しかしそのコミッショナーが今回の事件をうやむやにしようとしている。
もう、何をかいわんやである。
その加藤コミッショナーがオーナー会議で再任された。
パシフィック・リーグの2球団が再任に関して拒否(その後、条件付きで賛成)したらしいが、他の10球団は満足したということだろうか。
要するに、オーナーたちの(ハッキリ言えば巨人の)傀儡コミッショナーなら誰でもいいのだ。
加藤コミッショナーは就任して以来、何をやってきたというのだろう。
相当な野球好きと言われていたので期待していたが、結局はお飾りコミッショナーだったとしか思えない。
印象に残っていると言えば、統一球にサインされているので名前だけは覚えた、ということぐらいか。
というようなことをオールスター・ブレイク中に書こうと思っていたが、大きなニュースが飛び込んできたので、そのことについても書く。
日本プロ野球選手会が第3回WBCに不参加表明をしたのである。
この件に関しては賛否両論あるが、個人的な意見としては、最終的には出場するという前提のうえだが、選手会は勇気ある決断をしたと思う。
選手会の不満は、いうまでもなくMLB側が不当に利益を独占している点だ。
選手会側はWBCの運営会社であるWBCIに待遇改善を要求してきたが、のらりくらりとかわされてきた。
そこでやむなく「苦渋の決断」として、WBC不参加を表明したという。
もしこれが、待遇改善に関して秘策があるのなら、大したものと言える。
WBCIにとっても、2連覇中の日本不参加は避けたい事態だろう。
WBCはアメリカでは盛り上がっていないと言われているが、日本でテレビ放映されなくなるとますます盛り下がるだろうし、日本企業がスポンサーから降りれば大打撃となる。
ところが加藤コミッショナーは、
「選手会に対しては、参加するように要請する」
とコメントした。
この加藤コミッショナーの言葉に筆者は仰天した。
要するに、NPB側は選手会と話し合わないまま、選手会が勝手に不参加を表明した、ということになる。
なんと、NPBと選手会はWBC出場に関して一枚岩ではなかったのだ。
NPBもWBCに関して、MLBが不当に利益を独占していることぐらいわかっていただろう。
また、WBCIとの交渉は一筋縄でいかないということも知っていたはずである。
それならば選手会にそのことを説明し、話し合って選手会を納得させてからWBCIと交渉しなければならない。
それなのに選手会が不参加表明すると、NPB側が驚いたように、
「わしゃ知らん。選手会が勝手に言ったことだから、出場するようにこれから選手会を説得する」
と言っているのである。
こんなことでまともな交渉ができるのだろうか。
事実、WBCIは、
「NPBと選手会の問題。NPB側からは参加すると聞いている」
と知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいる。
日本側の足並みが揃っていないのだから、WBCIに足元を見られるのは当然だ。
もはやWBCIからは今以上の好条件は得られまい。
WBCは確かに問題が有り過ぎる大会だ。
チームの分配金はもちろん、補償や試合日程、不公平感など課題が山積みである。
しかも、本来なら中立的立場であるIBAFが主催すべきところを、MLBお抱え会社のWBCIが運営しているのだから、MLBのための大会になるのは当然だ。
だがそれでも、野球の世界大会を開催したのには意義があった。
オリンピック競技から野球が除外された今、プロが参加した世界一を決める大会は野球を世界的に広めるためにも必要である。
まだ産声を上げたばかりの大会で、問題がないはずがない。
それをこれから問題を是正していって、より公平に、しかも盛大な大会に育てていけばいいわけだ。
サッカーのワールドカップだって最初の頃は足並みが揃わず、ボイコットする国もあったが、現在では世界最大のスポーツ大会になっている。
今の時代、世界大会に参加しなければそのスポーツは生き残れない。
まもなくロンドンで始まるオリンピックでは日本中が狂想曲で渦巻くだろうし、サッカーワールドカップでも日本中が注目する。
マイナーな存在だった女子サッカーですら、ワールドカップで優勝するとシンデレラのように一夜にしてメジャースポーツとなった。
野球だって球界再編騒動で人気低下が叫ばれたが、WBC2連覇で高視聴率を叩き出し、野球人気を取り戻した。
それが今回、日本の足並みが揃わなかったので、第3回WBCは以下のようになることが予想される。
①WBCIからは待遇改善要求を一蹴され、NPBの説得に選手会がしぶしぶ応じてイヤイヤ参加(さらにモチベーションが上がらず惨敗)。
②選手会は参加を断固拒否、日本人メジャーリーガーとアマチュアの混成チームで出場するが、選手間同士でのあまりの待遇の違いにチームワークはバラバラで惨敗(シドニー五輪の再来)。
③日本そのものが参加せず、日本では全く話題にならない大会になり、WBCは存続の危機に(野球人気のさらなる低下)。
NPB側は選手会を説得するならば、なぜもっと早い段階で説得できなかったのか。
NPBと選手会が一体となってWBCIと交渉すれば、多少なりとも待遇改善ができたかも知れないのだ。
しかし結局、今回の日本側の行動はWBCIにナメられて、最悪の結果をもたらすような気がしてならない。
それもNPB、とりわけコミッショナーの統率力のなさが原因と言えるだろう。