83試合32勝42敗9分、勝率.432、借金10、セントラル・リーグ5位。
プロ野球の前半戦を終えた阪神タイガースの成績である。
「熱くなれ!」が今季就任した和田豊監督のスローガンだったが、やはり新監督の中畑清監督率いる横浜DeNAベイスターズのスローガン「熱いぜ!」と酷似しており、その両チームが現段階で5位と最下位なのだから、「熱い」ことが野球の成績とは何の関係もないことを証明したようなものだ。
一発勝負の高校野球ならともかく、年間144試合もこなすプロ野球で、ずっと熱くなりっ放しだとオーバーヒートするだけである。
プロならば常に平常心で実力を発揮できなければならない。
もっとも、スローガンなどファンに向けてのメッセージであり、特に意味もないので別にこれでも構わないのだが、本気で指揮官がこれで勝てると思っていたら大問題である。
もちろん、和田監督が本気でそう考えているとは思えないが、もう一人の監督の方はどうか……。
それにしても前半戦のこの成績を、前年度は真弓明信前監督批判を繰り返していた連中はどう説明するのだろう。
彼らは「真弓監督が辞めれば優勝できる」と、コーラスグループのように声を揃えて言っていたではないか。
実際には真弓前監督は悪い采配をふるっていたわけではないのだが、チームの不振を全部真弓に押し付け、ファンもその風潮に煽られた。
いかにマスコミや評論家が野球を知らないか、あるいは古い野球観に捉われているかわかろうというもの。
現在の低迷は2008年から予見できた。
当時の阪神の監督は現在オリックス・バファローズ監督の岡田彰布だったが、この年の阪神は前半は独走して優勝間違いなしと言われたものの、後半に失速してまさかの大逆転で優勝を逃した。
すると岡田元監督はクライマックス・シリーズ(CS)を残していたにも関わらず、とっとと辞任してしまったのである。
独走しながら優勝できなかった責任を取った、と言えば聞こえがいいが、実際には後任監督に責任を押し付けたのである。
なぜ岡田がそんな行動を取ったかと言えば、もう阪神は勝てないチームになったと悟ったからとしか言いようがない。
その辺りの事情は4年前に書いているので、そちらを参照されたい。
翌年、岡田の尻拭いをする形で阪神の監督に就任した真弓だったが、解説者席に座った岡田は真弓采配批判を執拗に繰り返した。
あまりの毒舌ぶりに野球ファンは面白がったものだが、岡田とて真弓が憎くて批判ばかりしていたわけではあるまい。
要するに、自分が指揮を取っていればこれほど負けることはなかった、とアピールしたかったのである。
この時の岡田発言が元で、真弓批判の空気が作られたのは間違いない。
翌年、岡田はオリックスの監督に就任したが、2年間Bクラスなのだから何をかいわんやである。
4年前に低迷の兆候があったというのは、チームの伸びしろがなくなり、閉塞感が生まれ始めたからである。
その後の阪神球団のチーム作りを見ると、目先の勝利にこだわってつぎはぎのような補強を行って、抜本的な治療を行っていた。
そのため、バランスを欠くチ-ム構成となってしまったのである。
今季の主力選手を、高校卒、大学卒、社会人、移籍組、外国人に分けて見てみよう。
◎先発投手 能見篤史 33歳 社会人 8年目
◎先発投手 岩田稔 29歳 大学卒 7年目
◎先発投手 安藤優也 35歳 社会人 11年目
◎先発投手 ランディ・メッセンジャー 31歳 外国人 阪神3年目
◎先発投手 ジェイソン・スタンリッジ 34歳 外国人 阪神3年目
○先発投手 久保康友 32歳 移籍組 8年目 阪神4年目
◎救援投手 渡辺亮 30歳 社会人 7年目
◎救援投手 榎田大樹 26歳 社会人 2年目
◎救援投手 筒井和也 31歳 大学卒 9年目
◎救援投手 藤川球児 32歳 高校卒 14年目
◎救援投手 福原忍 36歳 大学卒 14年目
○救援投手 鶴直人 25歳 高校卒 7年目
○救援投手 加藤康介 34歳 移籍組 12年目
○捕手 小宮山慎二 27歳 高校卒 9年目
○捕手 今成亮太 25歳 移籍組 7年目 阪神1年目
△捕手 藤井彰人 36歳 移籍組 14年目 阪神2年目
◎遊撃手 鳥谷敬 31歳 大学卒 9年目
◎外野手 金本知憲 44歳 移籍組 21年目 阪神10年目
◎外野手 マット・マートン 31歳 外国人 阪神3年目
○外野手 大和 25歳 高校卒 7年目
○外野手 柴田講平 26歳 大学卒 4年目
○外野手 俊介 25歳 大学卒 3年目
○外野手 浅井良 33歳 大学卒 11年目
○外野手 桧山進次郎 43歳 大学卒 21年目
○外野手 伊藤隼太 23歳 大学卒 1年目
(◎=レギュラークラス、○=準レギュラークラス、△=故障)
この表を見て一目でわかるのが、高校卒の生え抜きが極端に少ないこと。
投手のレギュラークラスではクローザーの藤川球児ただ1人、野手に至っては一人もいない。
準レギュラークラスでも、投手陣が1人、野手陣は3人だ。
高卒選手のうち、藤川が32歳、代打要員の関本賢太郎が34歳となっている。
年齢に目をやると、レギュラークラスでは投手陣で20歳代が2人、野手陣に関しては全員が30歳以上だ。
良く言えば円熟味があるチーム構成で、悪く言えば成長する余地がないチームと言える。
さらに、投手陣では外国人以外はほぼ生え抜きで賄っているのに対し、野手陣のレギュラークラスは鳥谷敬以外、全員が移籍組もしくは外国人である。
野手に関してはウィークポイントを自チームで育てるのではなく、外部からの戦力補強に頼っているチーム事情がよくわかる。
早い話が、ファームからの戦力突き上げが皆無と言っても過言ではない。
とりわけ深刻なのが捕手で、2003年の優勝メンバーである矢野燿大が引退して以来、正捕手不在に悩まされてきたが、その矢野とて中日ドラゴンズからの移籍組である。
ハッキリ言って、1985年の優勝メンバーである木戸克彦以来、阪神には生え抜きの捕手が育ってないのだ。
真弓監督が就任した2009年には矢野が故障し、高卒生え抜きの狩野恵輔が正捕手に座ったが、翌年にはメジャーから城島健司を補強。
初年度こそ城島は全試合にマスクを被り、打率.303、28本塁打と充分な働きをしたが、去年、今年と故障のためほとんど試合出場できていない。
そのため去年は藤井彰人をトレードで獲得し、去年は正捕手として君臨したが、今年は故障のため戦線離脱。
そこで今季途中に北海道日本ハム・ファイターズから今成亮太を獲得したが、日本ハムでほとんど出番がなかった今成が正捕手になったのだから、阪神の捕手陣の層の薄さがわかる。
今成より2年先輩の高卒生え抜きである小宮山慎二が正捕手になるかと期待されたが、現状では今成に一歩リードを許していると言わざるを得ない。
狩野が順調に成長すればトラの正妻になったかも知れないが、城島の加入によって外野手に転向したのは残念である。
阪神とてチームの要である捕手の重要性は認識しており、中谷仁(現在は読売ジャイアンツ)、岡崎太一、橋本良平らをドラフト上位で獲得したが、一軍では活躍していない。
そんな中、今年のフレッシュ・オールスターでMVPを獲得した高卒2年目の中谷将大に期待がかかるが、順調に成長してくれるのだろうか。
戦力補強には、上記の表で示したように、高卒新人、大卒新人、社会人新人、移籍補強、外国人助っ人がある。
高卒新人に1年目から活躍を求めるのは酷だから、3~6年はファームで鍛える必要がある。
大卒、社会人新人には即戦力として期待され、少なくとも1、2年で一軍に上がってもらわなければ割りに合わない。
移籍組は若手でない限り即一軍での活躍が求められるし、外国人助っ人はチームの中心選手になってもらわなければ困る。
そんな状況の中、阪神は高卒選手が育たず、大卒・社会人出身選手がそこそこで、主力の大半が移籍選手、あるいは外国人助っ人に頼っていると言わざるを得ない。
選手を育てるべきファームは何をやっているのか、ということが最大の問題だ。
しかし、そのことを指摘するマスコミはもちろん、球団関係者もほとんどいない。
ファームの育成体制には問題がないのに選手が育たないのならば、新人選手選択に携わるスカウト部門が無能なのだろう。
逆にスカウト部門が有望選手を発掘しながら選手が育たないのであれば、ファームの育成方針に問題がある、と言わざるを得ない。
そのあたりの問題究明を阪神球団はキチンとやっているのか。
おそらく、そんなことはしていないのだろう。
だから、成績不振の責任を全て監督に押し付ける。
それも、世論(というか、単純極まりない阪神ファン)を味方につけて。
おそらく、今季も和田監督に対してそれが繰り返されるのだろう。
阪神はかなり特殊な球団である。
少し勝てないとファンは贔屓の引き倒しのようにヒステリックに叫び、関西のマスコミはそれを煽る。
失敗しても成長のために目をつぶる寛容さははなく、安易に目先の勝利だけを求めて、実績のある選手を登用する。
そこには選手を育てる土壌などどこにもない。
そこで和田監督に提案だが、せっかく(?)5位まで低迷したのだから、ここは一つ順位など考えずに、若手選手をドンドン起用したらどうか。
今季、Bクラスになっても決して和田監督の責任ではない。
優勝争いやCS争いをしている状況ならそれも許さないだろうが、今季のBクラスは決定的。
それならば、監督就任2年目以降のチーム作りに役立てた方がいいだろう。
最下位になったらどうする?
横浜がいるのでその心配は御無用。
強いチームというのは例外なくバランスが取れている。
移籍選手や助っ人ばかりではダメだし、だからと言って高卒ばかりでもダメ。
高卒からファームで叩き上げの選手が何人かいて、大卒・社会人出身の野球を熟知している選手、チームをよく知るベテランや他球団から違う釜のメシを食った選手も必要だし、さらに本場のベースボールを知った外国人助っ人が融合して初めて、真の強いチームが出来上がる。
あと、和田監督には、ジタバタするな、と言いたい。
球宴前の巨人戦で、1点ビハインドながら藤川を投入したが、これはもってのほかである。
藤川はあくまで1イニング限定、延長戦の場合を除いてセーブが付く場面と限定すべきだ。
藤川は意気に感じるタイプなので、どんな場面でも登板したがるだろうが、監督がそれに甘えてはいけない。
敢えて勇気を持って、そんな場面では藤川を投入させない覚悟が必要だ。
アホな野球評論家どもは「どんな場面でも藤川を投入すると、チームの士気が上がる」などとのたまうだろうが、そんなことは絶対に有り得ないので、藤川に無理をさせない起用法を望む。