クリント・イーストウッド監督の映画「インビクタス〜負けざる者たち」を観た。↓
http://wwws.warnerbros.co.jp/invictus/
率直な感想を言えば、非常に面白い映画だった。
日本公開から20日近くも経って言うのも恐縮だが、ぜひ観てもらいたい映画である。
内容は、アパルトヘイトを永年続けていた南アフリカ共和国初の黒人大統領であるネルソン・マンデラと、同国で開催されたラグビーワールドカップにおけるスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)が奮戦する、ドキュメンタリー映画である。
ラグビーのルールは知らなくても充分楽しめる映画だが、より深く映画を楽しむために、簡単な基礎知識を記しておきたい。
ラグビーワールドカップの歴史は意外にも浅く、第1回が行われたのは1987年。
第1回大会は世界最強と歌われたオールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)がその実力通り、圧倒的な強さで優勝した。
第2回は、そのオールブラックスを破ったワラビーズ(オーストラリア代表の愛称)が、二代目チャンピオンの座に就いた。
しかし、真の世界最強国は決まっていない、という見方が一般的だった。
なぜなら、「幻の世界最強国」と呼ばれていたスプリングボクスが、第1回と第2回のワールドカップには出場していなかったからである。
スプリングボクスが幻の世界最強国と呼ばれる所以は、テストマッチ(代表チームによる国別対抗試合のこと)で唯一、オールブラックスに勝ち越しているチームだったためだ。
したがって、スプリングボクスが出場していないワールドカップでは、まだ真の世界一は決まっていない、ということである。
スプリングボクスが第1、2回のワールドカップに出場できなかった理由はただ一つ、南アフリカがアパルトヘイトを採っていたからである。
国際的非難を浴びた南アフリカは、ラグビーワールドカップからも除外された。
しかし、アパルトヘイトが撤廃されると、スプリングボクスのワールドカップ出場が認められ、第3回ワールドカップ開催国が南アフリカとなった。
さらに、マンデラという黒人大統領が誕生したのである。
だが、ワールドカップの南アフリカ開催は前途多難であった。
白人政権が崩壊し、経済や秩序が乱れて、失業者や犯罪率が上昇したのである。
南アフリカでのワールドカップ開催が危ぶまれていた。
代替地として日本が候補に挙がったくらいである。
さらに、スプリングボクスの不振も懸念材料だった。
幻の世界最強国たるスプリングボクスも、アパルトヘイトにより国際舞台から遠ざかっていたことによって、世界のラブビーの進化についていけなかったのだ。
映画でも語られているが、テストマッチでは連戦連敗、自国開催のワールドカップでは大恥をかくのではないか、と真剣に危ぶまれていた。
この頃の位置づけでは、両横綱がオールブラックスとワラビーズ、両大関がイングランドとフランス、スプリングボクスはせいぜい張出大関(あるいは関脇)という地位ではなかったか。
そんな下馬評の中、スプリングボクスはどんな奇跡を起こすのか!?
それは映画を観てからのお楽しみ。
蛇足ながら、マンデラ大統領役を演じたモーガン・フリーマンは、マンデラ大統領とそっくりだった。
これをハマり役と言わずしてなんと言おう。
この映画で残念だったのが、ジャパン最大の屈辱「145」が赤裸々に語られていたこと。
スプリングボクスの映画なので、「145」は出て来ないだろうと思っていたが、マンデラ大統領がオールブラックスの戦績を尋ねてしまった。
SP「(オールブラックスは)日本戦で145対17」
マンデラ「145点?たった1試合で!?」
SP「はい、国際試合の最多得点です」
マンデラ「(オールブラックスは)なんて強いんだ」
オールブラックスにとっては最多得点だろうが、ジャパンにとっては最多失点なんだよ!
いずれにしても、マンデラ大統領はジャパンの「145」を知ってしまったということである。
そんなことはともかく、歴史を知る上でもぜひとも観ていただきたい映画である。
マンデラ大統領が永年根付いたアパルトヘイトと戦い、支配層だった白人ともいかに協調しようと努力したことか。
それをラグビーを通して実現しようとした。
現在、マンデラは政界から退いている。
南アフリカは黒人中心の政権となり、国内情勢はかなり悪い。
今年はサッカーのワールドカップが南アフリカで行われるが、治安の悪さで開催が危ぶまれていたほどだ。
南アフリカは、スプリングボクスのように国を建て直すことができるのだろうか?
World in Union '95