今日の朝日新聞の夕刊に、懐かしい名前が載っていた。
谷村有美。
1990年代前半に活躍した女性アーティストだ。
当時は「ガール・ポップ時代」と呼ばれ、谷村の他にも永井真理子や森高千里といった女性ボーカリストが席巻していた。
谷村はシングルヒット曲こそなかったものの、アルバムの売り上げやコンサートの観客動員数ではトップクラスの地位にあった。
当時の音楽雑誌「FMステーション」では、人気投票で常に1位。
「ガール・ポップの旗手」と呼ばれたものだ。
その少し前ではバンドブーム全盛で、BOΦWYやTMネットワーク、ハウンドドッグといった男性ヴォーカルが主流だった。
僕もサザンや浜田省吾などの男性ヴォーカルばかり聴いていたので、女性ヴォーカルには縁がなかった。
谷村の歌声は「クリスタル・ヴォイス」と呼ばれていた。
僕は未体験のクリスタル・ヴォイスにハマってしまった。
こちらがそのクリスタル・ヴォイスである↓
歌い終わった後、拍手すら起こらない。
観客はみんな呆然としている。
クリスタル・ヴォイスの前では、拍手すら雑音となるのだろう。
クリスタル・ヴォイスというと、か細い声を想像しがちだが、そんなことは決してない。
実に骨太な歌声だ↓
だが、谷村の魅力はそれだけではない。
「音楽」とは「音を楽しむ」という意味だが、谷村はそれ以上に「音をオモチャにして遊んでいる」という感じだ↓
ギターは岩見さんだ。
サックスは藤岡さん。
いやあ、懐かしいなあ。
実はもっと凄い映像があるのだが、時間の関係でリンクは貼れず。
谷村は鹿児島生まれの東京育ちだが、なぜか大阪で絶大な人気を誇っていた。
大阪城ホールでのライブも何度もやっている。
大阪の水が合ったのかも知れない。
谷村はFM横浜と大阪のFM802のパーソナリティを務めていたが、全国ネットのNHK−FMのパーソナリティを務めることが決まった時に、どちらかの番組を降板する必要があった。
谷村はFM横浜のパーソナリティを諦め、わざわざ大阪まで移動しなければならないFM802を選んだ。
よほど大阪が好きだったのだろう。
当時の人気絶頂は小室ファミリーのTRFで、そのアルバムがオリコンチャートで1位、2位はなんと谷村だった。
ところが、大阪では順位が逆転し、1位が谷村、2位がTRFだったという。
いかに谷村が大阪で愛されていたかがわかるだろう。
谷村はFM802の午後10時からの番組「MUSIC GUMBO」の水曜日担当のパーソナリティだった。
1992年のある日、水曜日の午後10時の時報とともに、ラジオからいきなり谷村のクリスタル・ヴォイスが響き渡った。
「谷村は今、テレビの前に釘付けです!!」
FM番組のオープニングとは程遠いフレーズだが、その時、サンテレビで阪神×横浜大洋(現・横浜)戦が繰り広げられていた。
当時の阪神は暗黒時代の真っ只中。
ところが92年に限っては、新庄や亀山の活躍によって快進撃、優勝もあるのでは?と思われていたのだ。
その日、谷村が東京駅から新幹線に乗り込んだ時にはまだ3回ぐらいだったそうだが、新大阪に着いたときにもまだ試合は続いていて、ラジオの生放送が始まった時には延長戦に突入していた。
生放送が始まってからの谷村はパーソナリティの仕事そっちのけで、流していた曲が終わるたびに、
「今、10回裏を終わりました!」
「阪神、なんとかピンチを凌ぎました!」
「阪神、二死満塁でサヨナラのチャンスだったんですが、パチョレックが凡退してしまいました……」
と、実況中継をしていた。
これなら、別にFM802を聴かなくてもいいだろう。
サンテレビを見ていれば済むことだ。
しかし、聴取者から来るFAXは、
「阪神、ガンバレ!」
「今年こそ、阪神優勝や!」
「阪神もいいけど、近鉄もね」
といった、野球に関することばかり。
こんなFM音楽番組は、他にはないだろう。
FM802による谷村アナの阪神戦実況は続き、遂に放送終了直前の午後11時40分頃、試合の決着が着いた。
「今、真弓先生のサヨナラヒットにより、阪神が勝ちました!!」
……………………………
その後、谷村が結婚し、音楽活動から身を引いたのは知っていた。
だが、出産して音楽活動を続けているのは全く知らなかった。
今ではどんな音楽をやっているのだろう。
朝日新聞の記事によれば、アヤヤにも楽曲を提供したらしい。
10月10日に大阪のなんばHatchでライブをするそうだ。
15年ぶりぐらいに、谷村のライブを観に行ってみようかな?
その前日が阪神戦の最終戦となるので、時間はあるだろう。
その時、もし阪神がCS進出を決めていたらMCで、
「阪神が、クライマックス・シリーズ進出しました!!」
なんて叫ぶんだろうな、きっと。