4月11日に阪神甲子園球場で行われた阪神×ヤクルト三回戦で、阪神の金本知憲がレフトポールに当たる「ミスター越え」の通算445号本塁打を放った。
しかしこのメモリアルアーチは一筋縄ではいかず、最初はフェンスに当たったインプレー(二塁打)として処理された。
ところが、この打球はポールに当たっていたのではないか、と阪神の真弓監督が「ビデオ判定してくれ」と猛抗議。
審判団の協議の結果、今季からホームランにのみ採用されたビデオ判定に持ち込まれ、金本の一打はホームランと認定された。
ちなみにルール上では、ビデオ判定は抗議により左右されるものではなく、ホームランかどうか疑わしい時に審判団の協議により利用するものである。
話は変わるが、この日のデイリースポーツ、つまりこの前日の試合を報じた記事に気になる点があった。
それは江夏豊氏のコラムで、この前日の阪神×ヤクルト戦におけるガイエルの守備についてである。
江夏氏は、あの打球は完全にガイエルのエラーだ、あれをヒットにされたのでは投手はたまったものではない、と自説を展開していた。
プロの投手からの視点である。
たしかにそうだろう。
だが、あの打球ではヒットと記録せざるを得ない。
見解の相違については仕方がないのだが、江夏氏はさらにこう苦言を呈していた。
「公式記録員には、もう少しまじめにしてほしい」
冗談ではない。
不真面目な判定をする公式記録員など一人もいない。
僕みたいなポッと出の公式記録員ではなく、NPBでの百戦錬磨の公式記録員である。
いい加減な公式記録など付けるわけがない。
たしかにあの打球は、投手から見れば捕って欲しいだろう。
だが、ジャストミートされてヒット性の当たりが正面を付き、打球が強烈だったために野手が捕れずエラー、という場合だってある。
投手の立場なら「正面の打球ぐらい捕れよ!」と言いたいところだが、ヒット性の痛烈な打球を打たれた時点で投手の負けである。
そのことを棚に上げて、
「打ち取ったのだから、難しい打球でも捕れよ!」
「ジャストミートされたけど、正面だから捕れよ!」
では片手落ちである。
話を元に戻すと、11日のデーゲームを終えて原稿を送った後、住之江まで車を飛ばした。
この日の住之江公園球場では、ナイトゲームで大阪ゴールドビリケーンズの本拠地開幕試合、対長崎セインツ戦が行われる予定だった。
阪神×ヤクルト戦が終わった午後5時ごろ、突然雨が降り出していた。
大阪球団の担当者に電話を入れると、「無事に試合が開始しました」という返事が返ってきた。
午後7時ごろに住之江に着くと、雨は見事にやんでいた。
さすがは晴れ男たる所以である。
放送室に入ると、去年は何度もコンビを組んだウグイス嬢がいた。
DJのハッシーさんもいた。
担当者や、何度も顔を合わせたスタッフもいた。
そしてこの日、僕の代わりに公式記録員を務めてくれた女性もいた。
放送室では相変わらず濃い野球談議が交わされていた。
そんな中で、今年の公認野球規則の話題になった。
僕はまだ、2010年度版の公認野球規則を購入していない。
今年はさほどルール変更はなかったとは思うが、チェックはしておかなければならない。
そこで帰宅後、ネットで検索して今年度のルール改正分をPDFで落とし込んだ。
その中で、気になったルール改正、というか、付け加えられた一文が目を惹いた。
8・01(f)
(f) 投手は、球審、打者および走者に、投手板に触れる際、どちらかの手にグラブをはめることで、投球する手を明らかにしなければならない。
投手は、打者がアウトになるか走者になるか、攻守交代になるか、打者に代打者が出るか、あるいは投手が負傷するまでは、投球する手を変えることはできない。投手が負傷したために、同一打者の打撃中に投球する手を変えれば、その投手は以降再び投球する手を変えることはできない。投手が投球する手を変えたときには、準備投球は認められない。
投球する手の変更は、球審にはっきりと示さなければならない。
この一文を読んで、思い出す人物がいないだろうか。
そう、「ドカベン」に登場する愛称「わびすけ」こと、木下次郎投手である。
木下は左右両投げでドカベンこと山田太郎を翻弄し、キリキリ舞いさせた。
投げる直前まで右で投げるか左で投げるかわからないのだから、山田は全くタイミングが取れずに凡打を繰り返したのである。
だが現実に、木下のような両投げの投手はいない。
かつては南海や阪神に在籍した近田投手のような左右投げの投手がいたが、それでも木下のように投げる寸前まで右か左かわからない、というわけではない。
木下のような両投げができる投手など、この世には存在しない。
では何のために、今回のようなルールを付け加えたのだろう。
まさか「ドカベン・スーパースターズ編」で、木下に左右両投げを許さないためではあるまいね?