日本野球がアメリカに比べて一番劣るのがパワーだと言われる。
子供の頃から日米野球では、メジャーチームのホームラン攻勢で惨敗する日本チームをイヤになるほど見てきた。
そこで、NPBの通算本塁打数の上位者を優先的に選び出して日本代表を結成すれば、MLBにも劣らぬパワフルな打線を組めるのではないか、と考えた。
走力や守備力はもちろん、打撃でも確実性は一切考慮に入れず、ただホームラン打者を集めるのである。
しかし、いくらホームランのことしか考慮に入れていないと言っても、デタラメにポジションを配置するのではなく、ポジション別で最もホームラン数が多い選手を選び出す。
たとえば、ホームラン数歴代1位の選手と2位の選手のポジションが共に三塁手であれば、1位の選手を優先して選び、2位の選手は三塁手しか守ったことがない限りメンバーには入れない。
ただし、2位の選手が他のポジションを1シーズン通して守った経験があるならば、そのポジション代表として選ぶ。
「1シーズンを通して」というのは、全試合そのポジションを守り続けたというのではなく、所属チームの中で最も多くそのポジションをこなした、という意味である。
また、打順に関しては本塁打数よりも、打線の繋がりやチームバランスを重視した。
それでは、こちらがそのオーダーだ。
なお、数字は全て2011年終了時点である。
【左から、通算本塁打数、本塁打数順位、本塁打王回数】
1(中)山本浩二 536本 4位 4回
2(三)衣笠祥雄 504本 7位 0回
3(左)張本 勲 504本 7位 0回
4(一)王 貞治 868本 1位 15回(三冠王:2回)
6(指)清原和博 525本 5位 0回
7(右)門田博光 567本 3位 3回
9(遊)宇野 勝 338本 31位 1回
(番外)
松井秀喜 日米通算505本 7位(NPB通算332本 33位 本塁打王3回)
金田正一 通算本塁打38本 投手として最多本塁打36本 代打本塁打2本
このメンバーではイチローはおろか、ミスター・プロ野球の長嶋茂雄(通算本塁打は444本で歴代14位)すら入る余地がない。
どこからでもホームランが飛び出す一発屋軍団だ。
若い頃は俊足巧打の中距離ヒッターだったが、30歳を超えて突如打撃開眼、長距離ヒッターに大変身し、4回の本塁打王は全て30歳以降のもの。
広角打法でホームラン打者となった、遅咲きの努力家である。
二番打者は、山本浩二と共に赤ヘル軍団を形成した「鉄人」衣笠祥雄。
衣笠の場合は本塁打数よりも、連続試合出場の世界記録を打ち立て(現在は世界2位)、国民栄誉賞に選ばれたことが最大の勲章だ。
本塁打王経験はないものの、打点王が1度あって勝負強く、盗塁王も経験しているので俊足の山本浩二との一、二番コンビを組む。
本塁打王経験こそないが、500本塁打以上はパワーヒッターの証。
通算安打3085本はNPB記録で、力と技を兼ね備える。
1976年に読売ジャイアンツに移籍してからは王貞治とOH砲を組んだ。
四番打者はもちろんその「世界のホームラン王」王貞治。
説明不要の868本塁打は堂々の世界一。
三冠王も2回獲得した、NPB史上最高の打者である。
五番打者は「有言実行」落合博満。
三冠王3回は王をも上回る遅咲きの天才。
落合と言えば一塁手か三塁手のイメージが強いが、二塁手としたのは、レギュラーを獲った年から2年間は二塁手だったから。
ちなみに、そのレギュラーを取った年にいきなり首位打者、2年目に三冠王という前代未聞の活躍を見せた。
六番打者は「無冠の帝王」清原和博。
その名の通り無冠なのは不満だが、歴代5位の本塁打数は捨て難い。
また、常勝・西武ライオンズの四番打者として「日本一チームの四番」を長年務めた功績は立派。
指名打者にしたのは、一塁手には王がいることと、2006年にオリックス・バファローズでDHをチーム一多く務めたからだ。
アキレス腱断裂という重傷を負った後に初の本塁打王に輝く。
さらに40歳で本塁打王と打点王の二冠王に輝くという不屈の男。
常にフルスイングで、身長170cmながら歴代3位の本塁打数は立派の一言。
その割りに七番という打順はいかにも低いが、その理由は次に述べる。
八番打者は「生涯一捕手の月見草」野村克也。
戦後初の三冠王、王に次ぐ657本塁打と9回の本塁打王ではあるが、捕手としての疲労度を考慮して八番打者とした。
もう一つの理由は、南海ホークス時代に三、四番コンビを組んでいた門田との兼ね合い。
三番打者だった門田は、ベンチの鏡に映る四番打者の野村を左打者に見立てて、それを参考にして打撃開眼したという。
もっとも野村は門田のことを「いくらフルスイングをやめろと命じても、絶対にやめなかったゴンタクレ」と評していたが。
それでも、門田は野村の前で打っていたおかげで一流打者になったのだから、南海時代のこのコンビで前後を組んでもらう。
九番打者は「元祖珍プレー」宇野勝。
キャッチフレーズが急におちゃらけてしまった。
また、歴代順位も31位とグッと下がって、本塁打数もメンバーで唯一の300本台。
遊撃手にホームラン打者が少ないのは、それだけ激しいポジションだということ。
それでも本塁打王は1度あり(この時は掛布雅之と分け合った)、パワーだけならこの打線の中でもトップクラスだろう。
もっとも、宇野について印象に残っているのは、パワフルな打撃よりも「ヘディングキャッチ」をはじめとする珍プレーだが。
NPB通算では33位に過ぎないが、日米通算となると張本、衣笠を抜いて7位に躍り出る。
このメンバーに入るとなると、張本の代わりにレフトを守ることになる。
もう一人、「天皇」金田正一は、指名打者制を採らなかった場合の九番打者。
投手としての36本塁打はダントツのNPB記録で、代打ホームランを2本も記録するという化け物ぶり。
もしDH制というものが考え出されてなければ、間違いなく「史上最強の九番打者」の称号を得ていただろう。
金田が入れば指名打者の清原が抜け、門田、野村、宇野の打順を繰り上げることになる。
と、こんなメンバーを組んでみたが、ワクワクするような超強力打線である。
投手陣のことは全く考えていないので、総合力で強いかどうかはわからないが、監督だったら誰でもこんな打線を組んでみたいだろう。
でも、この打線で本当にメジャーチームに打ち勝てるだろうか。
前述したように、メンバー選考に当たってチームバランスは全く考慮に入れていない。
特に守備は、二塁手の落合、左翼手の張本、右翼手の門田という3つも大きな穴がある。
遊撃手・宇野の守備は上手かったが、「元祖珍プレー」の名の通り突然ボーンヘッドをやらかしたりする。
捕手の野村はリードで投手は活きても弱肩が心配だし、三塁手の衣笠はそこそこ。
安心できるのは一塁手の王と中堅手の山本浩二ぐらいだが、それでも山本浩二など宇野と同じくヘディングキャッチを披露した。
守備が不安な分、バットで取り返せばいいが、これだけのスラッガーを揃えた打線が本当に機能するのか。
繋ぐことができる打者は衣笠ぐらい。
また、繋いだところで、どいつもこいつも鈍足ばかり。
山本浩二と衣笠は俊足と書いたが、それも若い頃の話で、長距離打者となった晩年は足も遅くなった。
意外に足が速かったのは張本だが、それでも足を使った攻撃などできるわけもなく、合格点は宇野ぐらいか。
まあ、繋ぐ必要がない打線ではあるのだが、だからと言ってホームランがそうそう出るわけもない。
結論としては、たまには打線が大爆発してメジャーの投手陣を血祭りに上げることもあるだろうが、いいピッチングをされると途端に打線が沈黙し、点が全く取れない状態に陥ることが考えられる。
とはいえ、こんな効率が悪そうな打線でも夢のオーダーを組んでみたいというのが、野球ファンの悲しい性である。