夏の高校野球地方大会がたけなわだが、群馬大会では春のセンバツで4強入りした高崎健康福祉大高崎が、4回戦でノーシード校の伊勢崎清明に敗れるという波乱があった。
しかも1-8で8回コールド負けという、まさしく大番狂わせである。
他の高校スポーツで、全国大会上位に進出した高校が、その年の別の大会の予選で無名校に大敗するなんてことがあるだろうか。
伊勢崎清明は初戦でセンバツ出場校の高崎(今夏はノーシード)を破っているので決して実力がないわけではないが、それでも健大高崎を破った次の準々決勝で敗れ、甲子園への夢を断たれている。
高校野球ではこうした番狂わせが他の高校スポーツに比べて圧倒的に多く、今夏でも昨夏の兵庫代表で春の県大会でも優勝した名門・東洋大姫路が、なんと3校連合チームに5回戦で敗れた。
3校連合チームというのは尼崎市立の尼崎双星、尼崎産業、尼崎東の3校によるチームで、少子化のために尼崎産と尼崎東が統合されて尼崎双星となり、三年生だけが残った尼崎産と尼崎東は今年を最後に廃校となる。
そんな事情の高校が野球部に力を入れているわけがない。
それでも、全国に轟く強豪校を倒してしまうのである。
なお、3校連合チームは次の準々決勝で敗退した。
春のセンバツでは84回を数える長い歴史の中で、連覇を達成したのはたったの2校だけだが、戦後唯一のセンバツ連覇を達成しているのが1981年と82年のPL学園である。
だが、春2連覇中のPLでも、その2年間は夏の甲子園に出場できなかった。
こんなことも、他の高校スポーツではまず有り得ないだろう。
81年は夏の大阪大会で8強にも入れず大阪商業大堺に5回戦で敗退、翌82年は府立校の春日丘に準々決勝で敗退。
PLを破った春日丘は甲子園出場を果たしたが、その前年の商大堺はPLを破った次の準々決勝でノーヒットノーランを食らって敗れた。
なぜ高校野球ではこうも番狂わせが多いのだろう。
その理由の一つに、野球は実力差が試合に出にくいスポーツだということが挙げられる。
実際、高校野球は他の高校スポーツに比べて連覇が極めて少ない。
そのあたりの事情は過去の日記「春夏連覇の難易度」で検証しているので、そちらを参照されたい。
ところで、僕は地方大会を見るのが好きだ。
甲子園を目指す優勝候補同士の激突というのも見応えがあるが、大会の早い段階での無名校同士の試合が好きなのである。
かつてはサンテレビで兵庫県大会を3回戦ぐらいから放送していたが、最近ではそれがなくなって非常に残念だ。
梅雨が明け、夏真っ盛りの青空の下で、名前も聞いたことがない高校の選手たちが白球を追う、そんな風景を見るのが好きである。
彼らを見ていて感心するのが、どう考えても甲子園出場など夢にも思っていない高校なのに、ちゃんと試合になっている、ということである。
ピッチャーは四球を連発することなくちゃんとストライクを投げ込んでくるし、守備でも酷いエラーが連発することはあまりないうえに、時折ファインプレーも飛び出す。
打者はパワーがなくても鋭い打球を飛ばし、ホームランが出ることさえある。
甲子園を目指しているわけではなくても、ちゃんと練習しているのだろう。
強豪校なら専用グラウンドがあって心おきなく練習ができるが、無名校だとおそらく狭い校庭で他の部に気を遣いながら練習しているに違いない。
高校野球漫画「プレイボール」では、無名校なのでグラウンドが狭くて思い切り練習ができない、というシーンがあるが、それでも一応は野球部専用のグラウンドなので恵まれていると言える。
現実の無名校のほとんどは、校庭を野球部が独占することなくサッカー部やラグビー部、陸上部などと話し合い、共有しているのだろう。
特に野球部の場合は、硬球が他の部の部員に当たったりすると大怪我をしてしまうので、ことさら気を遣う。
そんな中で練習をして、試合を壊さないレベルのチームを作り上げ、時には強豪校を倒したりするのだから大したものだ。
こんな話がある。
ある会社に同年齢の新入社員が二人入社して、二人とも高校時代は野球部員だったという。
一人は強豪校の出身で、もう一人は無名校の出身。
当然、社員たちは誰もが知っている強豪校の野球部出身者をチヤホヤし、今度の草野球大会では頑張ってくれよ、などと言う。
ところが実際に野球をやらせてみると、強豪校出身者はハッキリ言ってヘタ、逆に無名校出身者は見事なプレーを見せる。
なぜそうなるのか?
答えは簡単、その強豪校出身者は補欠だったので試合はおろか練習すらさせてもらえず、外野で球拾いをしながら「ウェーイ、ウェーイ」とわけのわからん声を出すだけで三年間を終えたからだ。
一方の無名校の出身者は部員が少ないので入学後いきなり練習にも参加し、一年生の頃からそこそこ試合にも出してもらえて二年生以降はレギュラー、もちろん公式戦にも出場して充実した野球部生活を三年間続けた。
三年間、ちゃんと野球をやってきた者とそうでない者、どちらが野球が上手くなるかは自明の理である。
先日、夏の大阪大会の2回戦を観に行った。
片方は甲子園で準優勝経験のある高校で、もう一方は甲子園とは無縁の無名校。
試合は実力通り、強豪校がコールド勝ちした。
コールドゲームと言ってもゲームが壊れたわけではなく、無名校は健闘したと言える。
試合が終わると無名校の選手たちは、芝生席に集まっていた。
おそらく、ベンチ入りせずにスタンドから応援していた野球部員たちも集合していたのだろう。
みんなで輪になって座っていたが、一人だけが立って何かを話していた。
一人が話し終わると、隣りの選手が立ち上がって話し始めた。
どうやら、この夏で野球部を去る三年生たちが、後輩にメッセージを贈っているようである.。
「この三年間、野球部にいていい想い出になったから、お前らも想い出を作ってくれ」
「卒業しても、お前らの試合を応援に来るから、邪魔者扱いするなよ」
いい光景を見た思いがした。