昨日の朝日新聞大阪版で、なにわ筋線計画再始動という記事が出ていた。
なにわ筋とは四つ橋筋の西側の、大阪市内のほぼ中央部を南北に走る道路である。
この道路の地下に、JRと南海の鉄道路線を走らせようという計画だ。
この計画自体は1980年代前半に考案されたが、バブル崩壊に伴う資金難のために頓挫してきた。
ところが、アクセス難による関西国際空港の地盤沈下を打開するため、再びなにわ筋線計画が浮上してきたわけだ。
現在、JR大阪駅の北側にある梅田貨物駅を解体して再開発工事中だが、そこに大阪駅と乗り換え可能な地下駅を造って、さらに北にある新大阪駅に直結する。
この新駅からなにわ筋を南下して、最近開通した京阪中之島線の中之島駅を通り、そこからJRと南海に分かれてJR難波駅、そして南海汐見橋駅と直通させて関西空港に直結しようという試みだ。
南海汐見橋近くには、今年3月に開通予定の阪神なんば線も通ることになっており、これはなかなか面白い案である。
阪神なんば線とは、神戸・三宮発着の阪神電車が京セラドーム大阪近くを走って近鉄難波線と直通運転をする、大阪の起爆剤となることを期待されている路線だ。
なにわ筋線が実現すれば、JR東西線を管轄する関西高速鉄道のような第三セクターの形態が予想されるが、新幹線、東海道本線、環状線、京阪中之島線、阪神なんば線、さらに既存の地下鉄各線と各社私鉄と乗り換えが可能になり、かなりの活性化が期待できる。
現在、JRの関空特急と言えば「はるか」である。
「はるか」の通行ルートは、京都駅を出て東海道本線を走り、新大阪駅に到達する。
ここから貨物線を通って環状線に入り、天王寺駅を通って阪和線に入り、関西空港駅に到達するという、実にややこしいルートを通る。
問題は、貨物線を利用するために大阪駅を通過せざるを得ない上に、環状線を通ることによってダイヤに制限が生まれることだ。
せっかくの関空特急が、大阪の中心地である梅田を通過してしまうのは忍びない。
さらに環状線は、三複線以上である東京の山手線と違って複線の単純構造で、関空特急を増便すれば通勤電車のダイヤ運行に支障を生じる。
なにしろ環状線には、環状線通勤電車と関空特急「はるか」以外にも、関空快速、紀州路快速、大和路快速、「くろしお」などの紀勢線特急が入り乱れる、超過密ダイヤである。
しかし、なにわ筋線が開通すれば、環状線のお荷物にならずに済むし、真っ直ぐJR難波駅に直行するので、かなりの時間短縮が期待できる。
さらに、
京都―新大阪―大阪―難波―天王寺―関西空港
という、京阪間の主要スポットが全て網羅できるのも魅力だ。
一方の南海はどうか。
南海には同社の看板である関空特急「ラピート」があり、JRの「はるか」に比べて安く利用でき、さらに高級感もあって評判の特急だが、関空からの行き先が南海難波駅だけで、他社路線との乗り入れがない分、不便な感は否めない。
それが、なにわ筋線開通が実現すると、京都はともかく少なくともキタの梅田までの延伸は期待できる。
ただし、この場合はミナミの難波は素通りしてしまうが。
なぜなら、なにわ筋線と南海線を直通させた場合、南海本線の難波駅は通らずに、汐見橋線を利用してなにわ筋線に入るからだ。
ところで、南海電鉄に「汐見橋線」なる正式路線名は存在しない。
正しくは「高野線」の一部にすぎないのだ。
通称「汐見橋線」とは、ターミナル駅である汐見橋駅から岸里玉出駅までの、僅か6駅の区間である。
汐見橋線には、僅か2両の電車がこの6駅を折り返しワンマン運転をし、本数も1時間に2本程度だ。
乗客も、1編成に2,3人なんてのも珍しくはない。
ちなみに、これがターミナルの汐見橋駅である。
断わっておくが、ここは浪花のド真ん中、東へ1キロも歩けばミナミの繁華街にブチ当たる。
大阪市内にこれだけのローカル線が残っているというのは、鉄道マニアにとっては垂涎の的だ。
もっとも、鉄ちゃん以外にとってみれば、足手まとい以外の何物でもないが。
おそらく、大阪市民でも汐見橋線に乗ったことがある人は、極めて稀ではないだろうか。
ハッキリ言って、客も乗っていないのにムダな電車を走らせ、渋滞地獄の大阪市内に踏み切りがあるだけでも迷惑至極のお荷物路線なのである。
だが、この汐見橋線、かつては大阪の堂々たる主要路線だったのだ。
先に「汐見橋線は高野線の一部」と書いたが、元々汐見橋駅は南海高野線のターミナルだったのである。
現在の南海電気鉄道が発足する前、南海高野線は南海本線を形成する「南海鉄道」とは別会社の「高野鉄道」という鉄道会社だった。
高野鉄道は、大阪ド真ん中にある汐見橋駅から堺を通って南河内地方に南下し、和歌山県橋本市を通過して霊峰・高野山に通ずる鉄道として栄えた。
その後、難波―和歌山市間を結ぶ南海鉄道と合併して、南海電気鉄道となったのである。
南海鉄道と高野鉄道は岸ノ里駅(現在の岸里玉出駅)で交差していたが、合併してからは高野線もより便利な難波駅直通運転の列車を走らせ、本来のターミナルだった汐見橋直通の列車が影を潜めたのだ。
さらに難波―岸ノ里間の高架複々線工事が進み、高野線と汐見橋線の線路は完全に分断され、両線の直通運転は不可能になった。
つまり、汐見橋線は本来の所属は高野線ながら、高野線から全く切り離されてしまったのである。
もっとも、切り離される以前から、汐見橋線は高野線や南海本線とは全く直通運転を行わない、「大都会のローカル線」に成り下がっていたのであるが。
そんなお荷物路線の汐見橋線が、なにわ筋線開通によって再び脚光を浴びるかも知れない。
本来の正式路線である高野線との直通運転は不可能になったが、関空直結の南海本線とはレールが繋がっている。