ムーン・イートとは、随分ひどい直訳だこと(+o+)
もちろん、月食のことである(本当の英訳はlunar eclipse)。
2014年10月8日、月食が観測された。
月食とは言うまでもなく、月が地球の影に入り、欠けていく現象のことである。
つまり、月が地球を挟んで太陽と反対側にある時しか月食は起こり得ず、従って必ず満月の時に限られる。
だったら、満月の時にはいつも月食になりそうなものだが、実際にはそうはならない。
なぜなら、太陽の通り道である黄道と、月の通り道である白道はずれているため、この二つの道がピッタリ重なり合った時にしか月食は起こらないのだ。
これは日食の時にも同じことが言え、日食の場合は月が太陽を覆い隠すため、太陽と地球の間に月が入った時のみ、即ち新月の時しか発生しない。
では月食と日食、どちらが起きる確率が高いのだろうか。
ほとんどの人は「月食」と答えるだろう。
ところが、実際には日食の方が発生する頻度が高いのだ。
でも「月食は見たことはあるけど、日食はない」と答える人が多いのではないか。
なぜ月食の方が多いというイメージなのかと言えば、日食は地球上でも起こる場所が限られているからである。
ましてや、皆既日食や金環日食となると起きる地域はほとんどピンポイントだから、滅多に見ることはできない。
仮に見えたとしても、ほんの数分である。
しかし、月食は月さえ見えていれば地球上のどの場所でも見ることができるのだ。
その上、皆既月食も起こりさえすれば広い地域で見られ、長い時なら1時間以上も観測できるために、皆既日食ほどの希少価値はないと言える。
とはいえ、やはり貴重な天体ショーであることに変わりはない。
特に今回は、月食が始まるのが夕方の月出とほぼ同時刻で見やすい時間帯であり、さらに皆既月食が1時間も続くなど、かなり好条件だ。
もちろん僕も、月食が始まるのを待った。
だが、部分食が始まる18時14分頃の東の空は、雲が厚かった。
残念ながら、月の欠け始めは見られなかったのである。
雲は相変わらず厚く、月はなかなか顔を出してくれなかったが、ちょっとだけ出現した瞬間を狙ってシャッターを切った。
しかし、月光が雲に反射したためか、月がやや潰れた形になったのは残念。
雲がようやく薄くなってきた頃には、月の大部分が欠けていた。
ようやく観測のチャンスが訪れたのである。
そして、もはや皆既食を待つだけとなった、てっぺんだけ僅かに光っている月。
そして19時24分、遂に月は地球の影に完全に隠れてしまった。
その時を待っていたかのように、雲は完全になくなったのである。
それにしても不思議なものである。
皆既月食とは、月が地球の影に完全に隠れている状態、即ち日光が届いていないはずなのに、上の写真を見ればわかるように暗いながらも月はちゃんと見えているのだ。
なぜ、光が当たっていないのに、月が見えるのだろう?
実は、皆既月食の時に見えているのは、地球からの反射光なのだ。
地球には大気があるため、日光が屈折して月に当たっているのである。
月食の時には地球が月に影を作り、地球からの反射で僅かながら月を光らせる。
影と光、この相反するものを地球が月に提供しているのだから、不思議なものだ。
ここが日食との根本的な違いである。
太陽は自分で光っているので、皆既日食の時に見ているのは月の影ではなく月そのものだ。
そのため、皆既日食の時は黒い太陽になり、皆既月食のように光ってはくれない。
だが、月は自分では光らないため、皆既月食の時に見ているのは地球の影に過ぎない。
つまり、月食を見るということは、我々の影を見ているということなのだ。
当たり前と言えば当たり前だが、そう考えて皆既月食を見ると、不思議な気分にとらわれる。
自分で自分を見ているのだから。
逆に言えば、地球で月食が見られる時は、月では日食が見られるはずだ。
月が地球の影に入っているのだから、月から見て太陽は地球に隠されているわけである。
地球の直径は月の4倍もあるので、皆既日食も地球上に比べて容易に見ることができるだろう。
皆既月食の間はすっかり晴れていたので、じっくりと観測することができた。
皆既月食の色は大気中の状態によって変わるが、今回はあまり赤くはならなかった。
中学生の頃、姉と一緒に一晩中、月食を見たことがあったが、あの時の皆既月食は赤かったのを憶えている。
今回の月食は暗めということだろうか。
だが、暗い皆既月食でも、天体望遠鏡ではクレーターなどもバッチリ見ることができた。
カメラでは、ズームすると普通の満月よりも皆既月食の方が、月の表面を見やすいぐらいである。
天体望遠鏡で月の表面を見ても、やはり不思議な気分になる。
38万kmも彼方の星が、これほどクッキリと見えるのだ。
こんな近くに天体があるなんて、地球人は幸せである。
また、今回は月の近くに天王星があるということで、この遠い惑星を観測するチャンスでもあった。
皆既月食で暗くなると、6等星というほとんど見えない星でも、月を目印にして見つけやすくなる。
月の右側、月の直径の1~2個分ぐらいのところにあるらしいので、そちらに望遠鏡を向けると、確かに暗い星があった。
もしあれが天王星だとすれば、生まれて初めて見たことになる。
もちろん、あの星が天王星かどうかなんて確かめようがないのだが。
皆既月食も終わりに近付き、月が完全に隠れてからちょうど1時間経った20時24分、月は再び顔を出し始めた。
あとは丸々太っていくだけである。
上の写真を見ると「月食」と名付けた昔の人に感服するばかりである。
本当に月が食べられているようではないか。
普段の月の満ち欠けでは、こんな形にはならない。
そして、食の部分が50%より少なくなると月は俄然輝きだし、やはり月の明るさがよくわかるのである。
そして21時34分、月は再び元の満月に戻った。
今回の天体ショーはこれでおしまい。
地球から最も近い星でありながら、これほどまで宇宙の神秘を感じさせてくれたのである。