今年(2016年)の場合、6月21日に夏至となる。
北半球に住む人にとって、太陽が最も近く感じる日だ。
日本の場合は梅雨の季節でもあるし、地熱も暖まってないので8月ほど暑くないが、紫外線が最も強くなる季節である。
夏になると、誰もが思うだろう。
「太陽ってなんで、こんなに熱いの?」
と。
外を歩くと汗だくになり、みんな日陰を求めて直射日光を避けようとする。
太陽は約1億4960万kmも離れているのに、地球をこれだけの灼熱地獄に陥らせるのだから、いかに巨大なエネルギーを秘めているかわかるだろう。
ところで、誰でもこんな疑問を持つのではないだろうか。
太陽は、全宇宙ではどれぐらいの規模に位置づけられるのか、ということを。
子供の頃、太陽は空の王様で、最も大きくて明るいと思っていたが、小学校高学年か中学校の理科では、宇宙には太陽よりも大きくて明るい星はたくさんあるということを習う。
でも、太陽が何位ぐらいの明るさなのかまではわからない。
夜空に輝く星の中で、1等星と呼ばれる明るい恒星(太陽のように燃えている星)は21個ある。
星の明るさは等級によって表され、等級が少ないほど光度が増す。
たとえば、1等星の明るさは2等星の2.5倍であり、2等星のそれは3等星の2.5倍だ。
同じ1等星でも、明るさによって等級は細かく分けられる。
四捨五入して1等星になる星、即ち1.5等星より明るい(1.49等星以上)恒星が1等星に分類されているわけだ。
七夕の空に輝く彦星ことわし座のアルタイルは0.8等星、織姫星と呼ばれること座のベガは0等星と、ベガの方がやや明るい。
アルタイルやベガと共に夏の大三角を形成するはくちょう座のデネブは1・3等星と、1等星の中では暗い星ということになる(21個中19位)。
1等星の中で、つまり恒星の中で最も明るいのは、冬の星座として知られるおおいぬ座のシリウスで、マイナス1.5等星という圧倒的な光度を持つ。
ちなみに太陽はマイナス26.7等星で、これら1等星とは問題にならない明るさである。
ただし、今まで話してきたのは地球から見た場合の明るさだ。
明るさは距離の2乗に反比例し、当然のことながら近いほど明るく、遠いほど暗くなる。
たとえば、先に挙げたシリウスは、地球からの距離が8.6光年と比較的近い。
なお、1光年とは光の速さで1年かかる距離のことだ。
太陽の光は地球まで8分19秒で到達し、光年に直すと0.000016光年の距離ということになる。
地球から最も近い恒星(太陽を除く)は、ケンタウルズ座のα星で4.4光年の距離だ。
マイナス0.1等星と、太陽を除く恒星では3番目の明るさなのに、有名な名前が付いていないのは、南天の星座で北半球からは見えにくいからだろう(一応リギル・ケンタウルスという名前はある)。
アルタイルは17光年、ベガは25光年と比較的近いが、シリウスに次いで2位の明るさを誇るりゅうこつ座のカノープス(マイナス0.7等星)は309光年と、圧倒的に遠い。
それでもケンタウルズ座α星よりも明るいのだから、それと同じ4.4光年の位置にあったとしたら、どれだけの光度になるのだろう。
地球から見た明るさを視等級といい、実際の明るさを絶対等級という。
絶対等級は、地球から10パーセク、即ち32.6光年離れた場所に星があった場合の明るさだ(1パーセクは3.26光年)。
ちなみにカノープスの絶対等級はマイナス5.6等級で、シリウスの1.4等級よりも遥かに明るい。
それでもシリウスの絶対等級は明るい方で、ケンタウルズ座α星は4.3等級とかなり暗い星になる。
ベガは0.6等級で視等級とさほど変わらず、アルタイルは2.2等級でやや暗い。
彦星様も織姫様には頭が上がらないといったところか。
夏の大三角の中で最も暗いデネブの絶対等級はマイナス6.9等級と、アルタイルやベガとは比べ物にならないほど明るい星ということになる。
なにしろデネブまでの距離は1411光年と、アルタイル(17光年)やベガ(25光年)よりも遥かに遠いのに、1.3等星という光度を保っているのだから。
ちなみに1等星の中で絶対等級1位はオリオン座のリゲルで、マイナス7等級の明るさだ(2位はデネブ)。
では、我らが太陽の絶対等級はどうか。
地球から32・6光年離れた太陽は、どれぐらいの明るさに見えるのだろう。
よく似た距離の1等星は、36.7光年にある4位のうしかい座・アークトゥルスで0等星だ(絶対等級はマイナス0.3等級)。
太陽の絶対等級は……、なんとたったの4.8等級。
ケンタウルズ座α星の4.3等級よりも、まだ暗い。
肉眼で見える星は6等星までと言われているが、東京や大阪などの大都会では4.8等星を見つけるのはまず無理だ。
もしアークトゥルス系の惑星に宇宙人がいたとしても、太陽は名前すら付けてもらえないだろう。
1等星の中で太陽よりも暗い星はなく、唯一似ているのはケンタウルズ座α星だけだ。
いや、2等星まで枠を拡げても、絶対等級が4等級台なのは太陽とケンタウルズ座α星だけで、3等級台の恒星すらない。
太陽は、宇宙的に見ればかなり暗い星の部類に入るのである。
しかも、我々地球人が見ている星は、銀河系の中でも極々近い距離にある。
先述したデネブまでの距離は1411光年、1等星、2等星を合わせて最も遠い距離にあるのがおおいぬ座のη星で1988光年だが、銀河系の直径はなんと約10万光年(半径は5万光年)もあるのだ。
太陽系があるのは、銀河系の中心部から約2.8万光年も離れた、ハッキリ言うと田舎である。
某都知事ふうに言えば、銀河系の中心が東京23区部で、太陽系は奥多摩にあるといったところか。
2000光年ぐらいなら明るい星だと「星」と認識できるが、それより遠くなると肉眼では星とはわからず、天に流れる川のように見える。
それが、七夕の日に彦星様と織姫様が年に一度だけデートする天の川だ。
地球は銀河系の中にいながら銀河系を俯瞰できるのは、銀河系の端っこにあるからかも知れない。
銀河系の中心部から見れば、太陽なんてあってなきが如しの存在だろう。
こんなちっぽけな恒星系に高等生物が宿っているなんて、想像すらできないに違いない。
なお、星の明るさが温度に比例するわけではないが、太陽の表面温度は6,000℃と恒星の中ではかなり低い。
ちなみに、地球から見える最も温度が高い星は2等星のとも座・ζ星(ナオス)で、表面温度はなんと42,000℃(1083光年、絶対等級はマイナス5.4等級)。
太陽の7倍も熱い。
夏になると「太陽はなんて熱いんだ」と思ってしまうが、実際には暗くて温度が低い恒星、空の王様どころかハッキリ言うとかなりショボい星だということがわかる。
もし太陽の距離にナオスがあったとしたら、地球はどうなるか。
金星どころの灼熱地獄ではなく(金星の表面温度は約460℃)、地球上の水は干上がってしまい、とても生命は育たなかっただろう。
太陽程度の暗くて温度が低い星で、地球ほどの距離を保ち、地球程度の大きさがあったからこそ、我々人類が誕生したのだ。
この奇跡的とも言える絶妙なバランスこそ、生命の源である。
地球が「奇跡の星」と呼ばれる所以だ。
宇宙規模から見れば暗くて温度が低い太陽も、ショボすぎるぐらいでちょうど良かった