2月10日、ショッキングなニュースが流れた。
近鉄花園ラグビー場が売却されるというのである。
身売り話自体は数年前から噂されていたので、遂に来るべきものが来たか、という感じだ。
花園とはご存知の通り、高校ラグビーのメッカである。
もちろん高校ラグビーだけでなく、トップリーグに所属する近鉄ライナーズ本拠地であり、大学ラグビーでも使用される。
東京の秩父宮ラグビー場と並んで、日本を代表するラグビー場と言えるだろう。
もちろん、数々のテストマッチ(国の代表チーム同士による対抗戦)も行われてきた。
花園は野球場以外では珍しく、近畿日本鉄道(近鉄)という私企業が建設・運営している競技場だ。
建設されたきっかけは、1928年(昭和3年)にラグビーファンの秩父宮殿下が、当時の大阪電気軌道(大軌=現在の近鉄)に乗車した時に発した一言だという。
「この辺りは土地が余ってるね。ラグビー場でも造れば会社の利益も上がるよ」
だがこの時は、大軌の社員は秩父宮殿下の言葉を本気にしてなかった。
しかし、同年に再び大軌電車に乗った秩父宮殿下は、
「まだラグビー場は出来ないの?」
と言ったために、大軌の社員は「秩父宮殿下は本気だ」と悟って、遂に翌29年(昭和4年)に、日本初のラグビー専用競技場である花園ラグビー場が完成した。
このエピソードからわかるように秩父宮殿下は相当なラグビー好きで、東京の秩父宮ラグビー場の名前が秩父宮殿下から取ったのは言うまでもない。
と言っても、花園は高校ラグビーのために造られたわけではない。
高校ラグビー(当初は中等学校を中心に、大学も参加していた)が始まったのは18年(大正7年)だが、花園が高校ラグビーの全国大会会場として使用されたのは63年(昭和38年)からと、意外にも歴史が浅い。
甲子園が高校野球(当時は中等野球)の全国大会会場として使われだしたのは24年(大正13年)からで、花園に比べるとずっと古いのだ。
それもそのはず、甲子園は阪神タイガースのためではなく、中等野球(現在の高高校野球)のために造られた球場だからである。
なぜ「花園」という名称になったのかといえば、この辺りの土地が「花園」だからである(現在の正確な地名は、東大阪市松原南)。
このあたりも、「十干と十二支の最初の年である、甲(きのえ)と子(ね)の年」に完成したことが由来である甲子園とは異なる。
しかし現在では甲子園と同じように、「花園」と言えば高校ラグビーと、完全に名称が根付いている。
しかし、とうとう花園ラグビー場は売却されることになった。
遂に私企業の手から離れるわけだ。
東大阪市は「ラグビーの街」というスローガンを掲げており、2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップの招致運動をしている。
従って、花園ラグビー場がぞんざいな扱いをされることはないだろう。
だが、W杯招致となると、問題が山積みされている。
花園にはナイター設備がないので、W杯にはナイター化が必須条件だ。
また、花園には電光掲示板はあるものの、再生画像が可能な大型ビジョンがない。
それに、花園の公称収容人員は3万人となっているが、実際には第1グラウンドのキャパシティはせいぜい2万人ぐらい。
W杯開催基準を満たしているが、現実的にはせめてあと1万人ぐらいのスタンド拡張は必要だろう。
となると、それだけの改築費用が東大阪市にあるのか。
日本最大手の私鉄である近鉄ですらギブアップした、グラウンドの維持費などを東大阪市という政令指定都市でもない東大阪市が賄えるのか。
しかも、W杯招致となれば、大幅な改修が必要なのだ。
それだけの血税が使われるのなら、市民の理解も必要だろう。
ただでさえ、現時点での買取額は50億円だという。
また、花園ラグビー場が近鉄の手から離れるとはいえ、最寄駅である近鉄奈良線の東花園駅は、W杯開催となると改築も必要だろう。
現在、東花園駅は高架工事を行っており、既に下り線(大阪難波から近鉄奈良に向かう方面)のホームは完成している。
だが、ラグビーの観客が1万人に満たない日でも、試合開始前の東花園駅の下りホームはまともに歩けないほど混雑しているのだ。
下り線の改札口が1ヵ所しかないのだから、混雑して当然である。
なぜせっかく高架工事を行ったのなら、満員の乗客に対応できる改札口を設置しなかったのか。
W杯に合わせてまた駅の改修工事となると、まさしく二度手間で、費用も更にかさむ。
このあたりの計画性はなかったのか?
東大阪市の話に戻すと、これだけの費用を捻出するにはネーミングライツするしかあるまい。
その際、ぜひとも「花園」の名称は残してもらいたいものである。
まあ、おそらく「ラグビーの街」たる東大阪市は「花園」の名を残してくれるものと信ずる。
ただ、いくら「花園」の名を残しても、
「花園華生堂ラグビー場」
「東京インスタント食品スタジアム花園」
なんてブサイクな名称にはならないように望む。
(注:企業名は架空のもの)