プロ野球には球団記号というものがある。
チーム名を全て書くと長くなるので、1文字か2文字のアルファベットでチームを表す、というものだ。
一番多く見られるのがスコアボードで、チーム名をわざわざ書かずに「G」とか「T」とかで済ませてしまうのである。
例えばスコアボードに「H」と書いてあれば、それは福岡ソフトバンク・ホークスを表し、「F」ならば北海道日本ハム・ファイターズのことであり、長ったらしいチーム名もたった1文字(あるいは2文字)で表現できる。
文字数が限られているスコアボードでは、球団記号というのは非常に便利だ。
球団記号が活躍するのはスコアボードだけではない。
オールスター戦のファン投票でも球団記号が使われる。
ファン投票には球場などで備え付けられているマークシート方式の投票用紙を使用するのが一番手っ取り早いが、球場に行けない人、パソコンや携帯電話を利用できない人は、昔ながらのハガキ投票も可能だ。
その際、守備位置記号と背番号、そして球団記号を書く。
例えば東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大を先発投手として投票したい場合は「守備位置(1)−1、背番号18、球団名E」と書けばよい。
「(1)−1」は先発投手、「18」はマー君の背番号、「E」は楽天を表す。
各球団の球団記号とは以下のようになっている。
【パシフィック・リーグ】
福岡ソフトバンク・ホークス=H
北海道日本ハム・ファイターズ=F
埼玉西武ライオンズ=L
オリックス・バファローズ=Bs
東北楽天ゴールデンイーグルス=E
千葉ロッテ・マリーンズ=M
【セントラル・リーグ】
中日ドラゴンズ=D
東京ヤクルト・スワローズ=S
読売ジャイアンツ=G
阪神タイガース=T
広島東洋カープ=C
横浜DeNAベイスターズ=DB
原則として愛称の頭文字を採っているのがわかる。
よくわからないのが楽天で、「ゴールデンイーグルス」なのだから「GE」にすればいいのに、と思う。
これは巨人の「G」と紛らわしくなるのと、元々は「イーグルス」という愛称にしようとしたところ、商標権の関係で使用できなくなり、「ゴールデンイーグルス」という長い名前になってしまった、という経緯があるのだろう。
現在でも楽天のユニフォームは「EAGLES」とは書かれているが「GOLDEN」は付いていない。
オリックスの「Bs」もわからない。
オリックス・ブルーウェーブと大阪近鉄バファローズが合併して出来た球団なのだから、バファローズの愛称を引き継いだのならば球団記号も近鉄時代の「Bu」にすればいいだけの話なのだが、帽子のマークそのままに「Bs」に変えてしまった。
おそらく経営母体が変わったので、近鉄時代の匂いを消したかったのだろう。
ちなみに近鉄の球団記号がなぜ「Bu」だったかと言えば、オリックスの前身である阪急ブレーブスの存在があったからだ。
阪急の球団記号は「B」で、後発球団の近鉄は区別するために前2文字を取って「Bu」にせざるを得なかった。
阪急はその後オリックスに身売りされてオリックス・ブレーブスとなり、さらにオリックス・ブルーウェーブと改称した時に「BW」と球団記号を変えた。
近鉄は「Bu」のままだったのだから、ブレーブスからブルーウェーブに変わったからと言って球団記号は「B」のままで良かったはずだが、結局は「BW」に変えてしまった。
こちらも阪急色を消したかったのだろうか。
つまりオリックスは球団記号を「B→BW→Bs」と、頭文字は変わらないのに3度も変更していることになる。
日本プロ野球リーグ創設時からずっと参加してきた阪急球団の伝統を受け継いできたのだから、球団記号は栄誉ある「B」を堂々と使用していれば良かったのではないか。
今季から球団記号が変わるのが、経営母体が変わった横浜DeNAベイスターズの「DB」である。
去年までの横浜ベイスターズの球団記号は「YB」だった。
前身の横浜大洋ホエールズ時代の球団記号は愛称の頭文字である「W」だったが、市民球団を目指し企業名を外して横浜ベイスターズと名乗ってからは「YB」になったわけだ。
ベイスターズなのだから「BS」にすればいいと思ったのだが、その時には既に「B」を頭文字とする球団はオリックスと近鉄があったので、3球団も「B」が頭にくる球団記号があるとややこしいから、やむなく「YB」としたのだろう。
その判断は間違いないと思うのだが、なぜDeNAに球団譲渡されたからと言って、球団記号を「DB」にする必要があるのだろう。
「横浜」の名前が残っているのだから「YB」のままでいいではないか。
横浜ベイスターズの親会社であるマルハからTBSに球団譲渡した時、チーム名は変わらずに球団記号も「YB」から変わらなかった。
つまり、経営母体が変わったからといって球団記号を変える必要はないのだから、「YB」から「DB」に変える理由はないはずだ。
そもそも「D」は同じセ・リーグである中日の球団記号なのだから、「DB」になるとファンから見ればますますややこしくなる。
ついでに言えば、日本名での略号も問題となる。
例えば「阪神―巨人」の試合ならば、新聞等では「神―巨」と書いたりする。
ちなみに阪神がなぜ「阪」ではなく「神」なのかと言えば、かつて存在した阪急と区別するためだが(阪急は「急」と表記されていた)、基本的にはチーム名の最初の文字を採用していた。
横浜ベイスターズも「横」と表記されていたが、DeNAの買収によって今季からは「D」と表記されるようである。
なぜこんなことをするのだろう?
「D」と言えば、プロ野球ファンはドラゴンズをイメージする。
例えば「横浜DeNA−中日」の試合は「D−中」と表記されるわけだ。
横浜という文字が頭にあるのだから「横」のままでいいではないか?
そこまでしてDeNAの名前を売りたいのか、と思ってしまう。
経営が行き詰まってどうしようもなくなったベイスターズを救ってくれたDeNAには感謝するが、プロ野球という文化をもう少し理解してもらいたい。
アメリカのメジャーリーグでも球団記号はあるが、こちらは30球団もあるので、とても1文字のイニシャルでは表現できない。
2文字か3文字で球団名を表記する。
ただし愛称ではなく、都市・地域名の球団記号となる。
例えばサンフランシスコ・ジャイアンツならサンフランシスコ市を表す「SF」、ダルビッシュ有が入団したテキサス・レンジャーズならテキサス州の「TEX」といった具合だ。
同じ都市に2球団ある場合はどうするか?
ニューヨーク・ヤンキースなら「NYY」、ニューヨーク・メッツは「NYM」と表記する。
30球団あっても、3文字あれば区別はつく。
それ以上に、メジャーでは都市・地域名優先というのが特徴だろう。
地域密着というスポーツ文化が、球団記号にまで現れているといえる。
日本のように愛称優先というのはいいのだが、そこに企業の論理が介入すると、不純なものを感じてしまう。