週刊ベースボール(ベースボール・マガジン社)の今週号(5月30日号)は「変化球バイブル」特集だった。
各球団のエースたちが投げる、「魔球」ともいうべき珠玉の変化球を紹介したものである。
しかし、いかに優れた魔球といっても打たれることはある。
野茂のフォーク、ダルビッシュのスライダー、マー君のスプリットだって打たれることはあるが、だからといって彼らはこれらの魔球を封印することはない。
だが、野球漫画の世界では、魔球を打たれたら「この世の終わり」とばかりに投手は絶望し、マウンドにひれ伏して涙を流しながら、この魔球はもう通用しないと悟って、二度とその魔球を投げることはなかった。
そんな魔球のベスト5を紹介しよう。
もっとも、僕が見た魔球だけを集めたので「あの魔球が入ってないじゃんか!」などという抗議は一切受け付けないのであしからず。
第5位
消える魔球(大リーグボール2号)=星飛雄馬【巨人の星】 読売ジャイアンツ
星飛雄馬の魔球といえば、やはりコレ。
というより、全ての魔球の原点が「消える魔球」だろう。
大リーグボール1号はわざとバットに当てさせ、大リーグボール3号は超スローボールでバットの風圧により当てさせないという魔球だったが、いずれにしてもセコイ魔球というイメージは拭えない。
しかし「消える魔球」は、文字通りボールが消えてしまうという究極の魔球だ。
その理論も、父親の星一徹から教わった魔送球を駆使して、砂煙によりボールを消してしまうという説明までされていた(そんなんでボールが消えるんかい!というツッコミはなしで)。
なにしろ、エポックス社の野球盤にさえ、消える魔球装置が付けられたほどである。
だが、消える魔球の秘密を悟られた花形満(阪神タイガース)によって、消える魔球は打たれてしまった。
消える魔球
第4位
こちらは「消える魔球」とは全く逆の、ボールが多く見えてしまうという魔球。
番場蛮の魔球といえば「ハイジャンプ魔球」「エビ投げハイジャンプ」「大回転魔球」といったものがあるが、いずれも魔球といいながら全く変化せず、単なる剛速球というもの(原作では「ハラキリ・シュート」という魔球があったようだが、こちらは読んでいないので無視)。
しかし「分身魔球」は凄い変化を見せる、まさしく魔球といっていい。
その理論も「消える魔球」以上に完璧で、硬球を握り潰して重心を無くしてしまい、ボールを分身させるというもの(しかし、キャッチャー・ミットに収まった時は、なぜかボールが元に戻っている)。
似たような魔球を星飛雄馬も大リーグボール右1号(蜃気楼の魔球)で投げていたが、こちらはボールが3つしか分かれず、しかも理論的説明はなかった。
それに対し「分身魔球」はいくつものボールに分かれ、「蜃気楼の魔球」よりは遥かに上と言ってよい。
「分身魔球」には「横分身」と「縦分身」の二種類があり、「横分身」は水平打法で攻略できるが、「縦分身」はなかなかそうはいかなかった。
「横分身」はウルフ・チーフ(阪神タイガース)が、「縦分身」はメジャー・リーガーのロジー・ジャックス(オークランド・アスレテックス)が打っている。
なお、その後の番場蛮は「ハイジャンプ魔球」「大回転魔球」「分身魔球」をミックスさせた「ミラクル・ボール」でロジー・ジャックスを三振に打ち取ったが、なぜそんな変化を見せたかがわからないし、破れかぶれの一球だったので「分身魔球」の方を選んだ。
分身魔球
第3位
こちらは梶原一騎作品と違って、野球を熟知した水島新司による「いかにもありそうな」魔球。
しかも、「ドリームボール」があるぞ、あるぞと思わせておいて打者の裏をかき、平凡なカーブやシュートで打ち取ってしまうという、野球の駆け引きを持ち込んだ、いかにも水島新司らしい魔球。
しかも、物語の途中では「ドリームボールなんて、本当はないのでは?」と読者にすら思わせる手法がニクイ。
「ドリームボール」はフォークボールのように人差し指と中指でボールを挟むが、指は縫い目に沿っており、さらに下手から投げるのでボールはホップし、その後は揺れながらスクリューボールのように落ちていく(なんでそんな変化をするのか、よくわからんが)。
「ドリームボール」は、水原勇気の師匠とも言うべき武藤兵吉によって破られた。
ドリームボール……、と思わせておいて、シュートで武藤兵吉を三振に打ち取った水原勇気(ただし、このケースでは2ストライク目を取られた衣笠祥雄に三振が記録される)
第2位
殺人L字ボール=無七志(能登与一)【アストロ球団】 ブラック球団
魔球といえば、やはり「アストロ球団」を出さないわけにはいかない。
しかも、主人公球団の「アストロ」ではなく、敵役の「ブラック球団」からのエントリー。
「アストロ」のエース・宇野球一も「三段ドロップ」や「ファントム大魔球」なんて魔球を数々開発したが、結構打たれているし、そもそも「三段ドロップ」なんて元々は沢村栄治が投げていたもの(もっとも、宇野球一のようなメチャメチャな変化があったとは思えないが)。
それに比べれば、無七志の「殺人L字ボール」は誰にも打たれていないどころか、その名のとおり実際に「アストロ」の上野球二(初代)をこの魔球で殺してしまっている。
球速そのものは遅いのだが、ボールの回転によりバットがボールに絡みつき、バットから体、そして脳天にまでボールが達してしまうので、本当に打者を殺してしまうのだ。
しかし、既に引退していた川上哲治によって「殺人L字ボール」は破られた。
といっても、川上は右打席に入ってから投げた直後に左打席に移っており、当然のことながらルール違反で「殺人L字ボール」は破られたとは言えない。
もっとも、無七志自身は負けを認め、約束通り読売ジャイアンツに入団し「殺人L字ボール」は封印した。
第1位
みのがして下さい魔球=ヤスダ【がんばれ!!タブチくん!!】 ヤクルト・スワローズ
ヤスダは、当時のヤクルト監督だったヒロオカとは反りが合わなかったが、隠れて新魔球の開発に取り組んでいた。
キャッチャーのオーヤにとっては迷惑だったが、やむなく新魔球開発に協力していた。
もっとも、実際の試合でヤスダの新魔球が通用したことはなかったが。
そして遂に、ヤスダがいうところの「心理学と電子工学を駆使した、画期的な魔球」が生み出された。
それが「みのがして下さい魔球」である。
ボールそのものがゼンマイ仕掛けになっており、ボールが口を開けながら「みのがして下さい、みのがして下さい」を連呼するのだ。
ただし、これは明らかにルール違反であり、実際に試合で投げたことはない。
みのがして下さい魔球(6分7秒頃から)