地球にいちばん近い天体・月。
今から47年前の1969年(昭和44年)、アメリカ合衆国の宇宙ロケットであるアポロ11号が月面着陸、地球人類が初めて地球以外の天体に足を踏み入れた。
もちろん、月へ初めて行ったのがアメリカ人だからといって月はアメリカ所有の領土ではなく、全ての人類が共有すべき財産だ。
また、将来的な人口増加を見据え、月への移住構想もある。
ところが、人類が初めて月へ降り立つ98年前、月は日本の領土だったのだ。
その証拠に、日本には「三日月県」が存在したのである。
ん?「三日月」と形が特定されているということは、半月や満月の時は別の国の物だったのか?
例えば満月の時はアメリカに「フルムーン州」が出現したとか。
そうではなくて、日本に三日月県が生まれたのは、廃藩置県が行われた1871年(明治4年)7月のこと。
現在も兵庫県佐用郡佐用町に三日月という地名があり、2005年(平成17年)まで三日月町という町名が存在したが、同年の平成大合併により佐用町に吸収された。
江戸時代、この地域に三日月藩があり、廃藩置県によって三日月県となったのである。
しかし、壮大なスケールの県名である三日月県は長く続かなかった。
誕生して僅か4ヵ月後の同年11月、三日月県はあっけなく消滅したのである。
なぜなのだろうか。
実はこの時の廃藩置県とは、江戸時代から続く藩をそのまま県に置き換えただけだったのである。
明治新政府は欧米の列強に対抗するため強力な中央集権国家の建設を目指し、江戸幕府の幕藩体制を解体させようとした。
その第一弾が1868年(慶応4年)4月に行われた「府藩県三治制」である。
旧幕府の領地を没収して新政府の直轄地とし、3府41県を置いたのだ。
この数だけ見ると、現在の47都道府県とさほど変わらないように思えるが、この44府県は日本のほんの一部であり、まだまだ全国には多数の藩が残っていたのである。
そこで3年後の1971年に、前述した廃藩置県が行われたわけだ。
ところが、この頃にあった藩の数がハンパではなかった。
廃藩置県により全ての藩は消滅したが、藩をそのまま県に置き換えただけだったので、この時の府県数はなんと3府302県、即ち305府県だったのだ。
現在の47都道府県に比べると、実に6.5倍もの数である。
そのためこの頃には川越県、小田原県、豊橋県、岸和田県、福山県、久留米県など、今から見ると実に狭い範囲の県が多数存在したのだ。
もちろん、三日月県もその一つである。
現在の大分県大分市には「府内県」なんていう、大阪や京都の府民から「府内なんか県なんか、どっちやねん!?」とツッコまれそうな県もあった。
しかし、さすがに305府県では多すぎるということで、4ヵ月後には県の統廃合が行われた。
これにより、3府302県から3府72県と4分の1に激減し、中央集権国家としての体裁が整えられたのである。
この時、三日月県は姫路県に吸収され、たった4ヵ月で消滅した。
その姫路県も、僅か1週間後には播磨県と改称している。
それから5年後の1876年(明治9年)8月に播磨県は兵庫県に吸収合併された。
それ以来、三日月は兵庫県の所属となっている。
つまり、三日月は兵庫県の領土なのだ。
半月や満月の時には、どこの領土になっているのかは知らないが。
ちなみに愛知県大府市には「半月(はんつき)町」がある。
さらに佐賀県には「三日月(みかつき)町」がかつてあった。
ついでに言えば、現在の滋賀県知事は三日月知事である。
「三日月県知事」と言っても、今では「三日月県の知事」を意味しない。
三日月県や三日月町は消滅したが、JRの姫新線には三日月駅がまだ存在する。
まるで「銀河鉄道999」に出て来そうな駅名だ。
地名としての三日月は、まだまだ生き続けるだろう。