今日は総合学園ヒューマンアカデミーのセミナーに行ってきた。
前回はラグビーワールドカップ2019日本大会のセミナーに参加したが、今回は女子サッカーのスペランツァFC大阪高槻の代表取締役社長である横山稔氏を講師に招いての講義である。
実は2008年に、やはり女子サッカーのINAC神戸レオネッサのセミナー(ヒューマンアカデミーとは関係ない)に参加したことがあったが、あれから6年、女子サッカーはどう変わったのだろうか。
2008年当時、女子サッカーはマイナーな競技で、ほとんど注目されてなかった。
日本女子サッカーリーグ(一部リーグの通称:なでしこリーグ)も入場料は無料だったのである。
しかし2011年、FIFA女子ワールドカップで日本代表(通称:なでしこジャパン)が優勝し、団体として初めて国民栄誉賞を受賞したことにより、女子サッカーの環境が激変した。
なでしこブームが巻き起こり、澤穂希や川澄奈穂美などのスター選手が生まれテレビ局には引っ張りダコ、なでしこリーグは有料化されたにもかかわらず大勢の観客が詰め寄せ、無料でも閑古鳥が鳴いていた前年までとは180度変わったのである。
翌年のロンドン・オリンピックでもなでしこジャパンは銀メダルを獲得、女子サッカー人気を不動のものとした。
僕がINACのセミナーに参加した頃を思えば、夢のような出来事である。
あの時に、誰がこんな状況を想像しただろう。
だが、それでも女子サッカーの現状は厳しいようだ。
それを説明する前に、スペランツァFC大阪高槻のことを記してみよう。
スペランツァFC大阪高槻はその名の通り、大阪府の北部にある高槻市をホームタウンとする女子サッカークラブである。
今年は二部リーグに相当するチャレンジリーグで戦い、見事に優勝を果たして、来季はなでしこリーグへの昇格を決めた。
スペランツァの歴史は意外に古く、発足したのは1991年で、前身は松下電器レディースサッカークラブ・バンビーナだ。
つまり、松下電器(現:パナソニック)という大企業がバックに付いていたのである。
この頃は日本女子サッカーの全盛期で、企業チームが目白押し、選手たちは大企業の社員として給料を貰える身分で、仕事も午前中だけで終えたあとは、午後から夜まで設備の整ったグラウンドでみっちりと練習ができたのだ。
しかし、バブル崩壊後の不況により、大企業は次々と撤退。
バンビーナも例外ではなく、松下電器の撤退によりスペランツァF.C.高槻というクラブチームに生まれ変わった。
それは取りも直さず、スペランツァ苦難の始まりである。
なにしろ、資金がないのだ。
横山氏がスペランツァの総監督に就任したのは、そんな苦難の真っ只中である2005年のことだ。
それまで横山氏は松下電器の社員で、少年サッカーの指導などしていたが、女子サッカーだけは関わりたくなかったという。
なぜなら、苦労するのはわかりきっていたから。
だが、松下電器から要望されて、結局はスペランツァの面倒を見ることになった。
なにしろ、チームの預金残高を見れば僅か17万円である。
17万円で、どうやってチームを運営しろというのだろう。
遠征費用だって、半分は選手の自己負担だ。
その選手たちも、サッカーを続けるなら試合や遠征で時間を取られるために正社員になるわけには行かず、派遣社員かアルバイトがほとんどである。
企業チームだった頃に比べると、環境は明らかに悪化している。
それでも、2011年のなでしこブームは追い風になった。
2012年に吉本興業の関連会社である「よしもとクリエイティブ・エージェンシー」と提携して「スペランツァFC大阪高槻株式会社」を設立することができたのである。
資金面で助かったのは言うまでもない。
とはいえ、チーム経営は潤沢な資金とは程遠い。
プロ契約している選手は僅かに1人、なでしこジャパンの一員である丸山桂里奈だけである。
丸山とて、スペランツァ生え抜き選手ではない。
ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの選手だったのだが、ひょんなきっかけから獲得できたのだ。
実は、チーム経営が苦しいのはスペランツァだけではなく、なでしこリーグ所属にしているチームでも、プロ契約している選手は1チーム当たりせいぜい2,3人しかいないという。
もちろん、日テレ・ベレーザのように大企業がバックに付いているチームもあるが、多くの選手は不安定な職業に就きながらサッカーをしている。
スペランツァの場合は、社長の横山氏が選手と一緒に就職活動をしているというのだから痛ましい。
横山氏が選手を引き連れて企業訪問をするが、就職に関する条件が、
●土・日・祝は完全に休みにして欲しい(試合や遠征があるため)
●残業は絶対にダメ。できれば午後4時に仕事を終わらせて欲しい(練習があるため)
●それでいて、月給15万円は欲しい(一人暮らしなら、最低でもそれぐらいの金は必要だから)
などと、企業側からすれば「お前ら、ホンマに雇って欲しいんか?」と思うような交渉をしていたという。
それでも、図々しい要求はしてみるもの。
こうした交渉により、いくつかの会社は選手を雇ってくれた。
現在、スペランツァのスポンサーとなっている企業の多くは、選手を受け入れてくれている会社である。
今のスポーツビジネスは、広告収入がないと成り立たない。
企業名を廃しているオールプロのJリーグだって、J1チームの収入の約6割が広告料だ。
入場料だけではあっという間に潰れてしまう。
あるJ1の名門チームは、「特別利益」として10億円を会計しているという。
つまり、負債が増えるとJリーグの規定に触れるため、親会社に赤字を補填してもらっているのだ。
横山氏によると、おそらくこの名門チームは来季も親会社から「特別利益」を融資してもらうだろう、と予想している。
地域密着と理想を振りかざしても、これが現実だ。
横山氏が最も悩んでいるのは、当然のことながらチームの資金繰りだ。
J1のチームでさえ広告料や親会社からの資金に頼らざるを得ないのだから、スペランツァが最もアテにしているのが広告収入である。
試合が有料になったとはいえ(当日券で大人1000円)、そんな収入は雀の涙であり、スポンサーが付かなければとてもチーム運営などできない。
さらに、スペランツァにとっての悩みのタネが、なでしこリーグには昇格・降格がある、ということだ。
これはもちろん、Jリーグだって同じことである。
もし、この制度がなくて、なでしこリーグにずっと参加できるのなら、長期的なチーム作りもできるだろう。
選手の育成・獲得はもちろん、地域に根ざしたクラブの活動だってできる。
実際にスペランツァは、選手たちが高槻の祭りに参加したり、チームロゴが入ったティッシュ配りをしたりと、地域密着の努力をしてきた。
でもそれは、試合や練習、そして仕事をしている合間では限界がある。
プロ野球(NPB)なら昇格・降格などないので、長期的なビジョンを建てることができる。
これが本当のプロスポーツだと横山氏は言い、羨ましく思っているのだそうだ。
スペランツァは、なでしこリーグとチャレンジーリーグを行ったり来たりで、なでしこリーグに定着したことがない。
なでしこリーグに所属している時と、チャレンジリーグの時とでは、スポンサーの付き方が違うというのだ。
やはり、なでしこリーグに昇格した時は多くの企業がスポンサーに付きたがるし、チャレンジリーグに降格すれば歯が抜けるように企業は撤退する。
そうすれば、スポンサーを得るためにも長期ビジョンよりも、とにかくなでしこリーグに昇格、もしくはなでしこリーグの座を死守するしかない。
結局は、目の前の成績を追わざるを得ないのである。
それに、サッカーは野球と違って、日本代表の成績がモロに国内リーグの人気に反映される。
野球では2013年のWBCで優勝できなくてもNPBの観客動員に影響はなかったが、サッカーでは日本代表の成績が振るわなかったら、Jリーグの観客動員が大きく左右される、と横山氏は言うのだ。
男子ですらそうなのだから、女子の場合はもっと深刻なのだという。
たしかに、最近ではなでしこリーグの報道をあまり聞かない。
スポーツビジネスというのは、それだけ難しい、ということなのだろう。
セミナーのあと、質疑応答の時間があった。
僕は、
「スペランツァさんの場合は、入場料と広告料、収入はどれぐらいの割合ですか?」
という、実に下らない質問をしてしまった。
当然、横山氏の答えは「ほとんどが広告収入です」というものだったが。
J1ですら、6割が広告収入なのだ。
おそらく、スペランツァの収入は、広告料が10割近いのではないか。
そんな質問よりも、僕は横山氏に提案をするべきだった。
つまり、スペランツァを活性化させる方法を。
それは、関ジャニの村上信五をスペランツァの応援団長に据えることだ。
高槻出身の村上は、この提案に乗るはずである。
そして、日テレの「月曜から夜ふかし」で、スペランツァを全国ネットで宣伝してくれただろう。
あ、そうなったら日テレ・ベレーザが黙っていないか(^_^;)