日本プロ野球(NPB)のペナントレースもいよいよ佳境に入ってきた。
これからセントラル・リーグ、パシフィック・リーグ共にリーグ優勝が決まり、さらにクライマックス・シリーズ(CS)のファースト・ステージとファイナル・ステージを経て日本シリーズに突入するという、野球ファンが最も胸を躍らせる季節である。
だが、現行のCS制度に異を唱える人も多い。
CS制度をもう一度おさらいすると、ペナントレースの2位チームと3位チームの間で3回戦制のCSファースト・ステージを行い(2勝勝ち抜け)、そこで勝ち抜いたチームとリーグ優勝チームが7回戦制(事実上6回戦制)のCSファイナル・ステージ(4勝勝ち抜け、優勝チームは1勝のアドバンテージあり)を行って勝ち抜いたチームが日本シリーズに進出する、というシステムだ。
この制度の最大の欠点は、勝率5割に満たないチームが日本一になる可能性がある、ということだろう。
幸い、今まで勝率5割未満のチームが日本シリーズに進出したことはないが、相撲で言えば負け越した力士が優勝するようなものであり、到底納得できることではない。
また、2010年の千葉ロッテ・マリーンズのように、リーグ3位から日本一に登り詰めた例もある。
そもそも、リーグ優勝したチームが日本シリーズに進出できないというのもおかしな話だ。
だったら、144試合もある長丁場のペナントレースはなんだったんだ、という声が出るのも当然だろう。
もっとも、こういう制度は他のスポーツではよくあることであり、例えばNBA(北米プロバスケットボール)では30チーム中プレーオフに進出するのは半分以上の16チームだったりするのだが、長年プロ野球を見続けてきたファンにとっては釈然としないものがある。
個人的にはこの意見に同調できるし、筆者自身も現行のCS制度は嫌いである。
だが今の時代、CS制度のようなポストシーズンが必要という面も否めない。
かつてのように、ペナントレースのみで優勝を競い、ポストシーズンは日本シリーズのみという制度では、ファンの興味も薄れるだろう。
そりゃ、1988年の10.19や、1994年の10.8のようなドラマチックな優勝争いになればいいのだが、そんなことが毎年起こるわけもない。
大抵の年は、9月になると消化試合ばかりとなり、ペナントレースには誰も関心を払わなくなる。
趣味が多様化した現代、Jリーグという強力なライバルもある中で、ファンの興味を繋がなければ生き残れない。
その点、現在のCS制度では消化試合が極端に減り、9月になってもファンの興味を引き付けているという点では、一定の成功を収めていると言えよう。
いわば、CS制度は必要悪とも言える。
とはいえ、多くの人にとって納得のいかない制度というのも事実だろう。
以前、ここでも言及した16球団制が実現すればこの問題は解決するのだが、4球団も増やすというのは一朝一夕でできるものではない。
そこで、現行の12球団制のままで、納得できるポストシーズンを考えてみた。
出た結論は、2シーズン制の復活である。
オールドファンなら憶えているだろうが、かつてパ・リーグでは前・後期制を採用していた。
つまり、ペナントレースを半分に割り(当時は1年130試合)、前期と後期に分けて優勝を争う、という制度である(前・後期各65試合ずつ)。
前期と後期の各優勝チームが5回戦制のプレーオフを戦い、3勝したチームがリーグ優勝となって日本シリーズに進出した(2位以下は1年間の勝率順となる)。
1973~82年までの10年間行われ、プレーオフは「ミニ日本シリーズ」としてパ・リーグの名物となったものである。
2シーズン制の良い面は、前半戦で負けが込んだチームでも、後期では優勝を目指せる、という点だ。
つまり、どのチームでもリーグ優勝のチャンスがあり、消化試合が少なくなるということである。
さらに、優勝の山場が前期リーグ戦、後期リーグ戦、プレーオフと3つもあり、両リーグでこの制度を採用すると合計6つ、日本シリーズを合わせると1年で7つもの山があるのだ。
それだけスリリングな展開が期待できる。
そして、新たなプレーオフではメジャー・リーグ(MLB)のリーグ・チャンピオンシップ・シリーズのように7回戦制(4勝勝ち抜け)とする。
もちろん、プレーオフで勝ち抜いたチームがリーグ優勝となるわけだ。
使用球場は、1・2戦および6・7戦は勝率が高いチームの本拠地球場、3~5戦は勝率の低いチームの本拠地球場とすればいい。
前期と後期の優勝チームが対戦するのだから、勝った方は堂々とリーグ優勝を名乗れるし、現在のように「リーグ優勝したのに日本シリーズに進出できない」という不公平感がなくなる。
だが、10年間で2シーズン制が廃止されたということは、要するに問題があったということだ。
前・後期制の問題点は以下の点が挙げられる。
①前期優勝したチームが、後期に「死んだふり」をする。
②前期と後期の優勝チームが同じだと、プレーオフが行われない。
③過密日程となり、選手に負担がかかる。
①と②は後回しにして、③の問題点を探ってみよう。
2シーズン制だった頃のパ・リーグでは、40連戦なんていう日程があった。
特に前期は、後期が始まる前に日程を消化しなければならなかったので、どうしても日程を詰めなければならなかったのである。
もっとも、実際には途中で雨天中止もあったので40連戦なんてことは起こらなかったが、日程を消化しきれずに後期に「前期残り試合」なんて消化試合を組み込んだこともあった。
しかし、現在ではドーム球場が多くなったので、当時に比べると日程消化は遥かに順調に行なわれている。
当時はドーム球場などなく、またグラウンド状態も悪かったので、ちょっとの雨で中止になることがよくあった。
でも現在では、オープンエアでも阪神甲子園球場のように雨天対策がバッチリの球場が増え、人工芝も透水性になったので、雨天中止は激減している。
試合数は当時よりも14試合も多くなったが、その分開幕日も早まった。
問題は、交流戦の存在だろう。
現在では5月から6月にかけて交流戦を一気に消化するスタイルだが、この方式では2シーズン制は不可能である。
そこで現在のMLBのように、交流戦(インター・リーグ)を別に行うのではなく通常のリーグ戦の中に組み込んでしまうのだ。
例えば、阪神×巨人戦が行われている同じ日に、別の球場では千葉ロッテ×中日戦という交流戦が行う、という具合である。
そうなれば、交流戦の優勝争いの興味が薄れそうだが、元々交流戦優勝なんてさほど注目されていないだろう。
それでも交流戦優勝を決めることもできるし、大きな問題とは思えない。
問題は日本生命がスポンサーとして残ってくれるか、ということだが、前期か後期のスポンサーになってもらうという手もある。
ただし、来年から交流戦の試合数は18に減るが、元の24試合に戻す必要があるだろう。
そうしないと、ホームとビジターの試合数が合わないからだ。
もちろん、他のリーグとの対戦の時は2連戦ということになる。
当然、交流戦以外の自リーグとの対戦も、今季までのように24回戦総当りとし、144試合制でいいだろう。
ただし、日程調整がきついようなら、試合数を減らすことも検討すべきだ。
日程は、かつてのように40連戦も組む必要はないが、日程を早く消化する工夫は必要だろう。
前述の交流戦の際には、2連戦の翌日を予備日にすべきだろうし、同一リーグでの対戦でも雨天中止があった場合は、次の同じ球場でのカードは、土日祝だったらダブルヘッダーにすることも考えられる。
また、梅雨時期となる6月下旬から7月上旬には前期を終わらせるようにし、現行の交流戦のように前期日程の後に予備日を設けておくべきだろう。
日程の方は工夫次第でなんとかなりそうだが、問題は①と②である。
この2つの問題は、相反するものかつ連動するものだろう。
①の「死んだふり」は、実際に行われたのかどうかは定かではないが、2シーズン制だった頃は確かにそんな噂があった。
有名なのが、2シーズン制初年度の1973年に、前期優勝した南海ホークスが後期は阪急ブレーブスに0勝12敗1分という惨憺たる成績に終わったことだ。
そしてプレーオフでは南海が3勝2敗で阪急を破ったため、「南海、死んだふりの優勝」と揶揄されたのである。
ただ、当時の阪急の実力は抜きん出ており、南海は決して死んだふりしていたわけではない、という説もある。
それに、実際には前・後期の完全優勝が理想なのだから、前期に優勝したからといって後期は手を抜く、ということは有り得ないだろう。
ただし、前期に優勝してしまうと後期はどうしても気が緩んでしまうかも知れないが、こればかりは良識によって克服してもらうしかない。
問題はむしろ、その前・後期完全優勝のチームが出た場合、つまり②のケースだ。
前期優勝のチームが後期も手綱を緩めないのは大変結構だが、この場合は当然プレーオフが行われなくなる。
つまり、1チームが独走状態で、ペナントレースもつまらないものになるだろう。
実際に、1976年と1978年は阪急が前・後期完全優勝だったため、プレーオフは行われなかった。
そこで考えたのが、前期と後期の優勝チームが同一の場合に限り行う「1シーズン制プレーオフ」だ。
この制度は、2シーズン制が廃止されたパ・リーグで、1983~85年の3年間だけ採用された。
そんな制度は知らない?
それもそのはず、制度自体はあったものの、実際にはこの3年間に一度もプレーオフは行われず、そのまま廃止になったのだから。
2シーズン制が10年間も続いたパ・リーグだったが、前述のような弊害が出たため、1983年から1シーズン制に戻した。
しかし、プレーオフは残そうとして、考え出されたのが2位チームにも優勝のチャンスを与える、という制度である。
と言っても、現在のCS制度のように2位チームが無条件でプレーオフに進出できるわけではない。
1位と2位のゲーム差が5.0以内だったら5回戦制のプレーオフを行い、レギュラーシーズン(130試合)とプレーオフ(5試合)を合わせた勝率で優勝を争う、というシステムだ。
例えば、レギュラーシーズン75勝55敗の1位チームと、70勝59敗1分の2位チームがプレーオフを行い、2位チームが5連勝すると、1位チームはトータル75勝60敗、2位チームは75勝59敗1分で逆転優勝となるわけだ。
もちろん、1位チームの勝率を2位チームが上回る可能性がなくなった時点でプレーオフは打ち切りとなる。
また、5ゲーム差以内であっても、2位チームがプレーオフで5連勝しても勝率で同率以上になる可能性がなければ、プレーオフは行われない。
そして、プレーオフが個人成績に反映されないのは当然だ。
この制度は、3年間で2位チームが1位チームと5ゲーム差以内になることがなかったため、プレーオフは行われないまま廃止になった。
ところが、廃止になった翌年の1986年に西武ライオンズと近鉄バファローズが激しい優勝争いをし、129試合目に西武の優勝が決まるというドラマチックな展開になったのは皮肉である。
もしこの制度がこの年も続いていたら、どんなプレーオフになっただろう。
そのプレーオフでさらに劇的な結末となっていたら、1シーズン制プレーオフは今でも存続していたかも知れない。
そして、今回の案ではプレーオフは7回戦制なので、当然のことながら7ゲーム差以内まではプレーオフの対象である(2位チームが1位チームに7連勝しても勝率で同率以上にならない場合を除く)。
使用球場は現行のCSファイナル・ステージと同じく、全て1位チームの本拠地球場だ。
7ゲーム差以内なら、プレーオフが行われる可能性が高いだろう。
でももし、7.5ゲーム差以上の独走優勝だったら……。
その場合は、プレーオフなしでもやむを得ない。
むしろ、前・後期完全優勝のうえ、2位チームに7.5ゲーム以上の独走だったら、堂々と日本シリーズに進出すべきだ。
この制度のいいところは、1位チームがたとえプレーオフで逆転優勝されても、全体の勝率で下回るので、不公平感がさほどなくなることである。
それに、現行のCS制度に比べて、1位チームが絶対的有利だ。
今回の提案をまとめると、以下のようになる。
A.セ・パ両リーグで前・後期制を採用する
B.前期と後期の優勝チームで7回戦制プレーオフを行い(使用球場は、1・2戦および6・7戦は勝率が高いチームの本拠地球場、3~5戦は勝率が低いチームの本拠地球場)、4勝したチームがリーグ優勝
C.前期と後期の優勝チームが同じ場合は、通算2位チームと7ゲーム差以内の場合に限り7回戦制プレーオフを行い(使用球場は全て勝率1位の本拠地球場)、レギュラーシーズンとプレーオフの合計勝率でリーグ優勝を決める
D.Cのケースで、プレーオフ7回戦を行って同率となれば、さらにもう1試合プレーオフを行って勝ったチームが優勝
E.前期と後期の優勝チームが同じで、なおかつ通算2位チームがそのチームに7連勝しても勝率で同率以上にならない場合は、プレーオフは行わない
いかがだろうか。
1シーズン制のダイナミックさと2シーズン制のスリリングさ、そして短期決戦の醍醐味を詰め込んだシステムだ。
もっとも、この制度が最善策とは思わないし、もっといい方法があるかも知れない。
最良の案を考え出すヒントになれば幸いである。