第92回全国高等学校ラグビーフットボール大会で、優勝した常翔学園に決勝戦で善戦したものの、14-17で惜しくも逆転負けして準優勝に甘んじたのが奈良県立御所実業だ。
今大会はBシードながら、準々決勝では東のAシードである秋田工(秋田)を17-12で破り、決勝戦でも西のAシード・常翔学園を後半にリードしながら、惜しくも逆転負けした。
しかし、個々の力では常翔学園に劣りながら、分厚いディフェンスで常翔学園を慌てさせ、得意のドライビング・モールで2トライを奪い、常翔学園をタジタジにさせた。
その独創的なラグビーは花園のファンの目に焼き付いただろう。
近年は高校ラグビーでも私学が優勢だが、そんな中で県立校ながら4大会前に続いて2度目の花園準優勝を果たした御所実は立派である。
奈良といえば、歴代4位となる全国優勝6回を誇る私学の天理の独壇場だった。
その天理の壁を越えたのが1995年度の第75回大会で、この時は旧校名の御所工業だった。
2大会後の1997年度、第77回大会で2度目の花園出場。
しかし、この頃はまだ注目される存在ではなかった。
最も注目を集めたのは、2008年度の第88回大会だろう。
春の選抜大会で準優勝を果たし、奈良県予選では天理を破り花園に出場して堂々のAシードを勝ち取った。
期待に違わず決勝に進出、今大会と同じ大阪の常翔啓光学園に15-24で敗れたものの準優勝、その小気味よい戦いぶりは花園のファンの胸を打った。
ちょうどこの年は御施工から御所実への移行する時期で、表記は「御所工・実」だった。
つまり、この年の三年生は御所工として最後の生徒で、一、二年生が御所実の生徒だったのである。
この年(2009年)の4月から、御所工と御所東が統合されて完全に御所実となった。
校舎やグラウンドは御所工の物をそのまま使っている。
御所実がある奈良県御所市は、奈良県中西部にある小さな市である。
人口は3万人弱で奈良県内の市では最も少なく、市内は田園風景が広がり、とてもこの市が花園2位となったとは思えない。
市の東側には葛城山と金剛山がそびえ、それを越えると大阪府(千早赤阪村)だ。
県庁所在地である奈良市からは遠く離れている。
御所実の西側にそびえる葛城山
御所実の校舎は県立らしく、いたって普通の校舎。
校庭も狭く、もちろん芝生もなく土で、とても花園準優勝のグラウンドとは思えない。
バックネットもあるので、野球部とラグビー部はグラウンドを共有しているのだろう。
もちろん、他の運動部も校庭を使用しているに違いない。
そんな中で、花園での強豪チームを作り上げたのは、練習によほどの創意工夫をしているのだろう。
ましてや、人材集めに苦労する県立校である。
この高校が、2度も花園準優勝を果たしたのは快挙だ。
御所実の校庭。強豪クラブを育てるにはあまりにも狭すぎる
校舎の垂れ幕。ラグビー部の準優勝を報じるとともに、農業クラブや環境緑地科なんてあるのがいかにも実業高校らしい
最寄駅はJRの和歌山線にある玉手駅だが、この駅は旧・御所工のために造られた駅で、登下校する御所実の生徒以外にはほとんど乗降客はいないだろう。
一面一線の単線で、駅員もいないローカル駅。
朝のラッシュ時には大阪へ直通の快速も走っているのだが、それ以外は1時間に1本しか電車が通らない、完全なローカル線である。
この玉手駅を見るだけで、花園準優勝となった御所実がいかに快挙かがわかる。
まさしく、あっと驚く玉手箱だ。
御所実の最寄駅である玉手駅。単線のホームで無人駅。駅前に一応道路はあるが、ロータリーはない
鉄道では不便な地だが、自動車交通では最近、京奈和道路という自動車専用道路(無料の高速道路)が御所実の近くまで伸びてきて、結構便利だ。
そのため、田舎の割りには交通量も多い。
この京奈和道路を利用すれば、橿原市にある大型商業施設のイオンモールにもすぐ行くことができる。
京奈和道路はその名のとおり、京都・奈良・和歌山を結ぶ自動車道であり、御所実の近辺はその要所として発展するかも知れない。
ちなみに「御所」とは「ごせ」と読むが、関西人以外ではなかなか読めない、難読地名と言えるだろう。