12月に入り、日本列島は寒波に見舞われている。
いつもは温暖な大阪も例外ではなく、10日までの平均気温は7°Cという寒さだそうだ。
大阪府の南東部、奈良県との境に金剛山地という山岳地帯がある。
山岳地帯、なんていうのはいかにも大袈裟で、日本アルプスなどと比較するとヒヨっ子のようなものだが、それでも金剛山地は大阪府の屋根とも言える地域だ。
北は二上山から葛城山を経て、最南端の金剛山に至る山地である。
大阪府南東部に金剛山地がある。大阪府で最も標高が高い地域だ
金剛山地のうちの最も高い南部に、葛城山と金剛山が並んでいる。
北に葛城山、南に金剛山だ。
この二つの山はよく似ており、どちらも威風堂々とした佇まいで、まるで双子のようだ。
葛城山の標高は960m、金剛山は1125mで大阪府最高峰の山である。
ただし、金剛山の山頂は奈良県御所市に属しており、大阪府最高地点は金剛山中にある1056mの地点となっている。
元々は金剛山の方を「葛城山」と呼んでいたが、金剛山の山上に「金剛山寺(こんごうせんじ)」という寺が建ったことから、金剛山と呼ばれるようになった。
金剛山には幾つか山頂があるが、そのうちの最も高い山は今でも「葛木岳」と呼ばれており、山頂には葛木神社がある。
そしていつの間にか現在の葛城山が「葛城山」と呼ばれるようになった。
この「葛城」の名前は、大和朝廷時代にこの辺りの有力な豪族だった「葛城(かずらき)氏」に由来する。
なお、大阪府と和歌山県の境、和泉山脈にも葛城山という山がある。
この二つの葛城山を区別するため、正式には金剛山地の方を大和葛城山、和泉山脈の方は和泉葛城山と呼ばれている。
大阪府側から撮影。左(北)に葛城山、右(南)が金剛山
その金剛山が雪化粧に染まった。
12月上旬での雪景色は珍しい。
ところが不思議なことに、隣りの葛城山にはあまり雪が積もっていないのである。
高さが165m違うとはいえ、金剛山は中腹でも雪が積もっているのに、葛城山では山頂すらあまり雪がない。
しかも、葛城山の方が北にあるのにもかかわらず、である。
これは今年だけの現象ではなく、毎年のことだ。
なぜそうなるのかはわからない。
12月10日の金剛山。山頂はもちろん中腹もすっかり雪景色だ
同じく12月10日の葛城山。山頂ですらあまり雪は目立たない
僕はこの金剛山、葛城山を見て育ったのであるが、ある意味ではこの二つは恨めしい山でもあった。
中学時代、冬になると耐寒登山があり、毎年交互に金剛山と葛城山を登らされるのである。
僕の場合は一年生時と三年生時が金剛山、二年生時が葛城山だった。
それも登山口から登るのではなく、なんと学校から歩かされたのだった。
その距離、約7km。
しかも山に向かって行くのだから、当然のことながら平坦ではなく、ずっと登り坂だ。
朝8時半頃に学校を出発、はるばる1時間半かけてようやく登山口に辿り着く。
ここで一旦休憩し、パンなどの軽食を摂る。
そこから辛く苦しい山登り。
冬だというのに汗だくだ。
昼過ぎにようやく山頂に登りつめる。
ここでお弁当タイムとなるのだが、雪が積もる山頂でいきなり止まると、それまでかいていた汗が一気に引き、極寒に襲われる。
手がかじかんで箸も持てず、思うように弁当も食べられない。
こういうことを見越して弁当はおにぎりにしているのだが、おかずも全て手掴み、それでも思うように掴むことはできず、寒さに震えながら食べる弁当は決して美味いものではなかった。
弁当を食い終わった後の下山は、下から吹き上げて来るジェットストリームをモロに受けながら、さらに足は氷に滑りつつ、登りとは全く違う苦労にさらされる。
なんで学校の近くにこんな山があるのか、と自らの運命を呪ったものだ。
金剛山にも葛城山にもロープウェーは付いているのに、なんでこんな苦労をしなければならないのだろう(ただし、葛城山のロープウェーは奈良県側にしかない)。
それでも、葛城山はまだマシだった。
それは金剛山より低いからというより、山頂が広々としていたからである。
葛城山の山頂は高原になっており、雪が積もっていればスキーができるほどのなだらかさだ。
そのため視界も良好で、大阪平野から大阪湾まで望める風景は絶景である。
この絶景を見ると、苦労して登ってきた甲斐があったというものだ。
冬は寒いには違いないが、普段はさほど雪深くもないので、耐えられないほどでもない。
その点、金剛山は最悪だった。
山頂はとにかく狭いので、爽快感がまるでない。
葛城山より高いのだから、より眺めもいいはずだが、視界が区切られているので葛城山ほどの絶景感は味わえない。
おまけに冬は雪深く、凍え死にそうになる。
冬の登山なんて金輪際したくないが(というより、季節にかかわらず登山そのものをしたくないが)、金剛山と葛城山、どちらかを登れと言われたら、迷わず葛城山を選ぶ。
もっとも、たとえ葛城山でも本当はロープウェーを利用したいところだが。