僕が加入しているラグビーSNSでは、日記に試合の内容を書くときには、件名にカッコ付きで「結果あり」と書くのがエチケットになっている。
理由は、その試合をビデオ録画していて、まだ見ていない人がいるからだ。
そういう人はスポーツニュースを見るのを我慢して、夜中にビデオで試合を楽しもうとしているのに、ネットでSNSを開いて他人の日記を開いた途端、試合結果がわかってしまう場合がある。
結果がわかってしまっている試合ほどつまらないものはない。
そこで、たとえば件名に「早明戦(結果あり)」と書いて、まだ試合を見ていない人はこの日記を読まない方がいいですよ、と注意を促すわけだ。
たとえば、WBCでのイチローの決勝打だって、結果がわからないからこそドキドキしながら見て、決勝打を放った瞬間に喜びが爆発する。
結果がわかっていて、後でビデオで何度も見る、という楽しみ方もあるが、やはり生で見るスリルさとは雲泥の差だ。
まあ、WBCの場合は情報が溢れているので、結果を知らずに後でビデオを楽しむ、というのは不可能に近いが、そうでなければ結果を知らずに試合を楽しみたい、というのが人情だろう。
ところが、中にはそういうことに頓着せず、むしろ結果を早く知りたいという「結果知りたがり屋」という人も存在する。
プロセスを見るのがまどろっこしくて、先に結果を知りたがるのだ。
僕の友人にもそういう奴がいた。
そいつは格闘技オタクだったので、格闘技のビデオを見せてやると、試合の序盤戦で必ず、
「これ、どっちが勝つねん?」
と訊いてくる。
数10分(あるいは数分の場合もある)も見ていれば必ず結果がわかるのに、その数10分が耐えられないらしい。
馬券を買うのなら先にレースの結果を知りたいだろうが、金を賭けていないスポーツで先に結果を知って、何が面白いのだろう。
コイツの「先に知りたがり病」は、スポーツだけには留まらない。
映画やドラマのビデオを見せても、
「この主人公、次にどんな行動を起こすねん?」
「結末はどうなるねん?」
と、しつこいほど訊いてくる。
それを教えたら、僕がビデオを見せている意味が無いだろう。
僕は浜村淳じゃないんだから。
コイツはきっと、推理小説は最後から読むんだろうな。
もっとも、コイツが推理小説を読むとも思えないが。
大体、コイツが推理小説だのサスペンスドラマだの、絶対に最後まで楽しむことはできないだろう。
サスペンスドラマと言えば、知り合いの女優さんが2時間サスペンスドラマに出演したことがあった。
生で見ることができなかったので、VHSテープに録画しておいた。
そのビデオを見る暇がなかなか無かったのだが、母親がそのビデオを見せて欲しい、と言ってきた。
母親はサスペンスドラマが大好きである。
母親にテープを貸して、母親が見終わった後にテープを返してもらった。
ビデオを見る時間ができたので、自室でテープをデッキにセットした。
普通ならテープを巻き戻して返すのがエチケットだが、そんなことを母親はしないだろう。
一応、巻き戻っているかどうか、再生してチェックした。
DVDならこんな動作は不要だが、そこがアナログの悲しさだ。
案の定、巻き戻っていなかった。
だが、そんなことはどうでもいい。
最後まで見ていてくれたのならば。
巻き戻っていないのを確認して、自分で最初まで巻き戻せば済む話だ。
ところが、ビデオはエンドロールの途中で止まっていた。
母親はもうドラマが終わったので、エンドロールの途中でビデオを止めてしまったのである。
僕がビデオを再生した直後に飛び込んできた映像が、エンドロール中に主演女優の一人である持田真樹が刑事に連行されていく姿……。
2時間サスペンスを見る前に、犯人がわかってしまった。
でも、知り合いの女優さんがどこで出て来るのかわからないので、最初から見ることにした。
犯人が最初からわかっている2時間サスペンスドラマの、なんと面白くないことか。
まさしく拷問にも等しい2時間だった。
しかもドラマの冒頭では、持田真樹はいかにも被害者然としている。
思わずテレビ画面に向かって、
「お前、被害者ヅラしているけど、ホンマは殺人犯なんやろ!?」
とツッコンでいた。
「結果知りたがり屋」の友人に、犯人がわかっているサスペンスドラマの楽しみ方を訊きたい気分だった。