阪神の試合を全てスコアブックに付けているが、テレビ画面を付けながら音声は消して、ラジオを聴きながらのスコア付けをしている。
ラジオは1球1球アナウンスしてくれるため、スコアを付けるのに便利だからだ。
ラジオはいつもABC(朝日放送)を聴いている。
別にMBS(毎日放送)でもいいのだが、最初に聴いたのがABCで、周波数を変えるのも面倒なので、そのままABCを聴いている。
毎日ABCラジオを聴いていると、大体同じような人の解説を聴くことになる。
6人ぐらいのローテーションだが、有田修三の次に福本豊が解説するというパターンが多い。
有田と言えば、近鉄や巨人などで捕手として活躍していた。
近鉄時代は現・北海道日本ハムの梨田昌孝監督と共に、捕手の2枚看板と言われた。
常にオールスターに選ばれていた梨田監督に比べればいささか地味な存在だったが、それでも300勝投手の鈴木啓示との相性は抜群で、鈴木投手が登板するときのキャッチャーはいつも有田だった。
解説者となった現在でも、捕手の視点から見た解説は圧巻で、配球を中心に実に鋭い解説をする。
阪神の狩野捕手は未熟な配球により、有田の解説にたびたび餌食になっている。
ややネガティブな論調に眉をひそめる聴取者も多いだろうが、ABCには「有田の法則」というのがあって、有田が予言したことはほとんど当たる、というものだ。
有田の解説を聴いていると、野球とはかくも奥が深いものかと納得させられる。
一方の福本さん。
福本の解説は知らない野球ファンはいないというぐらいに超有名だ。
もちろん、福本の輝かしい球歴も、野球ファンの誰もが知っている。
通算盗塁1065個は、現在はリッキー・ヘンダーソンに破られたとはいえ、一時期は堂々たる世界記録だった。
その一方で、野球以外でも数々の伝説を残している。
○福本は社会人野球の松下電器(現・パナソニック)からドラフト7位で阪急ブレーブス(現・オリックス・バファローズ)に入団したが、夫人には、
「松下から阪急に行くことになった」
としか言わず、野球オンチの夫人は福本が松下電器の技術者から阪急電車の駅員に転職したと思い込んでいた。
○福本がルー・ブロックの盗塁世界記録を破ったとき、王貞治に次ぐ二人目の国民栄誉賞受賞を打診されたが、
「そんなもんもろたら立ちションもできんようになる」
という理由で受賞を断った。
世界の盗塁王は軽犯罪法違反の常習者であることをカミングアウトしたのである。
○現役時代、福本は馬と競走して、見事に勝ったことがある。
世界の盗塁王とサラブレット、どちらの足が速いかという企画だったが、馬が人工芝に蹄鉄を滑らせてこけて、それを尻目に福本がさっさとゴールを走り切ったため、馬に勝った人間となった。
ちなみに、この競走で優勝したのが当時阪急に在籍していたバンプ・ウィルスで、福本とバンプが馬に勝った野球選手となったわけである。
そして、福本が現役時代以上に注目を集めるようになったのが、解説者になってから。
福本の解説は既に伝説となっているが、関西以外の人はなかなか聴く機会がないと思うので、その一部を紹介しよう。
「福本さん、この投手はどんなピッチャーですか?」
「なかなかエエ球ほうっとるねえ」
→それは解説ではなくて感想です。
「福本さん、0対0の素晴らしい投手戦です!」
「(スコアボードの0の羅列を見て)うわー、たこ焼きみたいやなあ」
→投球内容を訊いているんですが……。
「福本さん、延長にもつれ込む大熱戦となりました!」
「こんなに夜遅くなってしもうたら、加古川の人が帰られへんようになるがな」
→いや、終電の解説をしなくても……。
「福本さん、ここはどんな作戦で来るのでしょうか?」
「わからん!」
→それを解説するために来てるんでしょ?
まあ、有田さんと福本さんの解説を二日続けて聴いてみなはれ。
野球とはどんなスポーツか、サッパリわからんようになりまっせ。
ところで、ABCは「虎バン主義」を掲げて、タイガース応援放送をしている。
有田も当然、阪神応援のスタイルをとっているが、公平性はところどころに出てくる。
ところが、福本はモロに阪神応援解説。
先日のオリックス×阪神戦では、オリックスの打者がいい当たりをするたびに「うわっ、いかんがな」と思わず口にしている。
それは「阪神応援解説を心がけよう」という姿勢ではなく、心の底から阪神を応援しているようである。
しかし、よく考えてみると、オリックスは福本が在籍した阪急の流れをくむチーム。
経営母体が変わってしまえば、愛着など全く無くなるのだろうか。