野球ファンには鉄ちゃんや鉄子がかなり多い。
野球観戦のついでに乗り鉄を楽しもう……、というヤカラも結構いる。
元々、野球と鉄道の相性がいいのだろう。
かつてのプロ野球は鉄道会社を親会社にしているチームが多数を占めていた。
関西で言えば大手私鉄5社のうち、阪急、阪神、近鉄、南海と、京阪を除く4社がプロ野球団を保有していたのである。
阪急の創始者である小林一三は「鉄道会社リーグ」を創るという構想まで持っていた。
一時期のパシフィック・リーグは阪急、近鉄、南海、西鉄、東急と、7球団中5球団が鉄道会社が占め、「鉄道リーグ」実現まであと一歩まで迫ったことがあったほどだ。
セントラル・リーグでは阪神以外でも、国鉄という親方日の丸までがプロ野球経営に参加するという、現在では考えられないことまで起きた。
プロ野球ではなくても、社会人野球で国鉄時代に門司鉄道管理局や大分鉄道管理局が強豪として鳴らしていたし、現在でもJR東日本やJR四国、JR九州などはその名を馳せている。
他にもプロ野球球団を所有していた企業は、新聞社に多い。
現在でも読売と中日がそうであるが、かつてはそれ以外にも毎日とサンケイ(産経)がプロ野球経営に携わっていた。
プロ野球界と鉄道会社と新聞社。
この三つの業界は実によく似ている。
それは、たとえライバル会社であっても業界内の企業同士が仲がいいということだ。
新聞社の場合、売り上げ部数を競い合っても各社が記者クラブに所属している。
各社の記者たちは同じ場所に常駐し、そこで取材元からのレクチャーを受ける。
誘拐事件などが起きると、各社が報道協定を結んだりする。
特ダネを抜いた抜かれたと言いながら、結構仲がいいのだ。
そしてプロ野球団を持つメリットとして、自球団を報道すれば部数もアップし、また宣伝にもなるのでプロ野球機構側にも大きなプラスになる。
仲の良さで言えば、鉄道会社は新聞社以上だろう。
たとえば、私鉄のホームページを見ると、リンクのコーナーに他の鉄道会社のホームページが紹介されている。
京都―大阪―神戸を結ぶ阪急電鉄のホームページには、大阪と神戸を結ぶライバル会社の阪神電鉄(もっとも、現在は阪急阪神ホールディングス傘下になっているが)や、大阪と京都を結ぶライバル会社である京阪電鉄のホームページ、そして京都―大阪―神戸を結ぶ最大のライバルであるJR西日本のホームページがリンクされている。
これがもし家電メーカーだと、パナソニックのホームページに東芝のホームページがリンクされているなんてあり得るだろうか。
南海電車に乗って難波に行くと
「次は〜、難波〜、難波〜。地下鉄線、近鉄線はお乗り換えです」
と、南海電車の車掌はご丁寧にも他社の宣伝をしてくれる。
南海にとって、近鉄は同じ南大阪を走るライバル会社である。
たとえば、テレビを売っているパナソニックの社員が、
「東芝のテレビもお試し下さい」
などとは口が裂けても言わないだろう。
共同の乗り換え駅を造る場合、鉄道会社同士は協力して駅舎を造る。
乗り換えにお得な共通割引切符を作成することもいとわない。
また、関東ではSuica、関西ではICOCAなど、同じ地域内の鉄道会社で通用するカードも製作する。
そして、同じ地域内なら鉄道職員は他社でも無料で乗れるパスが支給される。
これは、プロ野球界と全く同じ構造である。
そもそも、プロ野球というのは相手球団がいないと成り立たない。
いくら巨人が球界の盟主になろうとも、相手球団がいなければ何の意味もないのだ。
これが普通の企業なら一社独占でやりたい放題になるのだが、プロ野球団ではライバル企業がいないと商売が成り立たない。
巨人のライバル企業と言えば阪神、あるいは同業者の中日だろうが、不倶戴天の敵ではないのである。
むしろ、プロ野球団も鉄道会社も、ライバル会社は運命共同体としてなくてはならぬ存在だ。
特にプロ野球創成期の昭和初期では、鉄道会社は沿線事業を展開する必要があった。
沿線に球場を造ってその周辺のレジャー事業や住宅開発をし、また球場に来る客の電車収入を見込んで一石二鳥のメリットがあった。
そして、沿線住民には地元球団としての愛着が湧き、フランチャイズ定着のメリットも生まれる。
たとえば同じ大阪でも、阪急、阪神、近鉄、南海それぞれの沿線住民が、それぞれの球団のファンになるという効果も現れた。
しかし時代は流れ、沿線開発が成熟すると、鉄道会社が球団を持つメリットがなくなってしまった。
関西でも阪急、近鉄、南海がプロ野球経営から撤退してしまい、現在プロ野球団を保有している鉄道会社は阪神と西武だけである。
阪神は大阪のファンに愛されているので存続するだろうが、経営危機を迎えている西武グループは球団維持も難しくなるだろうと思われる。
最近はIT企業が球団経営に進出してきているが、今後のプロ野球はどんな形になるのだろう。