今年(2024年)の3月1日、漫画家の鳥山明さんが68歳という若さで亡くなった。
鳥山先生の代表作と言えば「Dr.スランプ」そして「ドラゴンボール」である。
どちらも奇想天外な漫画だが、「ドラゴンボール」には「精神と時の部屋」という摩訶不思議な空間が登場した。
「精神と時の部屋」とはどんな部屋かと言えば、地上では1日しか経っていないのに、この中に入ると1年間もの時間が流れているのである。
戦闘民族サイヤ人が超(スーパー)サイヤ人になっても歯が立たない人造人間セルが現れた時、普通の修業ではセルにはとても勝てないので、孫悟空や息子の孫悟飯、ベジータらが「精神と時の部屋」に入り、1日で1年分の修業を行った。
荒唐無稽、いかにもマンガ的な発想だが、実は「精神と時の部屋」は本当に実在するのだ。
それは、我々が住んでいるこの世界である。
このことを理解するためには、まずは相対性理論を知らなければならない。
アルベルト・アインシュタインが提唱した特殊相対性理論では、時間というのは絶対的なものではなく、状況によって時間の進み方が変わるのだ。
よく知られているのが、スピードが光速に近付くと時間の進み方が遅くなる、というものである。
この世で最もスピードが速いのは光で、秒速約30万㎞だ(正確には真空中で299,792,458 m/s)。
極端な話、我々が静止しているときと、新幹線に乗っているときでは時間の進み方が違うのである。
ただし、新幹線程度のスピードでは時間の進み方が変わっても微々たる違いなので、時間の進み方が遅くなっても我々が気付くことはない。
もっと言えば、地球上で最も速い宇宙ロケットに乗ったとしても、時間の進み方の違いなんて全く判らないだろう。
だが、光速に近付けば、時間の進み方は明らかに遅くなるのである。
一般相対性理論では、速度だけではなく重力によっても時間の進み方が変わるのである。
どういうことかと言えば、重力が強ければ強いほど時間の進み方が遅くなるのだ。
重力が強い、という天体で連想されるのがブラックホールである。
ブラックホールとは、太陽よりも遥かに重い恒星が最期を迎える時、収縮されて密度が無限に凝縮された成れの果てだ。
ブラックホールの周囲では、その重力のために空間が捻じ曲がり、光ですら真っ直ぐ進めなくなる。
空間が捻じ曲がる、というのも想像できないが、相対性理論では時間だけではなく空間も絶対的な存在ではないのだ。
そして、重力が無限大になっているブラックホールでは、時間が止まっていると考えられている。
つまり、矢沢永吉がわざわざ「時間よぉ~止ま~れ~」なんて願わなくても、ブラックホールの中では時間は止まってくれているのだ。
時間が止まっているブラックホール、あるいは時間の進み方が遅いブラックホール周辺から見れば、我々が住んでいる地球は時間の流れが圧倒的に早いので「精神と時の部屋」と同じ状態ということになる。
それにしても、同じ宇宙にあるのに、時間の進み方が早かったり、あるいは止まっていたりと、なかなか想像し難いだろう。
こんな不思議な世界の存在を証明したからこそ、相対性理論は面白いし奥が深い。