先日、関西ローカルのニュース番組「キャスト(ABC)」と、全国ネットの情報番組「ビビット(TBS)」で、限界ニュータウンとして京都府亀岡市の北摂ローズタウンが取り上げられていた。
限界ニュータウンとは、住民の高齢化によって人口が減り、街として機能しなくなりつつある新興住宅地のことである。
実を言うと、筆者の親類が北摂ローズタウンに住んでおり、決して他人事ではない。
北摂ローズタウンが造成を開始したのは、バブル期の1980年代。
しかし現在では、400区画のうち40世帯ぐらいしか住んでいない。
親類は1997年頃に入居したが、当時よりも酷くなっている。
いや、入居した当初だって「な、何でこんな所に家を建てたんや」と絶句したほどだ。
というよりも、まともな区画整理などされておらず、とても「ニュータウン」とは呼べない(トップ写真参照)。
普通のニュータウンなら大通りがあるものだが、北摂ローズタウンにはセンターラインのある道路すらないのだ。
なお、定義の上では北摂ローズタウンは「ニュータウン」には当たらない。
それでは、北摂ローズタウンがどんな街か、筆者が知っている限りのことを書いてみよう。
①最寄駅からバスで約1時間(約2時間に1本)、バス停から山道を徒歩2~30分
②車は必需品で、冬は雪深くなるため四駆とスタッドレスタイヤは必須
③学校や商店、病院(診療所)はおろか、自動販売機すらなし
④入居当初は毎日新聞が郵送で配達(郵送料必要)、現在は読売新聞のみ配達
⑤入居当初はデリバリー専門の寿司チェーン店のみ出前していたが、現在はなし
⑥井戸水のため、地震や台風だけではなく、冬場の凍結でポンプが故障すると断水
⑦救急車が来るまで2~30分、そこから病院まで2~30分
⑧火事が起きると消防車を待ってられないので、消火活動は住民によるバケツリレー
⑨開発業者は既に倒産しているので、道路が陥没しても修理できない
⑩現在、10代の住民は1人だけ(中学三年生)
北摂ローズタウンの住所は前述したように京都府亀岡市だが、場所としては同市と大阪府の茨木市および豊能町の境にある。
①②について、北摂ローズタウンの最寄り駅はJR東海道本線の茨木駅か阪急京都線の茨木市駅で、JR山陰本線の亀岡駅へ行くのも距離的にはあまり変わらないが、茨木側に行った方が圧倒的に便利だ。
しかし、住所は京都府になるので、公立の小・中・高校に通う場合は亀岡側に行かなければならない。
また、茨木側の方が便利と言っても、亀岡側よりもマシなだけで、公共交通機関を利用する場合には不便極まりないのである。
何しろ 茨木駅からバスで約1時間、最寄りのバス停から徒歩2~30分ぐらいだから、最寄駅から約1時間半もかかってしまう。
バス停まで行く場合は下り坂だが、バス停からの帰りはずっと登り坂で、年配の方や病人は大変だ。
したがって、車は生活必需品である。
それも、夫婦で1台ずつ、一家に2台の車は必要だろう。
しかも、標高が580mぐらいで生駒山とさほど変わりなく、冬になると雪深くなるため、北摂ローズタウン住民の車は全て四輪駆動、冬になるとスタッドレスタイヤに履き替えなければならない。
また、北摂ローズタウンへ行くまでの道程が大変だ。
茨木側から行く場合、府道109号線から北摂ローズタウン方面へ行く道があるのだが、この道が細いのでとてもニュータウンに通じる道とは思えない。
ちなみに筆者は、北摂ローズタウンへの入口の道がわからず、何度も迷ったことがあった。
府道からその道に入ると、車が1台通れるぐらいの細い山道で、対向車が来れば待避所を見つけなければならない。
亀岡側から入る場合はもっと大変で、府道733号線から北摂ローズタウンへ行く道は茨木側からの道よりもさらに細く、待避所も少ないのだ。
こんな状態なのだから、⑦⑧について救急車や消防車がなかなか来ないのもわかるだろう。
もっとも、北摂ローズタウンの住民たちは慣れたもので、こんな悪路でも車でスイスイと通り抜けるのだが。
冬の北摂ローズタウンは毎年、大阪府境とは思えないほどの雪に見舞われる
③④⑤について、入居当初から商店などなかった。
したがって、日々の食料は茨木側か亀岡駅前の大型スーパーへ買い出しに行かなければならない。
今日の夕食は何にしようかしら、などと徒歩で毎日のお使いをするわけにはいかないのだ。
コンビニはもちろん自動販売機すらないので、ジュースが飲みたいと思っても車を出さなければならない。
個人経営を含めた病院や診療所なども全くないので、ちょっとした風邪でも下山(!)を強いられる。
風邪をひいたうえでの運転は酒気帯び運転よりも危険、ましてや悪路なので、誰かに車で病院まで送ってもらわないとダメだろう。
学校や幼稚園、保育園もないため、通学するためには親が車で送迎しなければならない。
ただ、府道まで降りればスクールバスはあった。
新聞を購読しようと思っても、入居当初は毎日新聞が郵送で配達するのみで、当然のことながら郵送料が必要だった。
現在では読売新聞のみが配達してくれるので、郵送料は不要になったが、たとえアンチ巨人でも住民のほとんどが読売新聞購読者である。
もっとも、現在ではインターネットの発達により、新聞を購読していない人も増えたかも知れないが。
ネットと言えば、長い間ADSL(懐かしい言葉)が来なかったので、電話回線によるネット利用を強いられていた。
そのため、ネットを繋げっ放しだとドンドン電話料金が加算されるので、最初に見たいページを出しておいて、ネット回線を切ってからじっくり読んでいたというのも懐かしい思い出である。
余談だが、住所が京都府なのでテレビ大阪を見ることができず、したがってテレビ東京でどんな番組を放送しているのかわからない(そのかわり、KBS京都は視聴可能)。
出前をしてくれる店も、入居当初はデリバリー専門の寿司チェーン店のみが来てくれていたが、現在はそのサービスもなくなったようだ。
しかし、ここまでは不便とはいえ何とか生活はできる。
深刻なのは⑥⑦⑧⑨だろう。
⑦⑧については既に述べたので割愛するが、北摂ローズタウンの生活用水は井戸水で賄われている。
そのため、台風や地震などの災害によって停電すれば、給水ポンプが動かなくなり断水してしまうのだ。
断水するのは災害の時だけではない。
前述したように冬は雪深くなるので凍結し、水道管が破裂して断水することもある。
そのため、住民は常に非常用の水を用意していなければならない。
水だけではなく、道路も深刻な問題だ。
去年の台風により、道路が陥没してしまったのだが、未だに修理されることなく手付かずなのである。
なぜなら、北摂ローズタウンを開発した業者が、既に倒産したからだ。
つまり、私有地扱いになっているため、道路の修繕費は住民で賄わなければならない。
もし、陥没した道路が茨木側や亀岡側に抜ける道だったら、北摂ローズタウンは完全に陸の孤島となる。
⑩については、10代の住民は中学三年生ただ一人。
テレビでも紹介されていたこの女子中学生は、家から亀岡駅まで40分かけて車で送ってもらい、そこから電車に乗って15分、そして駅から学校まで徒歩20分と、通学時間が片道1時間15分(待ち時間は含まず)だ。
親類が入居した1997年頃は、まだ若い夫婦が北摂ローズタウンにマイホームを求めて来たので、子供もそこそこいた。
しかし、この女子中学生が卒業する来年は、遂に義務教育を受ける子供がいなくなってしまう。
なお、この女子中学生は公立の中高一貫校に通っているため電車通学になっているが、今のところは亀岡側の府道沿いに市立中学校があるので、普通の中学生は電車に乗る必要はない(車の送迎は必要だが)。
しかし、この市立中学校も来年には廃校になるという噂で、そうなればいよいよ普通の中学生も電車通学しなければならなくなる。
もっとも、その中学生も北摂ローズタウンにはいなくなるのだが。
いずれにしても、こんなニュータウンに若い夫婦が引っ越して来ようとは思わないだろう。
なぜ、このような事態になったのだろうか。
それは、バブル期に開発業者が無計画に北摂ローズタウンを造成したからだ。
その開発業者は、行政に届け出せず、安い山林を買って勝手に宅地化したのである。
親類が家を建てるときに開発業者から聞いた話では、街中にスーパーマーケットが進出する予定で、いずれモノレールが延びてきて、非常に便利になるということだった。
大阪や京都への通勤圏内として、自然豊かで便利な夢のマイホームという触れ込みだったのである。
しかし、スーパーマーケットはおろか個人商店すら現れることなく、モノレールが延びてくる気配もなく、20年以上が過ぎた。
そして、前述したように開発業者はとっくに倒産している。
そのため、北摂ローズタウンを管理する者がおらず、私有地扱いになるので亀岡市がメンテナンスを行うこともできない。
もちろん、亀岡市もある程度の補助金は出すが、全面的に支援すると財政が破綻してしまうのだ。
というのも、亀岡市にある限界ニュータウンは北摂ローズタウンだけではなく、近くに茨木台ニュータウンや北摂バードタウンなどもある。
近いと言っても距離的に近いだけで、3つのニュータウンを繋ぐ道がないため、それぞれのニュータウンに行く場合はいったん府道まで降りるので、数キロの道程になるのだが。
茨木台ニュータウンは北摂ローズタウンよりもマシだが、北摂バードタウンは北摂ローズタウンよりももっと酷い。
それでは、なぜ亀岡市に限界ニュータウンが集中したのだろうか。
それは、茨木市が市街地調整区域に指定されているので、大規模なニュータウン開発が規制されているからだ。
そのため、茨木市との境である亀岡市の山林を買い取って宅地開発したのである。
だから、実際には亀岡市にあるのに茨木台ニュータウンなどと称したり、「北摂」を冠に付けたりしているのだ。
北摂とは、大阪府北部と兵庫県の神戸市あたりまでの旧国名である摂津国の北という意味であり、北摂ローズタウンや北摂バードタウンは京都府亀岡市なのだから正確には丹波国である。
茨木市にはJRと阪急で中心駅が二つもあって、JRの茨木駅は快速が停まり、阪急の茨木市駅は特急停車駅なので、大阪や京都の中心部まであっという間に行くことができるため、非常に便利というイメージが強い。
そのイメージを利用して宅地開発したわけだが、充分な見通しもなかったため土地は売れ残り、開発業者は倒産して後はほったらかし。
無責任極まりない。
まさしく負のスパイラル、北摂ローズタウンはドンドン住民が減り、「ポツンと十軒家」状態になるのは時間の問題だ。
悪いところばかり並べたので、良いところも紹介しないと片手落ち。
北摂ローズタウンの利点を見てみよう。
⑪自然が豊か、空気が綺麗で静か
⑫夏は天国で、クーラー不要
⑬井戸水が冷たくて美味しく、素麺を作る際に氷は不要
⑭井戸水のため、水不足でも関係ない
⑮日曜日には近くで朝市があり、野菜には困らない
⑪の自然が豊かという点は、最大の魅力だろう。
空気が綺麗で、しかも静かなので平穏に暮らすことができる。
ただし、鹿や猪、熊にアライグマが出没するのは日常茶飯事だが。
⑫について、標高が高いため夏は涼しく、まさしく天国状態になる。
近年の猛暑など無縁でクーラー不要、住民の誰もが「夏は下界に降りたくない」と口を揃える。
親類が入居した当初は、蚊すらいなかったぐらいだ。
その後、人の出入りが多くなったので蚊も住み着くようになったが、他の地域に比べればずっと少ないだろう。
⑬の井戸水については、ポンプの故障という厄介な問題があるとはいえ、都会の水に比べると圧倒的に美味しい。
また、井戸水は夏でも冷たく、素麺を湯がいても氷が不要ですぐに冷や素麺が出来上がるという(素麺云々はどーでもいい情報だが)。
⑭についても、井戸水のため水不足でも困らないのは大きな利点だ。
雨が降らない年にはダムや湖の水が枯れて、たちまち水不足に陥ってしまうが、井戸水の場合は関係ないのである。
⑮では、茨木側の府道に出ると、日曜日には朝市を開催している。
車で行くとすぐの距離で、新鮮な野菜が手に入り、おでんや巻き寿司なども堪能できるのだ。
朝市以外でも、近所の農家がお裾分けしてくれるので、野菜には全く困らない。
これらの利点があるため、北摂ローズタウンには別荘も多かった。
特に夏は天国なので、富裕層や企業は避暑地として北摂ローズタウンに別荘を持ってみてはどうだろう。
買い手があれば、喜んで家を売る住民も多いに違いない。
あるいは、前澤社長あたりが街ごと買収して「北摂ZOZOタウン」にならないかなあ……。