2013年の甲子園ボウル、関西学院大学(青)×日本大学(赤)の試合終了後に、お互いの健闘を称え合う両雄
5月6日に行われたアメリカン・フットボールの定期戦、日本大学×関西学院大学の試合で、日大の選手が悪質な反則タックルで関学大のクォーターバック(QB)の選手を負傷に追い込んだことはご存じだろう。
ネタランでは、テレビ・メディアが報じる前に、そのことに関して言及した。
現在では誰もが知っている社会問題に発展したが、ほとんどの人と同じ感想を筆者も感じているので、ここでは多く語るまい。
ただし、18日の時点での現況には少し触れてみよう。
17日に関学大側が記者会見を行い、日大の回答書に関して「誠意がない」と不満を表明。
一方の日大側は、内田正人監督などが、関学大の負傷したQBの選手に直接、謝罪をすると表明したが、いつになるのかは未定だという。
この悪質な反則タックルが起きて2週間近くも経つのに、まだ謝罪をしていないというのは、誠意がないと言われても仕方のないことだ。
しかも、関学大側の回答要求に対し、日大側は「反則タックルを指示した事実はなく、選手が指示を誤解して行った行為」と回答していたのだ。
つまり、内田監督に責任はなく、誤解して反則タックルした選手に責任があると言わんばかりの回答だった。
試合直後のインタビューで、内田監督は、
「やらせた私の責任」
とコメントしていたのにもかかわらず、である。
内田監督は口先ばかりで、我が子も同然とも言える選手を守ろうとはしなかった。
というより、我が身の保身に走ったのだ。
まるでヤ●ザの親分が、下っ端の組員に対し、
「(敵方の親分の)タマ取ってこい!ムショから帰ったら、お前は幹部やぞ!」
と言っているようなものだ。
で、警察からのガサ入れが入ると、
「いやあ、組員が勝手にやりおったんですわ」
と、全て下っ端組員の責任にしてしまう。
こんなことは暴力団に限らずよくあることで、政治の世界でもいくら不祥事を追及されようが、大臣は「それは秘書が勝手にやった」「官僚の責任」と言っているではないか。
会社でも、不祥事が起これば「社員が勝手にやったこと」「私の指示を社員が誤解した」と社長以下取締役は一切責任を取ろうとしない。
悲しいかな、日大アメフト部は日本社会の縮図である。
記者会見を行った関学大の鳥内秀晃監督は、
「指示通りではなかったのなら、なぜ最初の反則タックルでベンチに下げて注意しなかったのか」
と語った。
当然の疑問である。
さらに関学大の鳥内監督は、
「反則タックルを行った選手は、昨年度の甲子園ボウルではルール内でのタックルに終始していたし、今回の試合でも当該選手以外の選手は反則タックルは行っていなかった」
と語り、反則タックルを行った当該選手に対して、内田監督をはじめとする日大のコーチ陣に何らかの指示があったのではないか、と疑問を呈した。
現在のところ、日大側の記者会見は行われていないし、内田監督は公的に姿を現していない。
事件が起きて2週間近く経つのに、不誠実と言われても仕方がないだろう。
内田監督は「忙しいから」という理由で公的な場に姿を見せないらしいが、こんな重大な事が起きて、それ以上に「忙しい」という理由があるのか。
どんな仕事を抱えていようが、まずは全てをキャンセルして、負傷した関学大の選手の元へ行って謝罪するのが筋だろう。
もし内田監督が「忙しい」という理由で謝罪に行けないというのならば、その理由は「身内の不幸」以外にはないはずだ。
しかし、2週間近くも内田監督は謝罪には行っていない。
2週間近くも「身内の不幸」が続いたのだろうか。
ここまでは、誰もが思う疑問だろう。
あとはテレビ・メディアが報じてくれると思うので、そちらに任せるとしよう。
今回、ネタランで語りたいのはネット社会の功罪である。
◎頭の悪いネット民による誹謗中傷
日大の選手による悪質タックルがテレビのワイドショーなどで報じられて、インターネットによる誹謗中傷が過熱した。
「内田監督は死ね!」
「日大の××(悪質タックルを行った選手の本名)は永久追放!」
「日大アメフト部は即刻廃部!」
「日大はサイテーの大学!」
と言いたい放題である。
論理的な意見もなく、個人に対して「死ね!」と言ったり、感情に任せた誹謗中傷はあまりにもレベルが低いが、それでもこれらの意見がネット上ではまだマシだというのが、インターネットの寒いところだ。
「日大ラグビー部は最悪!」
「日体大アメフト部は謝罪しろ!」
と、事実誤認も甚だしいことがネット上では書き込まれているのである。
今回、問題になっているのは「日大アメフト部」であって、「日体大」も「ラグビー部」も全く関係ない。
これら、頭の悪いネット民は「アメリカン・フットボール」と「ラグビー」の区別もつかないらしい。
ましてや「日本大学(日大)」と「日本体育大学(日体大)」は全く別の大学だということを、ご存知ないようである。
そして「日大アメフト部」と「日体大ラグビー部」の違いがわからないとは、何をかいわんや。
しかも残念なことに、頭の悪いネット民は、自分が「頭が悪い」とは自覚していないのだ。
それどころか「自分は頭がいい」と甚だしく過信しているのである。
おそらくこの人は、誰からも相手にされていない人物に違いない。
しかも、この頭の悪い連中の意見を真に受けて、ネット上で誤った情報を拡散する連中もいるのだ。
インターネットの普及により、誰もが意見を言える世の中になったのは良いことだと思う。
しかしその反面、頭の悪い連中がインターネットで間違った意見を吹聴し、拡散されていくことは果たしていいことなのか。
さらに、そんなデタラメな情報を鵜呑みにし、まるで真実のように拡散される。
しかも、頭の悪い連中は、真実よりも感情的な意見の方が支持されるので、誤った情報が流布されるのだ。
インターネットが普及して20年近く経つが、ネット民のレベルは非常に劣化した。
感情的にウソの情報を流す頭の悪いネット民に、そんなウソの情報を鵜呑みにする頭の悪いネット民。
自分の意見を言いたいのなら、少しは自分のオツムを鍛えてもらいたいところだ。
◎インターネットのおかげで、今回の事件が明るみになった
現在のネット社会に苦言を呈したが、むしろインターネットのおかげでより良い社会になりつつあることも忘れてはなるまい。
今回の悪質タックルだって、インターネットがなければ闇に葬り去られるところだった。
今回の試合が行われたのは5月6日。
しかし、いくら名門同士の試合だからと言って、定期戦に過ぎないアメフトの試合を報じるマスコミはほとんどなかった。
僅かに日刊スポーツが、この試合で退場者が出て、両監督(日大の内田監督と関学大の鳥内監督)の談話が載っていただけである。
しかも、関東学生連盟は不問に付す、という態度だった。
悪質なタックルに対し、関東学生連盟は日大に対して何のペナルティも与えなかったのである。
ところが、この悪質タックルがインターネット上で語られ始めた。
語っていたのは、アメフト・ファンやアメフト専門のライターである。
さらに、アメフト・ファンが撮影していた動画がネット上で公開された。
「これは酷い」
「こんなことが許されていいのか」
「日大は処分されるべきだ」
という意見が多数を占め、ネット上で拡散され始めた。
この頃になって、ようやく一般メディアも動き始めたのである。
この事件が起こってから1週間後、日大から何も連絡がない関学大が業を煮やして、遂に抗議文を発表した。
こうなれば、テレビ・メディアも黙ってはいない。
一気にワイドショーでも取り上げられるようになって、日大側は窮地に追い込まれることになった。
筆者は、
「これは、ワイドショーで取り上げられることになれば、とんでもないことになるぞ」
と思っていたが、本当にワイドショーで取り上げられて、これほどまでの大騒ぎになるとは想像以上だったのである。
最初のうちは、前述したように日刊スポーツが僅かに報じただけ。
その後は、関学大側が抗議すると言っても、僅かに朝日新聞や産経新聞がベタ記事で報じる程度だったのである。
正直、筆者は「これほどの重大事件なのに、一般メディアはこの程度の反応か」と憂いたほどだ。
ところが、日大側の不誠実な行動に、アメフト・ファンの怒りが爆発した。
悪質タックルの動画が、一気にインターネット上で拡散したのだ。
こうなると、各テレビ局のワイドショーも黙って見過ごすわけにはいかない。
日大アメフトによる悪質タックルのことを、各テレビ局がこぞって報道し始めたのである。
悪質タックルの試合が起きてから、1週間以上も後のことだった。
もし、新潟女児殺害事件や、西城秀樹の死亡などがなければ、日大アメフト事件はずっとトップニュースであり続けたに違いない。
もしインターネット社会でなければ、この日大選手による悪質タックルは闇に葬られていたのではないか。
たかが定期戦、ビデオ撮影している人がいても、そんなものはほとんどの人の目には触れないだろう。
しかし、インターネットのおかげで、多くの人がその悪質な反則タックルを目の当たりにしてしまった。
最初、日大側はタカを括っていたのではないか。
たかが定期戦、しかもほとんどの人が関心を持っていないアメフトの試合など、誰も注目していないだろう、と。
当然、定期戦の反則程度で世間が大騒ぎするはずがない、と日大側が思っていたとしても不思議はない。
ところが、日大側の意に反して(だと思う)、1週間以上も経った頃にテレビ・メディアが大騒ぎし始めた。
これは日大側にとっても誤算だっただろう。
もし、ワイドショーが騒ぐことがなければ、一般社会には気付かれずにやり過ごすことができる、と考えたとしても想像に難くない。
ところが、日大側の思惑から外れ、テレビのワイドショーが大騒ぎし始めた。
こうなると、それに対応しなければならないが、そのマニュアルもない。
日大には危機管理学部があるのだが、それも全く機能しなかったのである。
結局は、日大がやることは全て後手、後手に回り、何もできなかった。
おそらくは、内田監督が「たかがアメフトで世間も大騒ぎすることもあるまい」
と思っていた、甘い認識がなせる業だったのか。