5月6日、東京都調布市のアミノバイタル・フィールドでアメリカン・フットボールの日本大学×関西学院大学の定期戦が行われた。
日大×関学大といえば、昨年度の甲子園ボウルで大学日本一を争い、日大が勝って27年ぶりの優勝、関西勢の11連覇を阻止した対戦として記憶に新しい。
さらに、この両校は昔から東西のライバルとして、赤青対決で日本のアメフト界を引っ張ってきた超名門校である。
しかし、この再戦では実に残念なプレーが連発された。
パスを投げた後の関学大のクォーターバック(QB)に、日大の選手が3テンポぐらい遅れて後ろからタックルに行っている。
いわゆるレイトヒットである。
0:05から画面の右側、パスを投げ終えた後の関学大(青)のQBに、日大(赤)の選手が背後から遅れてタックル
パスを投げ終えた選手にタックルするのは、故意はもちろん偶然でも反則だ。
しかも、この動画を見ると明らかに故意によるタックルである。
もしラグビーだったら、一発でレッドカード(退場)だろう。
しかし、この試合では15ヤードの罰退で済んだ。
このプレーにより、関学大QBは負傷して交代を余儀なくされた(後半に復帰)。
というより、よく負傷程度で済んだものである。
全く無防備の背後からタックルなんて、危険極まりない。
さらに、この2プレー後、また同じ選手が関学大QBにレイトヒットを犯している。
もはや確信犯としか思えない。
2度続けての超危険なタックルだったのに、審判団は日大に注意したものの選手に対するお咎めはなし。
さらに2プレー後、今度は同じ選手が暴力行為を行ったために、ここでようやく資格没収(退場)となった。
ところが、退場宣告を受けて戻ってくる選手に対し、日大側は叱るどころか労っている様子。
事の重大さがわかっていないのだろうか。
日大の応援団からでも「ホントにバカだよ、アイツは」という声が飛んでいたぐらいなのに。
問題があったシーン。最初が4:00頃から、2回目が5:48頃から、3回目が7:30頃から
試合後、日大の内田監督は以下のようにコメントした。
「力がないから、厳しくプレシャーをかけている。待ちでなく、攻めて戦わないと。選手も必死。あれぐらいやっていかないと勝てない。やらせている私の責任」
つまり、内田監督があのラフプレーを指示していた、ということだろうか。
「私の責任」と言っているとはいえ、少なくともラフプレーに対する反省の色はない。
さらに、関東学生連盟によるお咎めもなし。
普通のスポーツなら、これだけ明らかな故意と思われる反則を3度もすれば、少なくとも数試合は出場停止だろう。
また、日大の内田監督の発言に対しても、特に問題視していないようだ。
こんな対応で、本当にいいのだろうか。
前田日明ですら、反則ではない顔面キックを「プロレス道にもとる行為」として新日本プロレスを解雇されたのに(タイガー・ジェット・シンのサーベル攻撃はお咎めなしだったが)。
こんなことがまかり通るようでは、勝つためだったらどんなことでもやるだろう。
アメフトにおけるQBとは、単なる司令塔ではなく絶対的な存在。
アメフトのチーム力はQBで決まる、と断言する人もいるぐらいだ。
それならば、反則でもなんでもやって相手のエースQBを潰してしまうのが得策だ。
実力的に大したことはない選手を、ヒットマンとして使えばいいだけの話である。
相手のエースQBを、反則タックルでブッ潰す。
上手くいけば15ヤード罰退だけで済んで、しかも相手エースQBはもういない。
仮にヒットマンが退場になっても、実力的には大した選手ではないし、アメフトの場合は50人ぐらいの選手を抱えているのだから戦力ダウンにはならない。
しかも、ラグビーやサッカーでは退場者が出ると少ない人数で戦わなければならないが、アメフトの場合は退場者が出てもフィールドにいるのは同じ11人。
ハッキリ言って、ヒットマンが退場しても、痛くも痒くもない。
もっとも、全てのチームがそんなことをするようになったら、報復合戦で試合にはならないだろうが。
というより、もはやスポーツですらない。
今回の事件(と言ってよかろう)で、全てのアメフト・ファンは激怒している(少なくとも僕は、容認している意見を聞いたことがない)。
アメフト専門のライターも、この事件を取り上げて痛烈な批判を展開している。
しかし、当事者たる日大や関東学生連盟は、さほど大きな出来事とは思っていないらしい。
ワイドショーにも取り上げられかねないようなラフプレーだったが、今のところはアメフト・ライターしか批判していないので安穏としているのだろうか。
検索してみても、この試合を報道しているのは日刊スポーツとベースボール・マガジン社ぐらいしか見当たらなかった。
それ以外では朝日新聞のXリーグ担当がツイッターで批判しているが、ツイッターではとても報道とは呼べない。
日刊スポーツは退場者が出たことを報じているものの特に批判はなし。
ベースボール・マガジン社に至っては、試合内容の詳報は書かれているにもかかわらず、反則のことや退場者が出たことすら報じていなかった。
あれだけ詳しく書いているのに、ベースボール・マガジン社の記者は反則や退場のことは気にならなかったのだろうか。
あるいは、忖度でも働いたのだろうか。
何よりも残念なのが、こんな反則を容認する発言をした(あるいは指示した?)のが、日本随一と言っていい超名門校の日大の監督だったということだ。
しかも日大は、昨年度の大学日本一。
もし内田監督が「優勝できたのは、この指導のおかげ」と自信を持っているとすれば、何をか言わんやである。
【追記】
5月10日、関東学生アメリカンフットボール連盟が日本大学および資格没収(退場)となった選手に対する処分が発表した。
①当該選手の1回目の行為は、その後の検証の結果、当初、試合中に審判クルーが下した「アンネセサリーラフネス(不必要な乱暴行為)」を超えるものであったことが分かり、公式規則第6章の「(無防備なプレーヤーへの)ひどいパーソナルファウル」に該当すると判断できる。よって、競技団体として、当該選手は追加的な処分の内容が確定するまでは、対外試合の出場を禁止する。
②日本大学の指導者は、スポーツマンシップに則り、公式規則を遵守し、重要な規律をプレーヤーに継続して教えねばならないとして、厳重注意とする。
③一連の反則行為につき、調査・報告を行う為に規律委員会を理事会内に設置する。