ラグビーシーズンもいよいよ佳境を迎え、日本選手権が始まった。
今回は節目となる第50回大会である。
ラグビーファンとしては胸の高鳴りも覚えようかという季節だが、ハッキリ言って盛り上がり感に欠けるというファンは多い。
理由は簡単で、日本選手権という名称とは裏腹にミスマッチが多いからである。
例えば今回の一回戦で、大学選手権優勝の帝京大学がクラブ選手権優勝の六甲ファイティングブルに115-5で圧勝した。
日本一を決める大会で100点ゲーム、しかも差がありすぎるのは最初からわかっているのにやる必要があるのか、という疑問の声も多かった。
その帝京大も大学選手権史上初の4連覇を達成したチームながら、二回戦でぶつかるトップリーグ3位のパナソニック・ワイルドナイツには勝てないだろうというのが大方の予想だ。
ただパナソニックは、帝京大との一戦でのメンバー発表では、今シーズン初先発の選手を多く起用する「メンバー落とし」を行っているので番狂わせがあるかも知れないが、逆に言えばパナソニックには余裕がある証拠だろう。
そもそも、日本選手権はどんな経緯で始まったのだろうか。
日本ラグビーフットボール選手権大会の前身は1960年度(昭和35年)から始まったNHK杯で、社会人チームと大学チームが優勝を争い、第3回大会まで行われた。
その3年後の1963年度(昭和38年)、NHK杯をグレードアップさせた第1回日本選手権が行われ、この年はまだ大学選手権がなかったため、関東大学代表の法政大と関西大学代表の同志社大、そして社会人大会の優勝の八幡製鉄と準優勝の近鉄が出場し、同志社大ガ第1回優勝を飾った。
今、さらっと「社会人大会」と書いたが、当時はまだトップリーグはなく、各地の予選を勝ち抜いた社会人チームによるトーナメント方式の「全国社会人ラグビーフットボール大会」が行われ、優勝チームが社会人王者となった。
翌年から「全国大学ラグビーフットボール選手権大会」が始まり、日本選手権も第2回大会から大学王者と社会人王者の一騎打ちとなった。
毎年1月15日に行われていた日本選手権は、成人の日(当時)の風物詩となり、オールドファンには国立競技場のスタンドに陣取る、和服姿で成人したばかりの女性の姿が瞼に焼き付いているだろう。
ちなみに、第13回大会までの戦績は社会人が学生に対し7勝6敗とほぼ互角。
その均衡が崩れたのは1976年度(昭和51年)の第14回大会、新日鉄釜石が日本選手権で優勝してからだ。
その2年後の1978年度(昭和53年)の第16回大会からは、新日鉄釜石が前人未到の7連覇。
社会人と学生の差が一気に拡がった。
しかし、新日鉄釜石7連覇を支えていた司令塔の松尾雄治が引退し、新日鉄釜石の連覇が途絶えると、学生にも復活の兆しが見えた。
1985年度(昭和60年)の第23回大会は慶應義塾大、2年後の1987年(昭和62年)第25回大会は早稲田大が優勝し、この3年間は学生の2勝1敗となり、大学ラグビーファンを喜ばせた。
だが、結局はこの時の早稲田大が日本選手権最後の学生の優勝となる。
翌1988年度(昭和63年)の第26回大会から、神戸製鋼が新日鉄釜石に並ぶ怒涛の7連覇。
しかも、新日鉄釜石の場合は結構接戦が多かったものの、神戸製鋼は学生を全く寄せ付けなかった。
特に7連覇目となった1994年度(平成6年)の第32回大会は、大東文化大に102-14と、史上初の100点ゲームとなってしまった。
もはや学生が社会人王者に勝てると思う人は、一人もいなくなったのである。
1997年度(平成9年)の第35回大会から社会人王者×大学王者の一騎打ち方式が改められ、社会人上位3チームと大学上位2チームによるトーナメント戦となった。
つまり、「成人の日の日本選手権」という風物詩は過去の遺物となったのである(実際に1月15日に日本選手権が行われなくなったのは1995年度から)。
2003年度(平成15年)からトップリーグが始まり、トップリーグ勢と学生の差は拡がるばかりだった。
それでも、大学チームは日本選手権に参加した。
さらに、クラブチームが盛んになってきたので、クラブチームに対しても門戸を広げている。
だが、クラブチームはもちろん大学チームもトップリーグとの差は如何ともし難く、日本選手権優勝はまず無理だろう。
大学チームがトップリーグ勢に勝ったのは、2005年度の第43回大会で、大学選手権優勝の早稲田大がトップリーグ4位のトヨタ自動車ヴェルブリッツを28-24で破ったのが最後であり、それ以降は例がない。
とはいえ、大学チームやクラブチームが日本選手権に参加するのは、悪いこととは思えない。
今年で言えば、史上初の大学4連覇を果たした帝京大がトップリーグの上位チームにどれだけ食い下がれるかは興味があるだろうし、財政面や練習量でハンディのあるクラブチームに日本選手権参加というモチベーションは必要だろう。
他のスポーツを見ても、サッカーでは天皇杯のように大学チームはおろか高校チームまでJリーグと同じ土俵で戦う大会があるし、それ以外のスポーツでも野球を除いて、学生チームが参加する日本選手権大会は実在する。
かつてのラグビー日本選手権のように、未だに社会人と学生の一騎打ちで日本一を決めているのは、アメリカン・フットボールのライスボウルぐらいか。
ライスボウルが日本選手権として開催された当初は学生が有利であり、最近では社会人が優勢となったが、それでも学生王者は社会人王者に善戦している。
これはまだ、日本のアメフトが成熟していない証だろうが。
ラグビーは他のスポーツとは同一視できない部分がある。
試合に実力差が出やすいからだ。
サッカーの天皇杯では、2003年にJリーグ王者の横浜Fマリノスが市立船橋高校と2-2で引き分けるという大失態を演じたが(PK戦の末、マリノスが勝利)、ラグビーではトップリーグのチーム(たとえ下位でも)が高校チームに引き分けるなど、絶対に有り得ない。
番狂わせがあまりない上、実力差があると大差がつきやすいので、レベルが違うカテゴリーだと同じ土俵では戦いにくいのだ。
ちなみに、現行の日本選手権では、こういうシステムで出場チームが決まっている。
●トップリーグ上位4チームは自動的に出場、そのうち上位2チームはシードで一、二回戦が免除、準決勝から登場
●トップリーグ5~8位はワイルドカードで5位×8位、6位×7位が対戦し、勝った2チームが出場。一回戦ではそれぞれトップリーグ3位および4位と対戦
●大学選手権の優勝チームおよび準優勝チームが出場
●クラブ選手権優勝チームが出場
●二部リーグに当たるトップイースト(関東)、トップウェスト(関西)、トップキュウシュウ(九州)の優勝チームによるリーグ戦・トップチャレンジ1の優勝チームが出場
●大学優勝チームとクラブ優勝チーム、大学準優勝チームとトップチャレンジ1優勝チームがそれぞれ一回戦を戦い、二回戦では一回戦を勝ち抜いたトップリーグ勢と戦う
トップリーグに所属するのは、今季は14チーム(来季は16チーム)。
14チームが総当たりのリーグ戦を行い、上位4チームがプレーオフに進出。
4チームによるトーナメント戦で優勝したチームがトップリーグ王者となる。
上記のトップリーグ1位および2位とは、リーグ戦の順位ではなく、プレーオフトーナメントの優勝と準優勝のことなのだ。
だが、日本選手権があるのに、なぜわざわざプレーオフを行う必要がある?
13試合(来季は15試合)行う、総当たりリーグ戦で優勝および順位を決めればいいではないか。
日本選手権がなければ公式戦を盛り上げる意味でもプレーオフも一役買うだろうが、日本選手権があるのならその必要はない。
そもそも、プレーオフが始まった経緯は、トップリーグ上位チームによるトーナメント戦であるマイクロソフトカップがその由来だ。
マイクロソフトカップがやがてトップリーグのプレーオフとなり、今では冠も取れてしまっている。
だから別に、トップリーグでプレーオフをする必要はない。
トップリーグの王者はリーグ戦で、一発勝負の王者は日本選手権で決める、でいいではないか。
もちろん、前述のように大学チームとクラブチームが日本選手権に出場する可能性を残すのは有意義だと思う。
もちろん、各地域のトップイースト、トップウェスト、トップキュウシュウにも、日本選手権出場の権利を与えるべきである。
今年の日本選手権二回戦、帝京大×パナソニックを地上波のNHK総合テレビで放送するということは、やはり大学チームがトップリーグ勢にどう挑むか、関心があるのだろう。
そこで、こんな改革案を考えてみた。
日本選手権出場予選(ワイルドカード)
●トップイースト優勝×クラブ選手権優勝の勝者(ワイルドカードA)
●トップウェスト優勝×大学選手権準優勝の勝者(ワイルドカードB)
●トップキュウシュウ優勝×大学選手権優勝の勝者(ワイルドカードC)
この3チームが日本選手権出場となる。
この組み合わせは、各年で持ち回りにすればよい。
例えば次の年は、
●トップイースト優勝×大学選手権優勝の勝者(ワイルドカードB)
●トップウェスト優勝×クラブ選手権優勝の勝者(ワイルドカードC)
●トップキュウシュウ優勝×大学選手権準優勝の勝者(ワイルドカードA)
という具合に。
そしてトップリーグ勢は上位7チームが無条件で出場。
1位と2位はもちろんシード、あとは順位通りに振り分けるが、7位チームのみ一回戦からの出場となる。
日本選手権出場10チームのトーナメント表はこんな形だ。
この方が、現行制度よりもよっぽどスッキリしていてわかりやすいではないか。
しかも、ミスマッチが少なくなること請け合いだ。
さらに、大学チームやクラブチーム、各地域チームが出場する可能性も残されている。
難点があるとすれば、大学チームが出場できない可能性がある、ということか。
前述のように今年の二回戦で帝京大の試合を地上波で放送するが、日本のラグビー界は未だに大学の試合がドル箱カードということである。
だが、大学チームが出場できなくても仕方がないだろう。
そもそも、二部リーグとも言える各地区リーグのチームに負けているようでは、日本選手権出場の資格はない。
学閥に囚われている日本ラグビー協会からは、大反対の意見が噴出するかも知れないが。いつまでも大学ラグビーにオンブにダッコではラグビー界の発展はないだろう。
ちなみに、日本選手権で大学のチームがトップチャレンジ1のチームに勝った事は1度もなく、2008年度の第46回大会で、大学選手権準優勝の帝京大がリコー・ブラックラムズに引き分けたのみだ(ただし、トライ数の差でリコーが二回戦進出)。
トップリーグ勢が大学チームを寄せ付けないほど強くなったのは、日本ラグビー界にとって喜ばしいことなのに、それを疎ましいと思っているファンや協会役員がいることは残念である。
大学チームには、トップリーグ入りを虎視眈々と狙っている各地域リーグ優勝チームに勝って、堂々と日本選手権に出場してもらいたい。
そして、日本選手権の日程にも意見がある。
トップリーグのプレーオフを廃止するもう一つの目的は、秩父宮ラグビー場の過密使用をやめさせたいからだ。
秩父宮の芝生は、シーズン終盤になるともうボロボロ。
こんなグラウンドでプレーしたくない!と選手は思うだろうし、心あるファンも、こんなグラウンドでプレーしてほしくない!と思うだろう。
トップリーグで秩父宮が過密使用になるのは仕方がない。
だからせめて、リーグ戦が終われば1ヶ月間は秩父宮の芝生のメンテナンスに充てて欲しいのだ。
従って、日本選手権の一、二回戦は日本国中を行脚し、全国のファンに日本選手権を見てもらう。
北海道や東北、北陸は時期的に無理としても、東京や大阪以外でも名古屋や広島、四国、福岡など、開催は充分に可能だろう。
そして準決勝の1試合を秩父宮、もう1試合を大阪の近鉄花園ラグビー場で行えばいい。
決勝戦は満を持して国立競技場。
2019年のラグビーワールドカップホスト国として、日本最高峰の試合で国立競技場をフルハウスにしないようでは未来はない。
今年のトップリーグのプレーオフ決勝、サントリー・サンゴリアス×東芝ブレイブルーパス戦では秩父宮を満員にしたが、日本選手権決勝ではそれを国立競技場で実現してもらいたい。
そのためにはもちろん、日本ラグビー協会の努力が不可欠である。
「ラグビー日本選手権改革案」と大袈裟なタイトルを付けた割りには極めてフツーなアイデアになってしまったが、それだけに実現は充分に可能なはずである。