先日、日本テレビのプロ野球中継で、昔のカメラアングルでの映像で放送していた。
現在の野球中継ではセンターややレフト寄りからのカメラアングルが常識だが、かつてはネット裏からのカメラアングルだったのだ。
この日の解説者だった江川卓と桑田真澄は異口同音に、
「このアングルだとコースがわかりませんねえ」
「直球と変化球の違いもわかりませんよ」
「でも昔は我々もこういう映像で野球中継を見てたんですねえ」
と感慨深げに語っていた。
現在のセンターカメラとなったのは1978年のこと。
この年は一体どんな年だったのだろうか。
横浜スタジアムが開場したのがこの年である。
つまり、横浜スタジアムはネット裏カメラを経験していないわけだ。
西武ライオンズ球場(現・西武ドーム)が完成するのは翌年で、つまり西武ライオンズはまだ誕生していなかったわけで、この年は福岡市を本拠地としたクラウンライター・ライオンズ最後の年だった。
王貞治が前人未到の800号ホームランを打ったのもこの年で、「背番号1の凄い奴が相手」と歌ったピンク・レディの「サウスポー」が大ヒットした。
オフシーズンのドラフトでは「江川卓・空白の一日事件」が起き、日本中を騒然とさせた。
蛇足ながら、阪神タイガースが球団史上初の最下位に沈んだのもこの年である。
センターカメラとなったこの年の開幕戦が、後楽園球場での巨人×阪神のデーゲームだった。
この試合で、阪神の開幕投手である江本孟紀が王に満塁ホームランを浴びて負けてしまったのを憶えている。
センターカメラからの中継は捕手のサインが見えるということで反対論があったが、テレビ局の意向が通ってゴーサインが出たという。
ファンには好評だったようだが、当時の僕は馴染めなかった。
やはりネット裏カメラに慣れていたせいか、球道がよくわからなかったのである。
縦のカーブが山なりに見えて、ド真ん中のストライクでもバッターの顔の前を通っているように見えた。
打った打球もわかりづらく、打った瞬間ではフェアかファウルか、凡打なのかヒットなのか、あるいはホームランなのかもわからない。
前述の王の満塁ホームランも、打った瞬間はホームランかどうかわからなかった。
ところが、先日の中継でネット裏カメラからの映像を見ると、江川や桑田の言うようにコースも球種も全くわからない。
打った打球の行方も全然わからないのだ。
ちなみにこちらは1978年、即ちセンターカメラ中継での、王が打った通算800号ホームランの映像である。
今から見ると、打った瞬間にホームランとわかる。
こちらはその前年、1977年に同じく王が世界新記録となる756号ホームランを打った時のテレビ中継。
当然のことながらネット裏カメラだが、今となっては打った瞬間にはホームランかどうかもわからないし、球種やコースも不明だ。
しかしアナウンサーは、打った瞬間にホームランと確信しているだけでなく、コースもズバリ言っている。
変わった例では高校野球中継。
朝日放送ではプロ野球中継と同じく1978年から夏の甲子園大会でセンターカメラを採用しているが、当時はプロ野球中継と違いライト寄りのアングルだった。
このスタイルが長年続き、ライト寄りのセンターアングル中継を見るたびに、夏が来たと実感したものだ(現在ではレフト寄り)。
なお、毎日放送での春のセンバツ中継も、センターカメラになってから最初の数年間は、朝日放送と同じくライト寄りだったが、間もなくプロ野球中継と同じレフト寄りのアングルとなった。
NHKの高校野球中継では、センターカメラになってからは終始一貫レフト寄りアングルとなっている。
これは1975〜78年および85年の、朝日放送での夏の甲子園中継である。
75〜77年はネット裏カメラ、78年および85年は右寄りセンターカメラだ。
ネット裏カメラが実に見にくいのがよくわかる。
また、ネット裏カメラほどではないにせよ、右寄りのセンターカメラもちょっと奇異に感じる。
http://www.youtube.com/watch?v=-N-4gVtXnIM
いずれにせよ、慣れた映像が一番見易いということか。
とはいえ、センターカメラになってから30年以上経ち、それ以外のアングルは登場していないのだから、これが一番いい中継方法なのだろう。
ただ一つ言えることは、センターカメラになって野球ファンが配球についてうるさく語るようになったのは間違いない。