今週号の週刊ベースボールで、キャッチャーの「くにゃり捕球」についての記事があった。
日本のキャッチャーはボールを受ける時にミットをストライクゾーンにずらし、ボール球をストライクに見せるというテクニックをよく使うが、国際試合では審判を侮辱する行為として審判の怒りを買い、かえってボールと判定される。
そこでアマチュア球界が今年、「ミットを動かすな」という運動をするという。
そもそも、日本プロ野球界の国際オンチは甚だしい。
日本のプロ選手が本格的に国際大会に出場するようになったのは2000年のシドニー五輪からだが、それ以来日本チームのマナーは各国から「最低」のお墨付きをもらい続けている。
捕手の「くにゃり捕球」もそのひとつだが、他にも投球間隔の長さや選手のヤジ、審判の判定に捕手が首を傾げたり、二塁ランナーが捕手のサインを覗き見て打者に教えるなど、枚挙にいとまがない。
日本では常識とされている(というより尊ばれている)行為が、世界では非常識なのだ。
「日本野球の常識」を叩きこまれた古いタイプの野球人は特にそれが顕著で、彼らの国際感覚はゼロと言っていい。
「そんな行為は、国際的には認められない」と言っても、自分たちが正しいと、頑として自説を曲げない。
以前、セ・リーグで審判のフォーメーションを反時計回りから、国際式の「クロックワイズ」と呼ばれる時計回りに変えようとして、監督たちに説明会を行ったとき、セ・リーグの監督連中はこぞって反対した。
「そんなもん、変えて何の意味がある」というわけだ。
当時はまだプロが国際大会に出場していなかった頃である。
プロの監督連中がいかに国際感覚を身に付けていないかわかるエピソードだ。
ただし、このときフランス代表監督の経験がある阪神の吉田監督が「世界に足並みを揃えましょうや」と言ったおかげで、クロックワイズ方式が採用されるようになった。
野球でも井の中の蛙じゃいかんという好例である。
まあ、この国では未だにストライクとボールの数え方を国際式に変えようとしない頑固者だらけなのだから、仕方がないと言えばそうだが。
今年の阪神キャンプ中継で前監督の岡田彰布が「くにゃり捕球」について「ルールブックではミットの位置に関係なくボール、ストライクが決まるんやろ。だったらミットを動かしても関係ないやないか」と言っていた。
国際感覚の欠如ここに極まれり、を実感させるコメントである。
ミットを動かしても動かさなくても同じなのならば、動かさなければいいではないか。
ミットを動かしてボールをストライクに判定させようというのは、要するに騙してやろうという発想である。
これは本来、野球の技量とは全く関係がない。
これこそ「ミットもない」話ではないか。
(↑スイマセン。この一文は忘れてください)
たとえば国際大会のルール説明で、ボークの動きについて教えたら、日本関係者だけが「どんな動きならボークにならないか。この動きではどうか」と熱心に訊いてくるそうである。
要するに、ボークすれすれの牽制球で走者をアウトにしようとする魂胆だ。
これも本末転倒な話で、走者を騙すような牽制球を防ぐために「ボーク」という規則があるのに、日本ではそんな「法の精神」からかけ離れたような行動をする。
こんな独りよがりなテクニックばかり磨いていたら、日本野球はいずれ世界から取り残されるだろう。
そう言えば漫画「ドカベン」でもキャッチャーの山田太郎が「くにゃり捕球」で投手の里中を助けたことがあった。
野球漫画でも昔からこうしたテクニックが「巧い野球」として描かれていたのだから、当時のプロ野球ではいかに国際感覚が無かったか、推して知るべしである。
とか言いながら、実は僕も「くにゃり捕球」は得意中の得意だった。
親善ソフトボールでキャッチャーをやっていた時、よく「くにゃり捕球」でボールをストライクと判定させていた。
審判も所詮は素人、ごまかすのは朝飯前である。
ある時、ツーストライクから外角高めにボール5個ぐらい外れていた球を「くにゃり捕球」でストライクと言わせたことがあった。
三振を宣告された打者は何が起こったのか理解できず、ボー然として打席に突っ立っていた。
そりゃそうだろう。
打者からは僕が「くにゃり捕球」をしたことなんて見えないから、くそボールをなぜストライクと判定されたのかわからないからだ。
こんな風に審判を騙した時はまさしく快感だ。
「ささやき戦術」を使ったこともある。
親善目的の大会なのだから、チームによっては女性が混じっている。
ソフトボール経験者でない限り女性は安全パイだから、女性が打席の時はタダでアウトを一つ戴いたようなものだ。
ところがピッチャーが荒れ球で、せっかくの女性をスリーボールにしてしまった。
次の球がボールだと四球になってしまい、実にもったいない。
そして次の球もトンでもないくそボール。
このままでは出塁させてしまうので、僕は打席の女性に囁いた。
「打ちましょう」
と。
野球経験のあまりない人は「打て」と言われたら、どんな球でも必ず振る。
案の定、女性はくそボールに手を出して空振り、作戦はまんまと成功した。
しかし見ず知らずのその女性から、
「いらんこと、言わんといてよ!」
と頭をはたかれてしまった。
ロクでもないキャッチャーがいたもんである。