先日、「三振クイズ」というネタを書いた。
もう一度おさらいすると、こういうことだ。
【問】
打者が三振し、捕手が正規捕球してアウトになると(即ち、普通の三振)、守備記録はどうなるか。
以下のA~Gから選べ。
A.投手に補殺が付き、捕手に刺殺が付く。
B.投手に刺殺が付き、捕手に補殺が付く。
C.投手に補殺が付き、刺殺はなし。
D.投手に刺殺が付き、補殺はなし。
E.捕手に刺殺が付き、補殺はなし。
F.捕手に補殺が付き、刺殺はなし。
G.三振に関しては、守備記録は関係ない。従って、刺殺も補殺もなし。
もう一度、守備記録に関して説明する。
野球の守備記録には刺殺(プットアウト)と補殺(アシスト)の二種類があり、刺殺とは直接アウト、補殺は間接アウトのことである。
例えば、ショートゴロで一塁に送球してアウトになると、ショートに刺殺が、ファーストに補殺が付く。
レフトフライ(あるいはライナー)でダイレクト・キャッチすると、レフトに刺殺が付き、補殺はなし。
ゴロでも、例えばファーストゴロでファーストが捕ってそのまま一塁ベースを踏んでアウトになると、ファーストに刺殺が付いて補殺はなしとなる。
タッグプレーでは、走者にタッグした野手に刺殺が付き、送球した野手には補殺が付く。
では、三振の場合はどうか。
例えばショートゴロの場合、ゴロを捕って一塁に送球したショートには補殺(アシスト=間接アウト)が付き、送球を受け取ったファーストには刺殺(プットアウト=直接アウト)が付く。
そう考えれば、三振の場合は投手が投げた球を捕手が受け取ったので「投手に補殺が付き、捕手に刺殺が付く」という、Aの「投手に補殺が付き、捕手に刺殺が付く」が妥当だとも思われる。
でも、打者を直接アウトにするのは投手であり、それを補佐するのが捕手なのだから、Bの「投手に刺殺が付き、捕手に補殺が付く」も説得力があるのではないか。
結論から言おう。
正解はEの「捕手に刺殺が付き、補殺はなし」である。
刺殺というのは、アウトの全てに必ず付く。
野球は延長戦やコールドゲームを除いて9回、即ち1イニング三つずつのアウトで1チーム合計27個のアウトがあるが(Xゲームやサヨナラゲームを除く)、刺殺も同様に27個ある。
一方の補殺は、必ずしもアウトに一つ付くわけではない。
要するに、レフトフライでは補殺なんてないのだから、一つのアウトに補殺が付かないケースなどいくらでもある。
「刺殺はどんなアウトでも付き、補殺のないアウトも大いに有り得る」
これが基本だ。
では、三振の場合はどうだろう。
投手が投げて捕手が捕ってアウトにするのだから、ショートゴロのようにAの「投手に補殺が付き、捕手に刺殺が付く」のようにも思える。
しかし、三振とは守備記録ではなく、あくまでも投手記録なのだ。
従って、通常の三振で投手に補殺(もちろん刺殺も)が付くことはない。
投手記録と守備記録は別物だ。
例えば、投手の暴投(ワイルドピッチ)にはエラーが付かない。
エラーが付く野手の悪送球とは根本的に違う。
従って、野球実況でよく「サードゴロ。あ、サードがファーストに暴投しました」などと言うが、これは間違い。
このケースでは、正しくは悪送球という。
変な言い方になるが、投手以外は暴投などできないのだ。
ただし、ピッチャーゴロで投手が一塁にとんでもない送球をするのは悪送球であり、また牽制球で球が逸れて走者に余分な塁を与えるのも暴投ではなく悪送球(エラー)である。
このケースでは、投手といえども野手という扱いになるからだ。
なお、投手記録ではないが、捕逸(パスボール)でもエラーは付かない。
バッテリー間では球を扱うことが多いので、エラーとは区別しているのである。
でも、三振はアウトには違いない。
全てのアウトに刺殺が付く、と言ったのは前述のとおり。
つまり、三振にもちゃんと刺殺はあるわけだ。
では、三振の際の刺殺者は誰か?
それが捕手である。
三振の際、捕手がノーバウンドで投球を捕球しなければならないのは、そのためだ。
三振もアウトである以上、直接捕球しなければならないという理屈である。
要するに、振り逃げとは野球を面白くするためのルールではなく、アウトにする以上は直接捕球しなければならない、という発想で生まれたものだ。
例えば、3ストライク目の球を捕手が捕球できずに、ボールを拾った捕手が一塁へ送球してアウトになると、捕手には補殺が、一塁手には刺殺が付く。
守備記録的に言えば「キャッチャーゴロ」と同じだ。
もちろん、捕手が落球してもそのまま打者にタッグすれば、捕手に刺殺が付く。
なお、「振り逃げ」というのも誤解を招きそうな言葉で、野球をしている人でも「振り逃げは空振り三振のときのみ」と思っている人がいるが、そうではなく見逃し三振でも振り逃げはちゃんとある。
空振り三振も見送り三振も、ルール上は全く同じなのだから、振り逃げも同様にあるのは当然だ。
ただ、見逃し三振の場合は投球がストライクゾーンに来ているので、こんな球をプロレベルの捕手が後逸することなど滅多になく、従って振り逃げが起こるのはほとんどが空振り三振のときのみである。
それで「振り逃げ」という言葉ができたのだろう。
三振は投手記録と言いながらも、アウトには違いないのだから、守備記録として捕手に刺殺が付くというわけだ。
だから、振り逃げでアウトにはならない場合は誰にも刺殺は付かないが、投手には(もちろん打者にも)三振という記録が付く。
実際に、日本プロ野球では1イニングに三振が4つ、しかも1点が入るという珍記録があった。
1959年(昭和34年)、大洋ホエールズ×広島カープ戦で広島の攻撃、先頭打者が三振(1つめ)するが振り逃げで一塁へ、次打者が三振(2つめ)で1アウト、その次の打者も三振(3つめ)で2アウトになるがこの間に二盗に成功、さらに次の打者がヒットを打って二塁走者が生還して1点、次の打者が三振(4つめ)して3アウト。
結局この回、広島は合計4つの三振で1点を入れてしまった。
かなり珍しい出来事だが、1997年(平成9年)の阪神タイガース×読売ジャイアンツ戦でも同様のことが起こっている。
では、捕手が捕れなかったのに三振でアウトになった場合の守備記録は?
ルールでは、無死もしくは一死で一塁走者がいる場合、捕手が第3ストライクを正規捕球(ダイレクトキャッチ)できなくても振り逃げは発生せず、打者はアウトになる。
この場合、誰に刺殺が付くの?
結論から言えば、この場合でも捕手に刺殺が付く。
上記設問で言えば、このケースでもEが正解だ。
なぜこんなややこしいルールが存在するのか?
これも別に、野球を面白くするためのルールではなく、極めて合理的な理由があるのだ。
これは故意落球と同じケースと考えてよい。
例えば無死もしくは一死で一塁に走者がいる場合、内野手の正面にライナーまたは小フライが飛ぶと、一塁走者はアピールアウトを恐れて一塁に居座るだろう。
ところが、野手がそれを見越してわざと落球し、二塁でフォースアウトしてダブルプレーを狙うことも考えられる。
そういう狡いプレーを防ぐために生まれたのだ故意落球ルールだ。
例えばこのケースでのセカンドライナーで、二塁手がわざと打球を落としてもボールデッドとなり、打者はセカンドライナーとしてアウト、一塁走者も一塁に戻される。
この際、二塁手がライナーをダイレクトキャッチしたものとして、二塁手に刺殺が付くのだ。
全てのアウトに刺殺が付くというのが守備記録の大前提なのだから、当然のことである。
これはインフィールドフライでも同じことが言え、たとえフライを捕れなくても、フライを捕ったであろうと思われる野手に刺殺が付く。
無死もしくは一死で一塁に走者がいる場合での三振でも全く同じ。
このケースで振り逃げを認めたら、一塁走者には進塁の義務が発生するので(フォースの状態)、捕手は3ストライク目の投球をわざと落とし、二塁へ送球してダブルプレーを狙うに違いない。
そういうことを防ぐために、このケースでの振り逃げは認められないのである。
もちろん、全てのアウトに刺殺は付くので、たとえ捕手が投球を捕れなくても、捕手に刺殺が付く。
ただし、二死の場合は走者がどの塁にいようとダブルプレーは発生しないので、振り逃げは認められる。
例えば二死満塁で捕手が3ストライク目を落球し、一塁への悪送球が心配な時は、慌てず騒がず本塁を踏めば良い。
三塁走者がフォースアウトになるわけで、当然このケースでも捕手に刺殺が付く。
もっとも、後逸して三塁走者が生還してしまったらどうしようもないが。
もっとわかりやすく言えば、スリーバントがファウルになって三振になったときでも、Eのように捕手に刺殺が付くわけだ。
「アウトの全てに刺殺が記録される」「三振は投手記録」という原則を踏まえれば、答えは自ずと出てくる。