中学三年生の国語の教科書、その最後を飾ったのが「夏の海の色(辻邦生:著)」という短編小説だったのを憶えている。
つまり、中学最後の国語の授業が「夏の海の色」だったわけだ。
「私は相変わらず海では泳がず、皆が海に入っているあいだ、濃い青い真夏の海の色をながいこと見つめていた。
それは時間によっても光の加減によっても様々に変化したが、帯のように青が薄くなったり濃くなったりするのは、いくら見ていても見飽きなかった。」
物語とは関係ないこの部分が大好きだった。
僕はといえば、今年の夏もまた、海には行かずじまいだった。
もう何年、夏の海に行っていないだろう。
そして今年も、いつものように、夏が終わっていく……。
と思っていたら、町内から海を見ることができた!
我が町は、海からは優に30kmは離れた場所。
とても海など見える町ではない。
東京で言えば、八王子から海を眺めるようなものだろうか。
なにしろ、すぐ近くの山を越えたら、海なし県の奈良県である。
海なし県の住民は、海が見えると異様にテンションが上がるというが、僕も同じような感覚だ。
海に対して、異常なほどの憧れがある。
ましてや家の近所から海が見えるなんて信じられない。
実は以前、同じ場所から海が見えたことがある。
しかし、その時は夕陽に反射する海が僅かに見えただけで、しかも季節は秋だった。
だが今回は、終わりかけとはいえ夏、昼間の真っ青な海である。
しかも、一部分に切り取られた海ではなく、広範囲に海が広がっていた。
思わぬ場所から「夏の海の色」を見ることができたのである。
右側に見える、白く尖ったタワーが、撮影場所に程近い富田林市のPL大平和祈念塔(高さ180m)である。
その遥か向こうに見える水平線が、遠く離れた大阪湾だ。
左側に見える山の稜線が、大阪湾の向こうにある淡路島である。
上の写真より北の方をズームして撮影
この写真に写っている白いコンビナートの向こう、大阪湾に浮かぶタンカーまで見える。
大阪湾を越えて見える街並みは、直線距離で約50km離れた神戸の街だ。
我が町から神戸までは、電車を乗り継いで2時間はかかる距離である。
そういえば今年の7月下旬、神戸へ行ったときに海を見たなあ。
つまり、今回見ることができたのは、あの時と同じ神戸の海だ。
神戸から海が見えるのは当たり前だが、まさかこんな遠くから、あの時の海を見ることができるとは……。
神戸の奥に見える山は、もちろん六甲山だ。
カメラを南方の方角に戻し、さらにPLタワーを越えてズームしてみる
この写真、大阪湾に二本の白い塔(手前にある、赤白の二本の鉄塔の間)が立っているのがわかるだろうか。
そう、これが世界最長の吊り橋である明石海峡大橋の主塔なのだ。
水平線と平行に、薄っすらと橋が架かっているのも見える。
直線距離で60kmは離れた、人工建造物である明石海峡大橋まで望めるとは思わなかった。
夏の終わりに、思わぬ海のプレゼントを戴いた。
来年は、夏の海の色を見ることができるだろうか。
evergreen/MY LITTLE LOVER