「西高東低」という言葉を聞いて、何を連想するだろうか。
普通なら冬型の気圧配置だろう。
あるいは野球好きなら、高校野球の勢力分布図か。
しかし、今回の件名は、「北」や「南」まで含んでいる。
そのうえ、順序も少々違う。
しかも、「西」以外は全て「低」だ。
これは一体、何を表しているのだろう。
実はこれ、「東西南北を含む苗字」の世帯数(あるいは人口)なのだ。
「佐藤」「鈴木」「高橋」「田中」といった苗字の人が多いのは有名だが、今回は「東西南北を含む苗字」について調べてみた。
「東本」や「南田」など、「東西南北を含む苗字」は数あるが、中でも「西」が付く苗字が世帯数では圧倒的に多い。
百聞は一見に如かず、日本全国に存在する苗字の中で上位1000位以内にある「東西南北を含む苗字」を、世帯数の多い順に列挙してみよう。
なお、苗字の世帯数は調査方法や時期によって異なるので、他の資料での順位とは違っているかも知れないが、そこはご了承頂きたい。
苗字の後に記している< >の中の数字は、苗字全体での全国順位だ。
(1)西村<42>
(2)大西<100>
(3)西田<112>
(4)西川<114>
(5)北村<115>
(6)東<119>
(7)中西<128>
(8)西山<169>
(9)小西<187>
(10)伊東<192>
(11)南<194>
(12)北川<203>
(13)西<227>
(14)西尾<281>
(15)西岡<306>
(16)西野<315>
(17)西本<345>
(18)北野<372>
(19)北原<424>
(20)西沢<451>
(21)西原<462>
(22)北島<492>
(23)葛西<573>
(24)北山<598>
(25)西谷<465>
(26)北沢<700>
(27)今西<705>
(28)西口<710>
(29)北田<714>
(30)川西<791>
(31)西島<799>
(32)北<804>
(33)西脇<816>
(34)坂東<854>
(35)東海林<877>
(36)南部<918>
(37)寺西<943>
(38)西森<967>
(39)西井<963>
(40)西浦<980>
(41)河西<985>
「西村」「大西」「西田」「西川」と、上位4つを「西」が占めるほか、パッと見ただけでも赤字で書いた「西」が圧倒的に多いのがわかるだろう。
東西南北で順位を付けると以下のようになる。
(1)西……26個
(2)北……9個
(3)東……4個
(4)南……2個
ハッキリ言って、「西」の圧勝である。
苗字の由来は、場所が元になっているものが最も多い。
「東西南北を含む苗字」も当然ながら、そのルーツは土地の方角を示している。
ならば、四方ともまんべんなく振り分けられそうなものだが、なぜ「西」だけ突出して多いのだろう。
例えば、「東西南北を含む苗字」の中で最も世帯数が多いのは「西村」だが、意味は読んで字の如く「西にある村」である。
ちなみに「中央にある村」は「中村」で、これは全国8位の世帯数を誇る大姓だ。
「西村」も全国42位とかなり多いが、他の方角はどうだろう。
上記にもある「北村」は全国115位で結構多いが、「東村」は全国3161位、「南村」に至っては全国5168位と少数の部類に入る。
「村」には中央が必ずあるので「中村」が多いのは当然だが、東西南北に関してはどの方角にも等しく存在するはずなのに、なぜ「西」だけが異常に多く、「東」や「南」は極端に少ないのか。
一つ考えられるのは、「東村」や「南村」は言いにくい、ということだろう。
苗字のほとんどはカナ3文字か4文字なので、5文字以上だと語呂が悪い、というわけである。
あと、面白いのが「東西南北を含む苗字」の中で2位の「大西」だ。
「大西」は全ての苗字の中で全国100位と特別多いわけではないが、香川県の苗字では、全国1位の「佐藤」や西日本1位の「田中」(全国4位)などを押しのけて、堂々の1位である。
47都道府県の中で、「東西南北を含む苗字」が1位になっているのは、香川県の「大西」だけだ。
当然、「大西」が一番多いのは全国でも香川県だけで、全国的にはもちろん他の四国の県でも「大西」は5位以内にすら入っていない。
だが、「大西」のルーツは香川県ではなく阿波国、即ちお隣りの徳島県で、元々は地名だった。
阿波国の「大西」という土地に住んでいた「大西」一族が讃岐国、つまり現在の香川県に移住し、そこに根を下ろしたのである。
知り合いに「大西」さんがいれば、出身地を訊いてみるとよい。
香川県出身か、あるいは親族が香川県にいる可能性が高い。
なお、「大西」以外の東西南北「大●」を調べてみると、「大西」が全国100位なのに対し、「大東」が全国1852位、「大北」が全国2202位、「大南」は全国5811位と、かなりマイナーな苗字になっている。
ここでも「西」が圧倒しているのだ。
そんな中で、「東西南北各一文字の苗字」については、「西」は不利だ。
東>南>西>北
で「西」は3位(全国227位)、「ひっつき苗字」では少数派の「東」が堂々の1位(全国119位)となっている。
さすがは日出ずる方角の面目躍如というところか。
もっとも「東」は苗字では「あずま」と読むことが圧倒的に多いのだが。
一文字では「東」や「南」(全国194位)が多く、「西」や「北」(全国804位)が少ないのは、カナ3文字の優位性が働いているのかも知れない。
あるいは「東」や「南」に「ひっつき苗字」が少ない理由として、「村」や「川」を付けると読みが長くなるので、方角の一文字で済ませるケースが多いということも考えられる。
それにしても、一文字の場合の「北」の少なさが気になる。
「西」の全国227位に対して「北」は全国804位と極端に少ない。
「西」と同じカナ2文字なのに、なぜ「北」はこうも少ないのだろう。
ただし、同じ読みの「きた」では、全国685位の「喜多」もある。
つまり「北」一族の中には、読みを変えずに漢字だけ変えて「喜多」と名乗るようになった連中も多かったのではないか。
「北」だと「北枕」を連想して縁起が悪いので、「喜びが多い」という佳字の「喜多」に変えた、というわけである。
こういう例は他にもあって、例えば「久保」という苗字も元々は窪地を意味する「窪」だったのが、それではイメージが悪いということで「くぼ」という読みに佳字を充てて「久保」とした。
もちろん「窪」という苗字も残っているが、「久保田」「大久保」なども同じ理屈であり、「窪」を使用した苗字よりも遥かに多い。
同じような理由で「北」が少ないとも考えられる。
その理屈だと「北野」や「北原」などに比べて「喜多野」「喜多原」はかなり少ない気もするが、あまりにも字の画数が多すぎるので敬遠されたのかも知れない。
今回は東西南北に絞って苗字の傾向を探ってみたが、地名と同じように苗字の世界も調べてみるとなかなか面白い。
あなたも自分の苗字のルーツを探ってみたらいかがだろうか。
意外に面白い発見があるかも知れない。