人口84万人を数える大阪府第二の大都市・堺市。
元々80万人近い人口を抱えていたが、美原町との合併により2006年(平成18年)、政令指定都市に移行した。
大阪市から大和川を挟んで南側に位置する都市である。
「堺」とは、和泉国、河内国、摂津国という三つの国の境、という意味だ。
堺市内には「三国ヶ丘」という地名や駅名があるが、三国とはこの三つの国のことである。
世界最大の陵墓である仁徳天皇陵も堺市内にあり、古くから日本の中心都市だったことがわかるだろう。
中世では世界に名だたる自由都市として栄え、商工業が発達した。
日本各地に「○○商人」と呼ばれる人たちがいるが、元は全て堺商人だったと考えてよい。
堺商人たちが全国に散らばり、日本各地の商業を栄えさせたのだ。
また、鉄砲や刀などの鉄製品を製造する工業地区としても知られる。
その製鉄技術は現在にも受け継がれ、包丁や自転車造りの中心地でもある。
そんな堺市には、三つの中心駅がある。
JR西日本・阪和線の堺市駅、南海電気鉄道・南海本線の堺駅、同じく南海電気鉄道・高野線の堺東駅だ。
この駅名を見て、奇異に感じる方もいるだろう。
そう、私鉄の駅が「堺駅」と都市名がズバリ付いているのに対し、旧国鉄であるJRの駅が「堺市駅」と駅名に「市」が付いているのだ。
JRの駅が「○○市駅」となっている政令指定都市は、日本広しと言えども堺市以外にはない。
堺市には「堺市駅」「堺駅」「堺東駅」という三つの中心駅が存在する。他にもJR阪和線と南海高野線が交差する「三国ヶ丘駅」や、南海高野線および泉北高速鉄道(南海と直通)と大阪市営地下鉄御堂筋線の乗換駅である「中百舌鳥駅」もある
これには理由があって、JR阪和線は元々「阪和電気鉄道」という私鉄だったのだ。
南海電気鉄道の前身である南海鉄道は先に開通しており、堺駅も既にあったので、堺市停留場と名乗らざるを得なかったのである。
しかも太平洋戦争直前の1940年(昭和15年)には国の鉄道会社合併政策により、阪和電鉄は南海鉄道に吸収させられ「南海山手線」となったのだ。
さらに太平洋戦争が激化した1944年(昭和19年)には、南海山手線は国に買い取られ、国鉄・阪和線となったのである。
国有化された当初は「金岡駅」と名乗っていたが、国鉄の駅としてどうしても「堺」という市名を入れたかったのか、1965年(昭和40年)に現在の堺市駅となり、堺市の代表駅に昇格した。
しかしその実態は、とても堺市の代表駅と呼べるものではない。
まず、駅そのものが二面二線の対面ホームと小さく、快速が停まるとはいえ、堺市内でも乗降客数は決して多い方ではないのだ。
JRの奈良駅は県庁所在地の中心駅でありながら特急が停まらないということは以前にも書いたが、奈良駅の場合は特急そのものが通らないだけであって、堺市駅には特急がちゃんと通っているにもかかわらず通過してしまうのである。
堺市駅周辺にも、「ベルマージュ堺」というイズミヤが入った商業施設があるだけで、周辺住民以外がわざわざ堺市駅へ出向くこともないだろう。
それ以外であるとしたら、大阪刑務所ぐらいか。
堺市駅周辺は、人口80万人の政令指定都市の中心駅とは思えないほどひっそりとしている。
JR阪和線・堺市駅。JRにおける政令指定都市の中心駅としてはあまりにも寂しい
では、これぞ中心駅、とも言える駅名である南海本線の堺駅はどうか。
JR阪和線の堺市駅、南海高野線の堺東駅との位置関係では、最も西側、即ち海側に位置する。
こちらはJR阪和線の堺市駅とは違い、二面四線の立派な駅である。
JRと私鉄の特急では単純に比較できないが、堺駅には南海本線が誇る特急の「サザン(難波から和歌山市および和歌山港へ行く特急)」と「ラピートβ(難波から関西国際空港へ行く特急」が停車するので、特急が全て通過するJR阪和線の堺市駅よりはずっと上だ。
ところが、南海本線のエースとも言える空港特急の最速タイプ「ラピートα」は通過するので、本当に堺市の代表駅であるかどうかは怪しい。
そもそも、駅の周りにこれといった施設があるわけではない。
むしろ、同じ南海電鉄の高野線の堺東駅にずっと後塵を拝してきた。
最近でこそ堺駅には立派な駅ビルが建ち、「PLATPLAT」という商業施設が入り込んできたが、それ以前は集客が見込める駅ではなかった。
また、商店街があるわけでもなく、現在でも無機質な印象である。
南海本線・堺駅の東口。現在では高架化されて立派な駅ビルとなり、「PLATPLAT」という商業施設が入っているが、まだまだ堺市の代表駅とは言えない
南海本線・堺駅の西口。東口と比べると裏玄関のような風情だが、ポルタス堺およびホテル・アゴーラ リージェンシー堺と直結している
JR阪和線の堺市駅と、南海本線の堺駅との間にあるのが、南海高野線の堺東駅だ。
堺駅でもなく、堺市駅でもない、「東」が付いているのだから、本来ならば市街地から外れた存在のはずだが、この堺東駅こそ堺市の中心駅であり、代表駅である。
列車選別で言えば、南海高野線の特急である「こうや」「りんかん」が停まるという、全列車停車駅だ。
乗降客数でも、JR阪和線の堺市駅や、南海本線の堺駅を抑えて、堺市内でトップである。
しかも、同じ南海電鉄の堺駅より東にあるから堺東駅という、二番手的な駅名に甘んじているが、堺市の中枢機能は堺東駅周辺に集中している。
堺市役所、堺区役所、裁判所、税務署、検察庁などは、全て堺東駅周辺にあるのだ。
堺東駅の駅ビルは、そのまま高島屋の堺店になっているのだ。
駅ビルが百貨店になっているというのは、政令指定都市の代表駅の鉄則である。
さらに、駅周辺は「堺銀座商店街」というアーケード通りになっており、繁華街や歓楽街になっている。
飲み屋はもちろん映画館などもあって、ちょっとしたミナミという雰囲気だ。
大阪市内のような情緒を味わえるのは、大阪市外では堺東駅周辺だけである。
南海高野線・堺東駅。駅ビルには大手百貨店の高島屋が入っており、80万都市・堺市の代表駅としての存在感を示している
真ん中のビルが南海高野線・堺東駅の近くにある堺市役所。地上21階を誇り、高さでは地上8階の大阪市役所を遥かに上回る
ただし、堺東駅周辺も、バブル崩壊後は寂れていく一方だ。
かつてはダイエーや長崎屋といった大手スーパーが軒を連ねていたが、現在では撤退を余儀なくされている。
堺銀座商店街も、以前はミナミの千日前商店街に負けないほどの人手で賑わっていたが、最近では寂しい人通りとなっている。
南海高野線・堺東駅近くの堺銀座商店街。通称「ガシ」と呼ばれ、かつては大阪市の繁華街に勝るとも劣らない人通りを誇っていたが、近年はちょっと寂しいアーケード街だ
そもそも、堺市自体が大阪市に近いことが災いして、大阪市のベッドタウンに成り下がっている。
政令指定都市でありながら、昼間人口より夜間人口の方が多いぐらいだ。
堺市には泉北ニュータウンという新興住宅地があるのだから仕方ないと言えばそれまでだが、それでも大阪府下2位の都市であるということを忘れてもらいたくはない。
また、堺市駅、堺東駅、堺駅というのは、全て大阪市方面に向いているのがネックだ。
このため、多くの人間が堺市内に留まらず、大阪市に流出している。
そこで考え出されたのが、低床路面電車のLRTだ。
堺市駅、堺東駅、堺駅をLRTで結び、堺市住民を他の市(主に大阪市)には出さず堺市経済を活性化する計画である。
計画実行には困難が伴うようだが、堺市の発展のためにも、ぜひ実現してもらいたい。