先日、「猛虎水滸伝−疾風編−(サンケイスポーツ・著、水本義政・文)」という本が出版された。
これは、かつてはサンケイスポーツの虎番記者であり、現・フリージャーナリストの水本氏がサンスポ関西版に連載している「猛虎水滸伝」を単行本にまとめたものである。
この連載は今でも続いており、「疾風編」は、阪神球団創設から1971年(昭和46年)当時までを綴っている。
つまり、いずれ第二弾が発売されるかもしれない。
阪神タイガースは内輪揉めの歴史といわれ、お家騒動が伝統と揶揄されたが、その歴史が赤裸々に綴られている。
球団創設当時から、監督人事などでも揉めに揉め、球団経営についていかに無知だったかがわかる。
特に圧巻なのが、戦後の56年に起きた、あまりにも有名な「藤村富美男排斥事件」である。
戦前の創世期ではモデルケースがないのでそれも仕方がないのだが、それが延々と戦後の高度成長期まで阪神の伝統となっているのが情けない。
この「疾風編」は、江夏豊と田淵幸一が阪神入団し、伝説の「江夏・オールスター戦9者連続三振」までが書かれているが、実はその後が面白い。
現在のサンスポでは翌72年の、村山実・投手兼監督から、金田正泰ヘッドコーチに監督権が移る部分が描かれているが、このあたりの愛憎ドロドロ模様は、東海テレビの昼ドラ「牡丹と薔薇」そのものだ。
さらに翌73年には、金田監督×エース・江夏という、阪神球団史上最高のドロドロ劇が展開される。
前年は江夏が金田監督を慕ったため、村山が退団せざるを得なくなった。
金田監督は江夏を「豊、お前だけが頼りだ」と言い、江夏は金田監督を「叔父貴」と呼んでいた蜜月関係が、73年シーズン途中で突如壊れてしまった。
その原因は「鈴木皖武投手、金田監督殴打事件」がきっかけと言われている。
ちなみに73年と言えば、阪神が二試合を残して一つの試合を勝つか引き分けると優勝という場面で、中日と巨人に連敗し、巨人に9連覇を許したあのシーズンである。
この二試合での最大のミステリーは、中日戦では中日キラーである上田二郎の先発が予想されたものの、江夏が先発して負け、最終戦の甲子園での巨人戦では、巨人キラーの江夏は登板せず、先発の上田が打ち込まれ、0−9で大敗したことだ。
阪神ファンならずとも、「阪神球団は下手に優勝して選手の給料を上げるよりも、万年二位の方がいいと思っているのではないか?」と勘繰ったものだ。
その年のオフ、ファン感謝デーの日に、「権藤正利投手、金田監督殴打事件」が起きる。
この事件は江夏が権藤を手伝ったと言われ、以来金田監督と江夏は一切口を聞かなくなった。
翌74年の春季キャンプ、相変わらず両者は口を聞かないままだったが、キャンプの終盤に金田監督が
「おい、コンディションは大丈夫か?」
と声をかけ、江夏は
「はい、大丈夫です」
と答えたという。
こんな他愛のない一言が、翌日のスポーツ紙には
「歴史的瞬間!」
と書かれていた。
前述したとおり、連載ではまだこのあたりのことは書かれていないが、当時の虎番記者がどんな目で両者の確執を見ていたのか、実に興味深い。
今後の連載と、第二弾の単行本出版に期待しよう。
この本は結構分厚いにも関わらず、値段は税込み1,000円と意外に安い。
サンスポからの直売だからだろうか。
そうでなくても、この本は実に面白く、ぜひお勧めする一冊である。
なお、この本を購入できるのは主に関西の書店で、関西以外では名古屋の一部の書店で売られています。