先日、JRに乗って兵庫県を除く近畿地方(三重県を含む)全てを廻った。
その内、三重県を除く全ての府県庁所在地も通った。
かかった運賃は120円也。
これはJR西日本の初乗り運賃だ。
もちろんキセル乗車ではなく、合法的な方法である。
以下の条件を満たせば、堂々と(?)キセル乗車のようなマネができる。
○大都市近郊区間であること(東京、大阪、福岡、新潟の4都市のみにあり、なぜか名古屋には存在しない)。
○「一筆書き」の路線を通らねばならず、路線や駅が重複してはならない。
○途中下車は無効で、当日中に全行程を終えなければならない。
以前にも同じようなことをしたことがあるが、その時は滋賀県を走っている草津線までが大阪近郊区間に含まれているとは知らなかったので、滋賀県及び三重県は通らなかった。
関西の人は「アーバンネットワーク」という言葉を聞いたことがあると思うが、大阪近郊区間とはそれとほぼ同じで、もう少し範囲が広いものと考えればよい。
大阪近郊区間とは、下図の通りである。
行程は以下の通り。
新今宮(大阪環状線外回り)→大阪(東海道本線、京都および大津経由)→草津(草津線)→柘植(関西本線、加茂および奈良経由)→王寺(和歌山線)→和歌山(阪和線)→天王寺
始発駅が新今宮駅で、終着駅が天王寺駅。
大阪環状線内回りに乗れば、僅か一駅で着く。
それを6府県にまたがる大旅行をするわけだ。
途中下車が出来ないのに何が面白い?と思うだろうが、それがプチ鉄ちゃんの性(さが)である。
まずは新今宮駅からスタートするわけだが、新今宮駅に行くためにはまず河内長野駅から南海高野線に乗らなければならない。
これはもちろんJR運賃の120円とは関係なく、南海運賃の480円を払わなければならない。
つまり、純粋に120円で6府県の旅をしたわけではない。
さらに、河内長野駅で南海電車を待っていたが、ダイヤが合わずに次の電車は特急「こうや」。
「こうや」には乗ったことがあるが、難波方面行きには乗ったことがなかったから、いっそのこと「こうや」に乗ってやれ!とばかりに特急券500円を奮発して「こうや」に乗り込んだ。
この時点で既に旅の目的からは逸脱しているかも知れないが、さすがに「こうや」は乗り心地が良かった。
新今宮駅でJRに乗り換え、ここからが本格的な120円旅のスタートだ。
南海とJRの乗り換え口で初乗り運賃120円の切符を買い、大阪環状線の内回り電車に乗れば一駅で済むところを、逆の外回り電車に乗り込んだ。
たまたまそこに大和路快速が来たので、環状線内を快適に快速運転してくれた。
あっという間に大阪駅に着いた。
ここで東海道本線に乗り換え。
ただし、JR西日本では東海道本線という表記はせず、大阪駅から京都駅へ向かう路線はJR京都線と表記している。
これがアーバンネットワークの表記法で、同じ東海道本線でも大阪駅から神戸駅へ向かう路線はJR神戸線となっている。
JR京都線のホームから米原方面近江塩津行きの新快速に乗り込んだ。
湖北の米原なんて、大阪からでも新幹線で行く所じゃないかと思うぐらい遠い。
同じ滋賀県の大津や草津でも、距離的には大阪に行くのとさほど変わらない。
それを在来線でも普通運賃で直通運転してしまう新快速は凄い。
しかもさらに遠くの長浜や近江塩津から大阪・神戸を飛び越えて姫路まで行ってしまうのである。
大阪駅から京都駅まであっという間に着いた。
何しろ停車駅は新大阪駅と高槻駅の二つだけで、しかも直線部分はベラボーなスピードで走る。
途中で阪急京都線と遭遇する区間があったが、阪急電車を追い越してしまった。
新幹線以外で新快速に勝てる電車は、日本にはないだろう。
前回は京都駅で奈良線に乗り換えたが、今回の目的は初の滋賀県進入である。
新快速から降りずに、そのまま草津駅を目指した。
京都駅を出て、トンネルをくぐった新快速は大津駅に着いた。
言うまでもなく滋賀県の県庁所在地である。
これで大阪、京都、滋賀の府県庁所在地をクリアした。
もちろんここで新快速を降りることはなく、草津駅を目指した。
大津駅を出た新快速の車窓から、雄大な琵琶湖の姿が見えた。
新快速はやがて、草津駅に着いた。
気持ち的にはこのまま米原や、さらにその先の近江塩津に行きたいという気持ちもあったが、今回の目的はあくまでも120円近畿6府県の旅だ。
断腸の思いで新快速に別れを告げて、草津線のホームに行った。
草津線に乗るのは初めてである。
草津線なんてどうせローカル線だろうとタカを括っていたのだが、どうしてどうして、これがなかなか立派な路線なのである。
単線で優等列車がないとはいえ、もちろん電化されているし、4両編成なのにも驚いた。
大阪南部を走る近鉄南大阪線だって、ラッシュアワー以外は4,5両編成である。
ローカル線にありがちな運賃箱もないということは、草津線の各駅には改札口があるということだ。
しかも、日曜日にも関わらず乗客も多かった。
平日なら学生の姿も多いのだろう。
さらに草津線に乗って驚いたのは、ほとんどが琵琶湖とは無縁な平野部だったということだ。
滋賀県というと琵琶湖が県面積の80%ぐらいを占めていて、大雨で琵琶湖が増水すると三重県にまで水が溢れ出すと思われているが(思ってねーよ!)、実際には琵琶湖の面積は滋賀県全体の6分の1程度である。
湖国滋賀県とは思えない風景が続き、貴生川駅に着いた。
ここで多くの乗客が降りた。
この駅は、近江鉄道と信楽高原鉄道の乗り換え駅となっている。
なるほど、それで乗客が多かったのか。
それでも、残った乗客も結構多く、草津線が単なるローカル線ではないことがわかった。
草津線の車両は終点の柘植(つげ)駅に着いた。
ここはもう、既に三重県である。
近畿2府4県と言えば普通、三重県は含まれないが、柘植の辺りは紛れもなく近畿圏である。
同じ三重県でも伊勢湾に面した県庁所在地の津市や工業都市の四日市市などは明らかに東海圏であるが、内陸部は近畿地方と言っていい。
柘植駅から関西本線に乗り換えるわけだが、この関西本線というカテゴリがまたややこしい。
名古屋駅から大阪市のJR難波駅を結ぶ、二大都市にまたがる路線にも関わらず、直通列車は存在しない。
名古屋駅から亀山駅(伊勢湾に近い三重県)まではJR東海の管轄で、それ以西はJR西日本の管轄である。
JR西日本管轄となる亀山駅から加茂駅(奈良県に近い京都符)までは完全にローカル線となり、単線で電化されておらず、1両編成(時間帯によって2両編成)となる。
亀山駅〜加茂駅間を1両もしくは2両のディーゼルカーが往復しており、柘植駅はその途中にあるわけだ。
柘植駅から1両のディーゼルカーに乗り込んだ。
ハイカーの客が多かったので、列車は満員だった。
1両しかないのだから、満員になるのは当然だが。
同じ大阪―奈良―三重―名古屋に、直通特急を走らせている近鉄に比べると、なんとみすぼらしいことか。
人里がほとんどない関西本線を走ったディーゼルカーは加茂駅に着いた。
このディーゼルカーにとって終着駅である。
加茂駅からは電化されており、京都府内ではあるが奈良市に近い場所にあって、同じ関西本線でもアーバンネットワークでは大和路線と呼ばれる範疇にあり、大阪に向けて快速が走っている。
加茂駅でディーゼルカーを降りて、JR難波駅行きの快速に乗り込んだ。
何か娑婆に戻ってきたような気分だった。
加茂駅を出た快速は、奈良駅に着いた。
これで大阪駅、京都駅、大津駅、奈良駅と、四つの府県庁所在地の中心駅をクリアしたことになる。
このまま快速に乗って天王寺駅に行っても120円の旅は完成するのだが、まだ和歌山駅が残っている。
そこで初志を貫徹すべく、快速を王寺駅で降りて、和歌山線に乗り換えた。
ここからは再びローカル線である。
一応は電化されているとはいえ、2両編成で各駅停車、ほとんどの駅は無人駅だ、
午前中から始めた120円の旅、ここまで何も食べていないことに気が付いた。
特急列車ではないのだから駅弁を販売しているわけもなく、そのまま乗り換えてきただけだった。
でも、王寺駅に着いたのは午後4時40分頃、和歌山行きの電車は5時1分だったので、ここで腹ごしらえをしようと思った。
ところが、王寺駅は結構大きな駅なのに食堂もなく、キオスクで駅弁も売っておらず。
かろうじてサンドイッチだけは売っていたので、それを購入してなんとか飢えを凌いだ。
午後5時1分、和歌山線の和歌山行き列車が発車した。
奈良県にある王寺駅から高田駅、吉野口駅、五条駅などを経由して和歌山県内に入り、橋本駅、高野口駅、粉河駅、岩出駅などを通り終点の和歌山駅に着くまでは、想像を絶するような長い道程だった。
何しろ各駅停車のうえ、単線だから複線の駅に着くたびに行き違えをして、対向電車を待たなければならないのである。
和歌山県は人口減少の歯止めがかからないそうだが、そりゃこんな不便なところでは、人口が減少しても仕方がなかろう。
結局、奈良県内の王寺駅から和歌山駅まで2時間21分もかかった。
もしJR西日本ご自慢の新快速を走らせたら、この距離なら1時間ぐらいで走ってしまうだろう。
和歌山駅に着いたのは7時22分。
大阪駅、京都駅、大津駅、奈良駅、和歌山駅という、神戸駅を除く近畿2府3県の府県庁所在地中心駅のミッションをクリア!
ここから阪和線に乗り換えるわけだが、いよいよ腹ごしらえせねばと思った。
今までは乗り換え駅の駅構内にメシを食う場所はなかったが、和歌山駅構内なら立ち食いうどんぐらいは食える。
立ち食いうどん屋を見つけ、きつねうどんを注文すると、おばちゃんは、
「兄ちゃん、ごめん。うどんもそばも玉を切らしてん。弁当やったらアカンか?800円の弁当を600円に負けたるさかい」
と言った。
次の天王寺行き紀州路快速は7分ぐらいしかなく、特急でもないのに電車の中で駅弁を食ってもいいのかと思ったが、これを逃したら晩飯にはありつけないと思い、この駅弁を購入した。
紀州路快速は長椅子ではなく二人掛けシートだったので、問題なく駅弁を食うことができた。
とはいえ、阪和線に乗り込む頃には日はとっぷりと更け、車窓は真っ暗になっていたので乗り鉄を楽しむことはできなかった。
天王寺駅に着いて120円旅を完成させたものの、そこから近鉄南大阪線に乗り換えたが、帰りの最終バスには間に合わなかった。
何しろ我が家はド田舎にあるので、土日祝日の最終バスはなんと午後8時50分なのだ。
やむなく、最寄駅からタクシーで我が家に戻った。
バスだったら260円で済むところを、タクシーで1540円も使ったのだから、何のために120円旅をしたのかわからない。
しかも、南海特急の「こうや」で特急料金500円も払ったもんなあ……。