世の中には、同じように思えるのに、言葉が違っている場合がある。
そんな言葉を集めてみた。
◎「夕焼け」と「夕映え」の違い
よく晴れた日、西の空に沈む夕陽は実に美しい。
そんな情景を指す言葉に「夕焼け」と「夕映え」がある。
では「夕焼け」と「夕映え」では、どう違うのだろうか?
「夕焼け」とは、上記のように日暮れ時、夕陽によって赤く染まった西の空のことを指す。
「夕映え」は、そのとき夕陽によって照らされた風景のことだ。
基本的には同じと考えてもいいが、詩的表現で使い分ける人も多い。
ちなみに英語では、「夕焼け」も「夕映え」も「evening glow」あるいは「sunset glow」などという。
◎「ワシ(鷲)」と「タカ(鷹)」の違い
肉食の鳥として有名な「ワシ(鷲)」と「タカ(鷹)」。
両者に違いはあるのだろうか?
分類上はどちらもタカ目タカ科の鳥類で、明確な違いはない。
ただ、比較的大きな種類を「ワシ」と呼び、小さな種類を「タカ」と呼ぶだけだ。
英語でも「ワシ」は「eagle(イーグル)」、「タカ」は「hawk(ホーク)」と、日本語と同じように使い分けている。
つまり、チーム名によく使われる「イーグルス(Eagles)」も「ホークス(Hawks)」も、種類としては全く同じというわけだ。
ところで、平和的なことを「ハト派」、好戦的なことを「タカ派」などというが、なぜ「ワシ派」とは呼ばないのだろう?
タカよりもワシの方が大きいのだから、より好戦的な感じなのに。
「ワシ」は一人称として使われるので、「ワシ派」だと単なる自己チューに感じるからかも。
◎「クジラ(鯨)」と「イルカ(海豚)」の違い
水生哺乳類の代表格である「クジラ(鯨)」と「イルカ(海豚)」。
両者の違いは、ワシとタカの場合と同じで、大きいのが「クジラ」、小さいのを「イルカ」と呼ぶ。
ただし、クジラ目の中でも「ヒゲクジラ」と「ハクジラ」に分かれる。
ヒゲクジラには、世界最大の動物として知られるシロナガスクジラなどがあり、マッコウクジラはハクジラの仲間だ。
イルカはどちらに属するのかと言えば、ハクジラである。
シャチもハクジラの一種だ。
つまり、マッコウクジラから見ればシロナガスクジラよりも、イルカやシャチに近い種類と言える。
ちなみに、なぜ「イルカ」を「海豚」と書くのかと言えば、16世紀ごろの中国の事典に「イルカは海に住み、豚に似ている」と説明されていたからだ。
◎「アイアン(iron)」と「スチール(steel)」の違い
ゴルフ・クラブの「アイアン(iron)」。
クラブのヘッド部分が鉄製だったためそう呼ばれているが、鉄を加工する会社では「スチール(steel)」と呼ぶのが一般的で、「○○スチール株式会社」という会社は多いが「○○アイアン株式会社」はあまり聞かない。
実は、「鉄」そのものは「アイアン(iron)」で、「スチール(steel)」とは「鋼(はがね)」のことだ。
鉄というのは非常に硬いが、そのままでは脆くて役に立たない。
これが「アイアン(iron)」の状態である。
そこから炭素や不純物を取り除いたのが「鋼」、つまり「スチール(steel)」だ。
「鋼」即ち「スチール(steel)」になると非常に強く、加工もしやすくなって、あらゆる製品となる。
ちなみに、服のシワを伸ばすときに使う「アイロン(iron)」は「アイアン(iron)」と語源は全く同じ。
発音は「アイアン」の方が近い。
◎「クロー(claw)」と「ネイル(nail)」の違い
どちらも「爪」と訳される「クロー(claw)」と「ネイル(nail)」。
両者の違いは簡単で、「クロー(claw)」とは動物の爪(ネコの爪のようなもの)、「ネイル(nail)」は人間の爪だ。
したがって「ネイルサロン」はあっても「クローサロン」はない。
フリッツ・フォン・エリックの必殺技に「アイアン・クロー(iron claw=鉄の爪)」があるが、エリックは言うまでもなく人間なので「クロー(claw)」というのはおかしいのではないか。
しかも、前項でも説明したように「アイアン(iron)」は脆いのだから、人間が繰り出す強い必殺技としては「スチール・ネイル(steel nail)」と呼んでもらいたい。
◎法律事務所と法務事務所の違い
過払い金請求のCMでよく見かける「法律事務所」と「法務事務所」。
普通の人には、両者の違いなんて判らないだろう。
しかし、「法律事務所」と「法務事務所」では、根本的に違うのだ。
「法律事務所」とは、簡単に言えば弁護士事務所のことである。
弁護士事務所は、必ず「法律事務所」と名乗るよう、それこそ法律で義務付けられているのだ。
ただし例外があって、弁護士法人の場合は事務所名に「弁護士法人」と謳っていれば、この限りではない。
もちろん、弁護士以外が「法律事務所」と名乗ることは、法律で禁じられている。
一方の「法務事務所」は法律では定められてなくて、弁護士以外の例えば司法書士や行政書士などが「法律事務所っぽい名前」として勝手に名乗っているだけだ。
ただし、一般の人には「法律事務所」と「法務事務所」の違いなんて判らず、紛らわしいので、必ず事務所名に「司法書士」とか「行政書士」を入れなければならない。
たとえば「司法書士○○法律事務所」などと書かれていれば、それは立派な「法律違反」だ。
こういう場合は「司法書士○○法務事務所」と名乗れば、法律違反ではないのである。
だから「○○法律事務所」と言えば弁護士事務所、「○○法務事務所」と言えば弁護士以外の事務所と思って間違いない。
ちなみに司法書士とは登記を扱うプロであり、行政書士は書類作成のプロである。
弁護士、司法書士、行政書士は「8士業」の一つであり、いずれも国家資格を有するが、司法試験に合格する必要があるのは弁護士だけだ。
司法試験の合格が必要なのは、弁護士以外では裁判官と検察官(検事)だけであり、法律家と言えばこの3つのみを指し、司法書士や行政書士は法律家とは呼ばれないのが普通。
裁判に関わることができるのは、(原告、被告、被告人、証人など以外では)素人の裁判員を除いて裁判官、検察官、弁護士しかいない。
ただし、法務大臣に認定された認定司法書士だけは、制約があるとはいえ簡易裁判所で代理人になることができるため、法律家に含まれるという意見もある。
以前、行政書士会が「街の法律家」と宣伝したため、弁護士会が激怒し、抗議したことがあった。
行政書士ごときが法律家を名乗るな!というわけだ。
主役が行政書士のドラマで、行政書士が法的事務を行ったりすると、すぐに弁護士会から抗議が来る。
司法試験に合格し、裁判に参加する弁護士のプライドは相当なものなのだろう。