大相撲の秋場所が始まり、中盤戦を迎えた。
八百長問題や野球賭博問題で人気が低下した大相撲だが、日本人の相撲好きは変わらないだろう。
いや、むしろ外国人の方が、相撲を日本文化の象徴として好む人が多いかも知れない。
相撲の最大の長所は、なんと言ってもシンプルさだろう。
今年のロンドンオリンピックでは、柔道で判定が物議を醸した。
そもそも柔道では一本勝ちが基本なのに、微妙な判定で勝負が決まることが多いので、素人にはわかりにくい。
同じ格闘技でも、ボクシングはKOで勝負がついた試合ならスカッとするが、多くの試合は判定に持ち込まれる。
その点、相撲は判定などなく、単純明快でいい。
しかも体重によるクラス分けがないから、誰が一番強いかがすぐにわかる。
白黒をハッキリつけるのに、こんなに適した競技はない。
だが、そんな相撲のルールにも不満がある。
相撲のルールは簡単で、相手の足の裏以外の部分を地面に付けるか、相手を土俵の外に出してしまえば勝ちだ。
このうち、相手の足の裏以外の部分を地面に付ける、というのは即ち相手を倒すということだがら、理に適った勝敗決着法だと言える。
相手を倒す、これぞ強さの象徴だ。
問題は、相手を土俵の外に出せば勝ち、というルールである。
たとえばケンカで、相手を一定ラインの外側に送り出せば勝ち、なんてことがあるだろうか。
強さとは、相手をアウト・オブ・バウンズ(場外)に出すことではなく、あくまでも相手を倒すことである。
とすれば、相手を土俵の外に出しただけで勝てるルールは、真の強さを測るものではない。
だが実際には、大相撲で最も多い決まり手は寄り切りで、要するに多くの勝負では相手を倒していないのである。
これでは真に強い力士は誰かわからない。
たとえばプロレスでも場外リングアウトでの勝ちは、何となく白けるではないか。
あくまでもリング内でのピンフォール、あるいはギブアップでの勝ちでないと、レスラーは本当に強さを示したことにはならない。
リーグ戦によっては、ピンフォール勝ちやギブアップ勝ちよりも、リングアウト勝ちや反則勝ちでの勝ち点を低くするルールさえある。
一時期はレスラーがプライドや商品価値を守るため、同じ負けでもリングアウトや反則での決着が横行したが、ファンのひんしゅくを買ったため出来るだけリング内で勝負を着けるようになった。
相撲ならば、相手を倒しての勝ちを、土俵を割った勝ちよりも優遇する措置を取るべきである。
しかし大相撲では、どんな勝ち(たとえ不戦勝でも)でも勝ちは勝ち、負けは負けで価値は同じ、というのが根本的な考え方だ。
したがって、同じ勝ちに優劣を付けるのは難しい。
そこで考えたのが、相手を土俵の外に出しても勝ちとはならない新ルールだ。
柔道やアマチュア・レスリングでも、場外に出れば一端ブレイクして、試合再開するではないか。
相撲でも、どちらかが土俵の外に出れば、両者を中央に戻して試合再開すればいい。
両者が組み合った状態で外に出たのなら、その体勢のまま(たとえば右四つなら右四つのまま)中央に戻して試合再開する。
押し出したような形で外に出たのなら、もう一度仕切りからの立ち合いで勝負を始める。
もちろん、どちらかが土俵外に出ても、技の流れでそのままどちらかが倒れたら、倒した方の勝ちだ。
元々相撲には土俵なんてなかった。
だだっ広い広場で、どちらかが倒れるまで勝負を続けたのである。
そんな野性的な格闘技だった相撲に、土俵を与えたのは織田信長だと言われている。
試合場が広いと弱い方が逃げ回り、いつまで経っても勝負がつかないので、短気を起こした織田信長が怒って小さい円を書き、この中で決着をつけろ、と命じたという。
これが土俵の始まりだ。
勝負を決着させるために試合場を狭くする、というアイデアは良かったが、相手を外に出せば勝ち、というルールができたために、相撲に野性味がなくなったと言わざるを得ない。
そこで、試合場(つまり土俵)の広さはそのままにして、場外勝利を無しにするというのが今回の新ルールである。
このルールだと、力任せに押し出したり、体格差に物を言わせて土俵の外に押しやる相撲は影を潜め、あくまでも四つ相撲が基本となって投げ技中心の鮮やかな格闘技になること請け合いだ。
そして、張り手一発で相手をKOするという、ド迫力なシーンも期待できる。
また、体勢を立て直したい時に自分の足を土俵外に出して、ロープブレイク、いや土俵ブレイクなんて新戦法も行使されるに違いない。
さらに、倒れないまま土俵外に出た両者がそのまま場外乱闘という、スリリングな展開になるだろう。
場合によっては、まわしに凶器を隠し持った力士が凶器攻撃をして、大流血戦になるかも知れない。
格闘技の醍醐味が詰まった、なんと画期的なルール改正ではないか。
日本相撲協会のみなさま、この新ルールをぜひご検討いただきたい。