ラグビー・ワールドカップが開催された日の東大阪市花園ラグビー場
11月30日~12月15日まで、熊本県で女子ハンドボール世界選手権が開催されていた。
そのことについて、筆者は「週刊ファイト」で書いている。
詳しくは上記の記事を読んでいただくと判るが、要約すると以下のようになる。
★ハンドボール世界選手権は2年に1度行われ、女子の日本開催は初
★男子は1997年に熊本で開催されたが、熊本県はハンドボールが盛んなため
★今大会では31万人超の観客を集め、協会は「予想以上の大成功」という見解
★実際には地元の子供の無料招待客が多かった
★ある試合ではメイン・スタンドを閉鎖、TVでは満員のバック・スタンドだけ映した
★地元TVは地上波生中継、新聞は一面だったが、全国中継はなく全国紙はベタ記事
★本来有料のJ SPORTSでは無料中継したが、ラテ欄の扱いは小さくほとんど知られず
★結局、盛り上がったのは熊本だけで、全国的には認識されなかった
今回の世界選手権について元:福岡ソフトバンク・ホークスの松中信彦が言及した。
プロ野球選手だった松中がなぜハンドボール?と思うかも知れないが、松中は熊本県出身で長男がハンドボールをしており、今大会の特別サポーターを務めたのである。
松中は、今大会が全国的には盛り上がらなかった理由を「普及活動も必要だが、何よりも日本代表が強くなることが大事」と分析する。
松中自身、2006年に行われた第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場、日本代表(当時はまだ侍ジャパンという呼称はなかった)が優勝して日本中が熱狂の渦に巻き込まれた。
実は第1回WBC、開幕した頃は今から考えると信じられないほど、全く盛り上がってなかったのだ。
筆者は東京ドームでのアジア・ラウンドの全試合を現地観戦したが、日本の試合でも中国戦はガラガラ、台湾戦はそこそこの入り、韓国戦で満員になったものの、ほとんど注目されてなかったのである。
潮流が変わったのは、アメリカでの二次ラウンドでボブ・デービッドソン(懐かしい名前だねえ)による「確信的誤審」が勃発してからだ。
あれ以来、日本のメディアは一斉にWBCを報道するようになった。
奇しくも、ハンドボールが最も注目されたのは2007年の「中東の笛」問題のときである。
スポーツの国際大会で日本に不利な判定が下ると、国民の注目を集めるらしい。
また、松中は日本で開催されたラグビー・ワールドカップになぞらえて「今回のラグビー・フィーバーも突然の出来事ではない」と指摘。
つまり、2015年のW杯で優勝候補の南アフリカ(スプリングボクス)に勝ったことが、今年のラグビーW杯の大成功に繋がったというわけだ。
したがって、ハンドボールも日本代表が強豪国に勝てば注目も集まり、メジャーになっていくと松中は語る。
だが、本当にそうだろうか。
たとえ今大会でハンドボール女子日本代表(「おりひめジャパン」と呼ぶらしい)が強豪国を破って上位進出したとしても、大して盛り上がらなかったような気がする。
仮に、一時的に盛り上がったとしても、一過性のもので終わっただろう。
あの「中東の笛」問題のときも、あれだけワイドショーなどでも騒がれてハンドボールが注目されたのにもかかわらず、その後は全くなしのつぶてだった。
あの頃には宮﨑大輔というスター選手がいたのに、そのビッグ・チャンスをハンドボール界は活かせなかったのである。
結局、あのときには日本代表がオリンピックに出場できなかったから人気を持続できなかったという意見もあるが、たとえ五輪に出場していたとしてもメダルでも獲らない限り、大して注目されなかったに違いない。
また、メダルを獲ったとしても銅メダル程度なら、すぐに忘れ去られていただろう。
「普及活動よりも勝つことが人気に繋がる」というのは選手経験者がよく言うことだが、勝てば人気が上がるというのは昔の考え方だ。
マネジメントをしっかり行わなければ、いくら勝っても人気など上がらない。
ハンドボールは、ヨーロッパではサッカーに次ぐ人気スポーツで、ラグビーよりもルールが判りやすく、日本でもラグビーより競技人口が多いのに人気がないのは、明らかに普及活動の怠慢である。
WBCで優勝したことにより野球が注目されたのは、元々野球人気が高かったからだ。
ラグビーW杯が今回注目されたのも、潜在的ファンが多かったうえに、前回大会でスプリングボクスに勝ったという重大さを、多くの人が理解したからである。
ハンドボールでいくら強豪国に勝っても、その意味が理解されなければ重大さも伝わらない。
日本代表が勝てば国内人気も盛り上がるというのなら、たとえばアメリカン・フットボールはどうか。
アメフトでは1999年から4年に1度、世界選手権が行われているが、過去に5回開催され(第3回大会までの名称はワールドカップ)、そのうちの第1、2回大会を日本代表が連覇している。
5回の大会のうち、日本代表は優勝2回、準優勝2回、3位1回という輝かしい戦績を誇っているのだ。
2007年の第3回大会は日本(神奈川県川崎市)で開催され、日本代表は惜しくも準優勝だったものの、決勝戦では優勝候補のアメリカに延長戦の末に敗れるという大熱戦を演じたのである。
にもかかわらず、日本ではこの大会のことすらほとんど知られていない。
なぜか。
その理由として、日本が優勝した第1,2回大会は、いずれも肝心のアメリカが出場していないということがある。
第3回大会からアメリカが参加し、そこから3連覇したが、アメリカ代表というのは全く無名の大学生を中心に編成されたチームだ。
つまりアメリカは、世界選手権など歯牙にもかけていないのである。
アメリカ開催となった2015年の第5回大会は、あれだけアメフトに熱中する国民にもかかわらず、スタンドは全くのガラガラだった。
第5回アメフト世界選手権決勝、アメリカ×日本。スタンドはガラガラ
いくら世界選手権準優勝でございと威張っても、日本代表という精鋭陣がアメリカの無名大学生にも勝てない(しかも第5回大会では惨敗だった)ようではシラケるばかりだ。
ある日本人のアメフト専門カメラマンなどは「アメフト世界選手権なんて、日本では悲しいぐらい誰も知らない」と嘆いていたほどである。
また、1999年から始まり、4年に1度行われるのなら、2019年は第6回大会になる、と気付いた人はいるだろうか。
でも上記では、過去に5回開催された、と書いた。
つまり、2019年に行われる予定だった第6回大会は延期(要するに中止)となったのである。
日本代表も出場するはずだったにもかかわらず、開催中止という重大な事柄すら、日本ではほとんど報道されなかった。
世界選手権とはいえ、簡単に延期されるような権威のない大会、と思われたのだろう。
いくら国際大会で日本代表が好成績を挙げようが、場合によってはそれが人気に繋がらないことがよくわかる。
たとえばサッカーのワールドカップなど、日本代表が予選グループで1勝もできなかったとしても、日本国内では充分に盛り上がるのだ。
FIFAワールドカップの権威と重みは誰もが判っているから、出場するだけでも凄いと思われるのである。
代表チームの強化は必要だし、勝てば人気が上がることもあるが、それだけでは不足だ。
やはり、そのスポーツの魅力を発信していくことが大切である。
特に現在ではスポーツ・マネジメントの重要性が認識されており、「勝利が人気向上への近道」と考えるのはもはやナンセンスだ。
これは代表チームだけではなく、国内リーグでも同じである。