テレビ朝日系列の「帰れマンデー見っけ隊!!」という番組がある。
この番組には大きく分けて2パターンあり、サンドウィッチマンがローカル路線バスに乗って飲食店を探すバージョンと(「バスサンド」)、タカアンドトシがローカル鉄道に乗って飲食店を探すバージョンだ。
いずれもサイコロを振って、出た目だけ進んでその停留所(鉄道の場合は無人駅)の周辺で飲食店を探すわけだが、ハッキリ言ってド田舎でロケするのでそう簡単に飲食店が見つかるわけもなく、何kmも歩く羽目になる。
「バスサンド」の方は、タレントの都合からか関東周辺でロケを行うことが多いが、出来れば関西まで来ていただきたい(奈良に来たことはあったか)。
たとえば大阪にだって、ローカル路線バスはある。
それが、大阪府南東部を走る金剛バスだ。
金剛バスは、東京で言えば同番組にも時々登場する西東京バスのようなもので、他の鉄道会社などには属さない、大阪では珍しい独立系の交通会社である(西東京バスは京王電鉄の子会社らしいが)。
金剛バスを運営しているのは金剛自動車株式会社で、路線バス事業の他にも金剛タクシーというタクシー事業を展開している。
金剛バスが走っているのは富田林市の東部と、南河内郡の太子町・河南町・千早赤阪村という狭い範囲だ(羽曳野市の一部にも乗り入れ)。
この地域は近鉄沿線にもかかわらず、近鉄バスが入り込めないという、金剛バスの独占状態である(千早赤阪村には南海バスが一部乗り入れ、後述)。
何しろ、太子町と河南町、千早赤阪村には鉄道路線がないのだから、金剛バスがなければ陸の孤島となってしまうのだ(太子町のみ、羽曳野市にある近鉄南大阪線の上ノ太子駅へ徒歩可能な地区がある)。
金剛バスは大阪府内でも屈指の田舎を走るうえ、未だにICカードを使えないという、今時珍しい路線バスである。
今回、金剛バスで大阪版「バスサンド」を行うのは、千早線の20番系統、富田林駅前~千早ロープウェイ前に至る路線だ。
大阪府で最高峰を誇る金剛山(標高1,125m、山頂は奈良県御所市にあるため、大阪府での最高地点は1,053m。トップ画像参照)へ至る路線で、大部分を大阪府で唯一の村である千早赤阪村を走るド田舎路線である。
起点から終点まで、直線距離にして約12kmと案外短いが、かなり湾曲するので実際にはもっと距離は長く、しかもほとんどが登り坂だから、歩くのは相当キツい。
バスには登山客は多いものの、通勤や通学に使う人はほとんどなく、行楽シーズン以外は寂しい車内だ。
なお、起点から終点までの運賃は590円で、降りずに最後まで行くと約40分かかる。
バスの本数は、平日の場合は8時台から16時台まで1時間に1本、土日祝日の場合は1時間にほぼ2本だ(金剛山登山口の停留所行きなら6時ぐらいから19時台まである)。
停留所の数は、起終点を含めて22ヵ所ある。
それでは、「帰れマンデー」金剛バス千早線20番系統の旅に出掛けよう。
なお、紹介する飲食店は、筆者が知っている飲食店か、ネット地図に記載されている飲食店で、ひょっとすると他に飲食店があるかも知れない。
※( )内の運賃は、富田林駅前からの料金
(1)富田林駅前(富田林市、運賃0円)
人口約11万人の富田林市の中心駅だ。
近鉄南大阪線のターミナルである大阪阿部野橋駅からは、直通の準急もしくは急行で約30分かかる。
駅前には飲食店が多数あるが、サイコロの目に0はないので、あまり関係がない。
なお、上の写真に写っているのは駅の南口ロータリーで、緑のバスが金剛バスだ(タクシーは金剛タクシーではなく第一交通タクシー)。
建っているのは楠木正成の石碑である。
それでは富田林駅の南口ロータリーの2番乗り場から、千早線20番系統の千早ロープウェイ前行きバスに乗ってスタート!
(2)堺筋(富田林市、運賃150円)
堺に通じる道だから「堺筋」という名称になったが、大阪市内の堺筋には通じていない。
バス停の西側には有名な寺内町が広がっており、飲食店はいくつかある。
また、富田林駅方面に戻ってもいいので、サイコロでいきなり1が出ても困ることはないだろう。
バス停から南の方には、目指す金剛山が見える(上の写真参照)。
(3)川向(富田林市、運賃150円)
堺筋から金剛大橋を抜けると、急速に片田舎の風情が目に飛び込んで来る。
川向は「かわむかい」と読み、流れている川は大和川水系の石川だ。
バス停の前には「西ます兵やまもと」という寿司屋があるが、寿司屋だけに昼間も営業しているのかどうかはわからない。
少し戻れば「ブリッジ」という店もあるが、焼き鳥居酒屋なので昼間は営業していないだろう。
この2店舗が営業していなければ、先へ歩いた方が賢明かも知れない。
(4)山中田(富田林市、運賃150円)
山中田と書いて「やまちゅうだ」と読む難読地名だ。
バス停の前にはサンプラザというスーパーがあり、いつも賑わっている。
ちなみに、2つ手前の堺筋にもサンプラザがあり、1kmに満たない距離で同じスーパーが競合しているという珍しい場所だ。
サンプラザの隣りには「食彩酒宴 雑魚屋」という飲食店があるが、ここは残念ながら昼間は営業していない。
他に店が見当たらなければ、先へ歩いた方が良かろう。
(5)大伴(富田林市、運賃150円)
だんだん富田林の中心街から離れていくが、大伴の近くには「豆の樹」という喫茶店がある。
手前の川向や山中田で飲食店が見つからなければ、大した距離ではないので1時間もバスを待つよりも「豆の樹」まで歩いた方がいいかも知れない。
(6)出屋敷(河南町、運賃180円)
大伴を越えると富田林市を終え、出屋敷で河南町に入る。
店はほぼ姿を消し、民家が少しあるだけで、完全な田舎だ。
何しろ関西ローカルの番組では「河南町は大阪府内で最もマイナー」と認定されたぐらいだ。
当然、飲食店もないのかと思われたが、バス停から少し戻るが「朝日屋河南店」という寿司屋があった。
ただし、距離的には大伴バス停の方が近いので、大伴で降りた場合でも「朝日屋河南店」まで歩いた方がいいかも知れない。
しかし、前述したように寿司屋なので昼間は営業していない可能性がある。
もし営業していなければ、先に進むしかない。
(7)五軒家(河南町、運賃230円)
五軒家は出屋敷からさほど距離は離れてないが、運賃はなぜか50円も跳ね上がる。
やはりこの辺りにも飲食店は見当たらない。
ただ、平地が続くので、歩くのはさほど苦にはならないだろう。
(8)寛弘寺(河南町、運賃230円)
バス通りからは外れるが、寛弘寺のバス停から西へ行った所に「いちご畑の米夢ちゃん」という店がある。
イチゴを売っているのかと思いきや、米粉パン屋だそうだ。
パン屋とはいえ、店内で食事もできるようだから、飲食店登録をしているのだろう。
逆に東の方へ行けば「ひぽたまの食卓」という飲食店があるようだ。
ただし、この店は定休日が多そうなので要注意。
また、バス通りを先に進んで「エリート」という喫茶店に行くという手もある。
飲食店ではないが、バス停の近くにはローソンがあり、ここを越えるとコンビニはほぼなくなってしまう。
このローソン、以前はデイリーヤマザキだったが、不幸にも殺人事件が起きて、店をたたんでしまった。
(9)神山(河南町、運賃230円)
神山と書いて「こうやま」と読む。
やはりバス通りから離れて、神山のバス停から西へ行けば「グリル愚留芽」という店があり、こちらは立派なレストラン。
幹線道路である国道309号線沿いにあって、洋食を堪能できる。
(10)森屋西口(千早赤阪村、運賃280円)
千早赤阪村の人口は約5千人で、大阪府下ではもちろん最も少ない。
バス通りから外れて、森屋西口のバス停から西へ行けば「オルターオーガニックカフェ千早赤阪Hills」という店があるが、次のバス停までの距離とさほど変わらないので、そのままバス通りを歩いた方がいいだろう。
ただし、千早線20番系統は森屋の交差点で右折するが、この交差点は道が幾つかあるので、間違わないように気を付けなければいけない。
(11)森屋(千早赤阪村、運賃280円)
森屋は千早赤阪村の中心街だ。
上の写真でわかるように、バス停の前には「喫茶カタロ」という、昔ながらの喫茶店がある。
なんと来年で開店50周年だそうだ。
仮にサイコロの目で森屋をバスで通り過ぎても、1つや2つ先のバス停なら「喫茶カタロ」まで戻った方がいいかも知れない。
停留所名通り、目の前に村役場があるが、周りには飲食店があるわけではない。
前述したように、森屋のバス停まで近いので「喫茶カタロ」に戻った方が賢明だろう。
ただし、森屋で振ったサイコロが1で、既に「喫茶カタロ」に入っていた場合は、厳しくなるが先へ行くしかあるまい。
(13)千早赤阪中学校前(千早赤阪村、運賃320円)
坂を登って行けば千早赤阪村立中学校があり、さらにその奥には楠木正成ゆかりの下赤坂城跡がある。
言うまでもなく、楠木正成が少数ながら鎌倉幕府軍を散々悩ませた城だ。
城跡から下を眺めると、日本の棚田百選にも選ばれた下赤阪の棚田が見える。
毎年11月にはロウソクの火でライトアップされ、実に幻想的な光景だ。
しかし、ライトアップの時には大賑わいになるが、残念ながらこのバス停付近には飲食店はない。
上の写真は飲食店に見えるが、実際には農産物の直売所である。
(14)消防分署前(千早赤阪村、運賃390円)
この辺りから千早赤阪村の中心街を離れていく。
当然、飲食店もなく、前へ進む以外に方法はない。
(15)東阪(千早赤阪村、運賃390円)
バス停の近くにはJAや呉服店などがあるものの、飲食店はない。
諦めて前へ進むべし。
(16)東阪中(千早赤阪村、運賃460円)
バス停から戻る形になるが、東側への道を行くと「ラ・フォレスタ」というカフェがある。
この店は南河内林業総合センター内にあり、中は工芸品で溢れていて、カフェとは気付きにくいかも知れない。
実は、この店に行くには裏技があって、消防分署前のバス停近くにある分岐点に戻り、左斜め方へ行けば、その道沿いに「ラ・フォレスタ」があるのだ。
つまり、消防分署前かその手前で降りた場合、バス通りから外れて左斜めへ行って「ラ・フォレスタ」に入るのが賢明な作戦である。
直線距離では、東阪のバス停からの方が「ラ・フォレスタ」に近いが、そこへ行く道がないので、東阪中のバス停からの方が近くなる。
とはいえ、東阪で降りた場合でも「ラ・フォレスタ」に行った方がいいだろう。
(17)上東阪(千早赤阪村、運賃460円)
いよいよこの辺りから店そのものがなくなってきた。
民家が多少あるだけで、飲食店などありそうもない。
登り坂も険しくなり、停留所の1区間の距離も長くなる。
直線距離だけで言えば「山燈花」という評判の高い飲食店もあるのだが、そこへ行く道はないため大きく迂回しなければならず、バスのルートからもかなり外れてしまうので、あまりお勧めできない。
(18)岩井谷(千早赤阪村、運賃490円)
とうとう民家すら全くなくなってしまった。
一体誰がこの停留所を利用するのだろう?という所にバス停がある。
まさしく「帰れマンデー」らしい停留所と言えるだろう。
運賃も500円超え、ワンコインでは足りない料金である。
ここで南海バスと合流する。
南海バスは、南海高野線および近鉄長野線の河内長野駅から金剛山方面へ向けて運行しており、ここからは停留所も金剛バスと同じだ。
ただし、今回のルールとしては金剛バスのみに乗るべきだろう。
もちろん、実際に金剛登山を楽しむ場合は、行きは富田林駅から金剛バスで、帰りは南海バスで河内長野駅へ、と組み合わせてもいいわけである。
しかし、上の写真を見ればわかるように、飲食店はおろか店も民家も全くない。
キツい登り坂をえっちらおっちら登って行くしかないだろう。
(20)金剛登山口(千早赤阪村、運賃540円)
いよいよ金剛登山口に到着。
東阪のバス停から4つ目で、その間は飲食店が全くなかった。
直線距離で約3.5kmと大したことはないように思えるが、実際にはカーブでぐにゃぐにゃした山道のためもっと距離は長かっただろうし、何よりもずっと登り坂だ。
ちなみに、このバス停の標高は520mで、金剛山のほぼ中腹である。
つまり、この登山口から標高1,125mの金剛山に登る人は、実際には600mほどしか登らないわけだ。
筆者は中学生の頃の耐寒登山では、平地にあった中学校から歩いて金剛山に登ったから、1,000mは自力で登ったはずである。
その中学校に富山出身の先生がいて、その先生は「富山は高い山ばっかりで、金剛山程度の山は『裏山』と呼んでいて、まともな名前なんて付いてなかった」とヘンな郷土自慢をしていた。
それはともかく、このバス停は登山口だけあって、飲食店には事欠かない。
上の写真は「一休茶屋」といい、以前は食事も出していたようだが主人が亡くなって、今ではコーヒー程度しか飲めないようである。
飲食店登録しているかどうかは不明だが、仮に飲食店ではなくても、少し戻ることになるが「そば縁」という蕎麦屋があり、そこが定休日でもバス道の外れには「千早の風」という喫茶店や「金剛山麓まつまさ」という食堂もあるので心配無用だ。
飲食店とは関係ないが、バス停の近くには、楠木正成と鎌倉幕府軍が激しく戦った千早城跡がある。
(21)鱒釣り場前(千早赤阪村、運賃590円)
千早赤阪村はマスが特産品である。
このバス停の前には、その名の通りマスの釣り場があるのだ。
そして、この釣り場には「レストラン千早川」が併設されており、釣ったマスを調理してくれて、それを食べることができる。
ただ、この店が飲食店登録されているのかどうかはわからない。
しかし、少し戻ることになるが「ウッディハート」というカフェがあるので心配はないだろう。
ただし、17時には閉店してしまうので、早めに旅を終わらせる必要がある。
また、月曜日は定休日だ。
(22)千早ロープウェイ前(千早赤阪村、運賃590円)
遂に終点の千早ロープウェイ前だ(南海バスの停留所名は「金剛山ロープウェイ前」)。
金剛山ロープウェイは日本で唯一の、村営ロープウェイとして知られている。
起点の千早駅は標高708mと、金剛登山口よりも188mも高い。
終点の金剛山駅まで約6分で着き、高低差は267mだ。
つまり金剛山駅は標高975mで、駅から山頂まで150m登らなければならない。
バス停から千早駅まで結構離れており、徒歩約10分かかる。
ロープウェイの方へ歩いて行くと「くるの茶屋」があり、そこで食事すれば正真正銘のゴールだ。
ただ、現在ロープウェイは耐震強度不足が判明したため、当分の間は運休となっており、運行再開の目途は立っていない。
ロープウェイが運休していると「くるの茶屋」も休んでいる可能性がある。
そうなると、周りには飲食店などないので、本当の意味で「帰れマンデー」になるかも知れない……?
金剛山ロープウェイの入口
今回は大阪府南東部の金剛バスで「帰れマンデー」をシミュレーションしたが、大阪府北部でも可能だろう。
ひょっとすると、金剛山へ行くよりも厳しい「帰れマンデー」になる可能性がある。
テレ朝さん、大阪府内での「帰れマンデー」を検討してみてはいかが?