【政府が示したNPB16球団制案】
政府与党の自由民主党が、日本プロ野球(NPB)の球団拡張(エクスパンション)を行い、16球団制に移行する案を提示した。
安倍晋三内閣総理大臣も賛成の意を表し、アベノミクスの一環として経済効果を期待するという。
内容としては、NPB空白地帯である静岡県、北信越、四国、沖縄県に本拠地を持つNPB球団を発足するという、以前にスポーツライターである二宮清純氏が提言した内容とほぼ同じだ。
筆者の感想としては、なぜこんな意見が政府の側から出てくるのだろう、と思う。
NPBとは一般社団法人日本野球機構であり、政府の関与しない独立した組織だ。
政府主導でエクスパンションをすると、NPBが政治的利用されないとも限らない。
本来ならNPBがエクスパンションを提示して、政府に協力を求めるのが筋だろう。
筆者の知人で、かつては阪神タイガースで通訳や営業を担当、現在は独立してスポーツビジネス会社を運営している河島徳基氏が、こちらで今回の問題について言及しているので、ぜひ参考にしていただきたい。
【16球団制は必要か?】
とはいえ、筆者としては16球団制自体には賛成だ(ただし、人口比率や交通アクセス、気候などを考えると、沖縄県より鹿児島県の方がいいと思うが)。
現実問題として、12球団制ではビジネスが成り立たなくなりつつあるのである。
前述したように、この問題は本来ならNPB側が提言すべきことなのだが、各球団は自分の球団(あるいは親会社)の既得権ばかりを考えて、エクスパンションなど全く興味がないらしい。
順序は間違っているが、せっかく政府がエクスパンションを進めてくれると言っているのに、各球団の経営者は「そんなこと、できっこない」と言っているという。
本気でNPBの活性化など考えていない表れだろう。
だからこそ、2004年に起きた球団削減騒動では、1リーグ制8球団という情けない案しか出て来ないのだ。
ちなみに、北米のメジャーリーグ(MLB)はナショナル・リーグ、アメリカン・リーグ各15球団の計30球団だ。
韓国プロ野球(KBO)などは、国の人口が日本の半分以下にもかかわらず、現在は9球団(1リーグ)で構成されている。
さらに来年からは1球団増えて10球団制になるが、NPBよりも1試合当たりの観客動員数はずっと少ないのに、10球団制などやっていけるのか、こちらが心配になるくらいだ。
韓国では大財閥が親会社になっている球団が多いので可能なのだろうが、韓国でさえ10球団制になろうとしているのに、日本の野球人気を考えると16球団制も決して夢ではない、とも思える。
【ポストシーズンの必要性】
現在、NPBはご存知のようにセントラル・リーグとパシフィック・リーグ各6球団に分かれており、ペナントレースを行ってリーグ優勝を決める。
ところが、日本一を決める日本シリーズに出場するのは両リーグの覇者ではなく、各リーグのクライマックス・シリーズ(CS)を勝ち抜いたチームなのだ。
今さら説明するまでもないが、CSとは各リーグの上位3チームが出場し、ファースト・ステージとファイナル・ステージを戦って、その覇者が日本シリーズに進出する。
この奇妙キテレツな制度には批判も多く、特にオールドファンからは廃止にすべきだ、という意見が強い。
そもそもリーグ優勝チームが日本シリーズに進出できないのはおかしいし、何よりもペナントレースで5割に満たないチームが日本一になる可能性があるのはケシカラン、というわけだ。
その説、いちいちごもっともである。
だが、それでも現状ではCS制度もやむなし、と思う。
やむなし、というより、必要悪というべきか。
今の時代、レギュラーシーズンと日本シリーズだけでは興行は成り立たないのだ。
その証拠に、ペナントレースでは地上波全国放送がほとんどなくなり、あったとしても視聴率は低迷している。
ファンの興味を惹き付けるには、CSのようなポストシーズンが必要なのだ。
レギュラーシーズンは各地域のファンに見せる興行で、ポストシーズンはスリルある短期決戦で全国の注目を集める興行、というわけである。
両リーグ6球団でのポストシーズンは、現行のCS制度のようにならざるを得ない。
過去で言うと、パ・リーグでは1973年からの10年間、前後期制が敷かれていた。
ペナントレースを前期と後期に分け、それぞれの優勝チームが5回戦制のプレーオフを行い、3戦先勝したチームがリーグ優勝となる制度だ。
しかし、前期と後期の優勝が同じチームだとプレーオフは行われず、また前期優勝チームが後期になると「死んだふり」をするなどの弊害があり、さらに過密日程になるなどの問題があったので、82年を最後にこの制度は廃止された。
翌83年からは、ペナントレースで上位2チームが5ゲーム差以内だと5試合のプレーオフを行い、ペナントレースとプレーオフを合わせた勝率で優勝を決める、という制度に改められた。
だが、この制度が実施された3年間はいずれも優勝チームが独走したために、プレーオフは行われないままこの制度は廃止され、セ・リーグと同じプレーオフなしの1シーズン制に戻っている。
僅か6球団でポストシーズンを行うには無理があるのだ。
ポストシーズンがないと、10.19のような思わぬドラマが生まれる可能性もあるが、そんなことは滅多になく、また1チームが独走する場合も多いので、秋には消化試合ばかりになって白けたムードになる。
今の12球団制では、奇妙ではあるが現行のCS制度に頼るしかないのだ。
それが、16球団制になるとポストシーズンの問題は解決する。
両リーグ8球団だと、さらに4球団ずつ東西に分けることもできる。
4球団で地区優勝を争い、リーグ内の東西優勝チームでプレーオフを行って優勝を決めれば不公平感もなく、ポストシーズンを行えるのだ。
地区優勝を争うのが4球団というのはちょっと少ない気もするが、その代わり消化試合は減るだろう。
交流戦も、現行の制度ではオールスター戦の興味が薄れるなどの批判があるが、16球団制だと両リーグの東地区同士、西地区同士のみで行えば、オールスター戦ではペナントレースで対戦しない対決も見られるし、ファンの飢餓感も煽ることができる。
【NPBはいかにして12球団制になったか】
さて、ここまで書いてきたのはあくまでも理想論である。
エクスパンション反対派が唱えるのは、
「16球団もどうやって維持するのだ?僅か10年前には球団削減騒動があったではないか。4球団も増やすエクスパンションなんて机上の空論だ」
ということだ。
その意見が間違っているとは思えないし、むしろ正論だろう。
では、16球団制は本当に可能なのか?
それを検証する前に、どんな経緯でNPBが12球団制になったのか、その歴史を探ってみよう。
日本でプロ野球リーグが始まったのは戦前の1936年で、この時は1リーグ制の7球団だった。
内訳は、東京が3球団、名古屋に2球団、大阪(正確には西宮)に2球団と、地域的にはかなり偏っていた。
その後、球団数の変遷はあったが戦後の1949年暮れに、それまで1リーグ制8球団だったのが2リーグに分裂して現在まで続くセ・パ両リーグが誕生し、翌50年から両リーグによるペナントレースが始まる。
この年のセ・リーグは8球団、パ・リーグが7球団の計15球団。
なんと前年のほぼ倍の球団数である。
ちなみに、この頃のMLBはナ・ア各8球団、計16球団だったのだから、当時の日本での15球団はいかにも多すぎる。
何しろ、戦後僅か5年目の混乱期だったのだ。
あまりにも無秩序に球団が急激に増えたため、当然のことながら経営難に喘ぐ球団が相次いで、自然に淘汰されていった。
現在の6球団体制になったのは、セ・リーグが2リーグ分裂から僅か3年後の1953年、パ・リーグはそれよりさらに5年遅い1958年からだった。
それ以降、NPBの球団数は56年間、全く変わっていない。
日本の野球リーグは「6」という数字が好きなようだ。
東京六大学野球がそうだし、関西学生野球や関西六大学野球も6校、入れ替え戦がある東都大学野球も1部リーグは6チームで構成されている。
現在、NPBの新規参入はかなり高いハードルがあるが、それは2リーグ分裂直後に起きた無計画な球団増が原因だ。
球団経営に無責任な企業は安易に参入してくれるな、というわけで、この判断は正しかったと思う。
このハードルの高さが再認識されたのが2004年の球団削減騒動で、ライブドアが新規参入を認められなかったのは記憶に新しい。
だが、12球団体制が半世紀以上も経った今、エクスパンションを本気で考える時期にあると思う。
現在の球団経営者は「エクスパンションを検討したけれど不可能だった」のではなく「ハナからエクスパンションを考えていない」だけなのだ。
考えもせずに「机上の空論」と言っているのが現状である。
なお、MLBの球団数は、1950年頃は16球団と書いたが、どれぐらいの期間で16球団制だったのだろうか。
なんと、1901年(明治34年)にナ・ア両リーグ体制になってから60年間、ずっと変わらず16球団体制を維持してきたのだ。
MLBはNPB以上に頑固な組織だったようである。
MLBが2リーグ制になってから初めてエクスパンションが行われたのは1961年のこと。
この年、ア・リーグが2球団増えて10球団、両リーグ合わせて18球団になったのである。
翌62年にナ・リーグも2球団増えて10球団、計20球団となった。
その後、69年に両リーグ2球団ずつ増え、即ち計24球団となり両リーグとも東西2地区制に移行、リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(プレーオフ)が始まった。
77年にはア・リーグに2球団加盟して14球団、両リーグ計26球団となる。
さらに93年にはナ・リーグも2球団増えて14球団、計28球団となって、翌94年には東、中、西という3地区制を導入、2位チームのワイルドカードを加えたディビジョン・シリーズが行われるようになった(ただし、この年はストライキのため実行されず、実際に始まったのは翌95年から)。
98年には2球団増えてナ・リーグ14球団、ア・リーグ12球団という30球団体制になったが、その後も両リーグ間での球団の移動があり、現在は同じ30球団制ながら当時とは異なる両リーグ15球団ずつとなっている。
MLBが60年代から急激にエクスパンション政策を推し進めたのは、NFL(アメリカン・フットボール)やNBA(バスケットボール)などが台頭して来たからに他ならない。
危機感を抱いたMLBは生き残りのために新たなファンを獲得しようと、球団数を増やし続けたのである。
一方のNPBではどうか。
1993年にプロサッカーのJリーグが誕生し、プロ野球人気の低下が叫ばれたものの、NPBがやろうとしたのは球団数を2/3に削減する1リーグ制8球団構想だ。
MLBとは全く逆である。
つまり、新たなファンを獲得するのではなく、今あるファンを少ない球団で分け合おうとしたのだ。
球団を減らせば、1球団あたりのファンは増える、と。
こんな発想でNPBが発展するとでも思ったのだろうか。
もし球団を2/3に減らせば、ファンは現状維持はおろか2/3近くまで減ることを覚悟しなければならない。
だが、球団経営者は既得権ばかり考えていたので、そんなことはどうでも良かったのだろう。
実は、NPBでもエクスパンションを検討された時期があった。
1980年代、福岡にあったライオンズが埼玉に移転して西武ライオンズとなったために九州にはプロ球団がなくなったので、九州に新球団を設立しようという機運が高まったのだ。
九州の関係者はセ・リーグに加盟を打診したが、1球団だけだと球団数が奇数になるために難色を示し、そこで四国にも新球団設立を持ち掛けた。
これが実現していればセ・リーグは8球団になっていたが、球界再編は遅々として進まず、結局は89年に南海ホークスが大阪から福岡に移転して福岡ダイエー・ホークスとなったため、九州の新球団構想は立ち消えになった。
もし仮に、この時代にセ・リーグ8球団、両リーグ計14球団になっていたら……、と考えると、おそらく失敗していたと思う。
当時はプロ野球黄金時代で、テレビ中継も高視聴率を保っていたが、所詮は読売ジャイアンツ頼みの球団経営だった。
そんな状態で球団を増やしても巨人以外の球団は儲けが減り、ジリ貧に陥って元の6球団に戻っていただろう。
だが、現在は違う。
各球団はエクスパンションこそ考えてはいないとはいえ、少なくとも自球団の経営に関しては真剣に考えるようになった。
もちろんこれは、2004年の球団削減騒動と無縁ではない。
あの事件で、各球団の経営者はファンのパワーを本気で感じ取ったのだ。
それまでは、ファンなんて我々の意向でどうにでもなる、と高を括っていたのである。
特にパ・リーグの各球団は、フランチャイズが日本全国に散らばったこともあって、地域に根差した球団経営を行うようになった。
その成果が上がり、かつては閑古鳥が鳴いていたパ・リーグの球場には満員の観衆が詰め掛け、地元のテレビ局は我が街のチームの試合を放送する。
むしろ、巨人戦頼みの球団経営から脱却しきれていないセ・リーグの方が遅れを取るようになった。
【ファーム組織を改革せよ!】
では、16球団制を実現させるにはどうすればいいのか?
12球団制維持を唱える人がまず言うのが、
「現在でも2/3の球団が赤字経営なのに、16球団制などできるわけがない」
ということである。
では、なぜ赤字経営になっているのだろう。
エクスパンション反対論者による、そこまで言及した意見を聞いたことがない。
かつてのパ・リーグのように閑古鳥が鳴いているのならわかるが、現在では大抵の球場には大勢のファンが訪れているのに、なぜ多くの球団が赤字なのか。
要するに、儲け以上の支出があるから赤字になるわけだ。
球団経営で多額の支出があるのは、言うまでもなく人件費である。
こんなことを書くと、
「やっぱり、選手の年俸が高すぎるのだ。もっと年俸を下げろ」
という声が聞こえて来そうだが、そうではない。
年俸を下げたところで人材が流出するだけだし、現在のNPBの一軍選手年俸は妥当だと思える。
メジャーリーガーの年俸は高すぎると思うが。
一番の問題は、1球団が抱える保有人数にある。
現在、各球団の支配下登録選手は70名で、他にも育成枠選手がいるので球団によっては90名もの選手を抱えている。
出場試合登録選手(いわゆる一軍枠)は28名なので、半分以上は球団の儲けとはならない二軍選手なのだ。
これでは人件費がかさんで当たり前である。
しかも、現在ではどの球団も若手選手用に立派な合宿所を構えているが、その維持費や固定資産税もバカにはならない。
もちろん二軍用の本拠地もある。
これらを一つの球団が賄っているのだから、赤字になって当たり前だ。
そこで、一軍と二軍を完全に分離するのだ。
要するに、球団経営を分けてしまうのである。
そうすれば、一軍(親球団)の保有選手は3,40名程度で済む。
二軍チームは親球団の本拠地に近い場所にある必要はなく、二軍球団にとって都合のいい場所に本拠地を構えればいいわけだ。
一軍と二軍の本拠地が離れていれば、一軍の首脳陣が二軍選手を直接見られなくなる、という意見もあるだろうが、北海道日本ハム・ファイターズの二軍は札幌から遠く離れた千葉県の鎌ヶ谷にあるにもかかわらず、ちゃんとファームが成り立っているではないか。
つまり、一軍と二軍は本拠地が近くないとダメ、という理由は通らない。
むしろ、プロ野球のない地方に二軍チームを持って行けば、新たなファンを開拓できるだろう。
現在は一つの球団(会社)が一軍と二軍を保有しており、儲けを見込んでいるのは一軍だけなので、二軍は単なる選手の育成の場にしかなっていない。
だが、二軍を球団として発足させると、二軍戦でも立派な興行となる。
というより、興行としなければ球団経営は成り立たない。
例えば、阪神の二軍は阪神甲子園球場に程近い鳴尾浜球場を本拠地としているが、この球場で二軍の公式戦を行う場合でも入場料は無料だ。
球場には売店すらなく、ソフトドリンクの自動販売機があるだけである。
つまり、阪神球団は二軍戦で儲けることなどハナから考えていないのだ。
だが、二軍とはいえプロ野球選手なら、観客の入場料から給料を貰うのが本来の姿である。
他の球団でも入場料は取るものの非常に安く、二軍戦で商売をしようという気があるとはとても思えない。
阪神は人気球団なので、照明設備のない鳴尾浜球場でも平日の昼間にもかかわらず大勢の観客が来ている。
これをもう一歩進めて、平日のナイトゲームなら入場料を徴収しても充分に観客は入るはずだ。
しかもそれがプロ球団のない土地なら、ますます商売になるだろう。
二軍戦での収入は入場料だけではない。
売店での飲食物や球団グッズも商売になる。
そして、地元企業の広告料収入も大きいだろう。
二軍チーム専門の球団を作れば、ファームとはいえ球団経営も本気になるはずだ。
さらにもう一歩進めて、全国に根付きつつある独立リーグにも参加を呼びかける。
これらの球団を、NPBのファームチームに組み込めばいいのだ。
もちろん、NPB球団傘下に入るかどうかは球団の自由で、独立球団としてそのまま経営を続けてもいい。
さらに、NPB球団によっては、三軍以下のファームチームも作ればいいのである。
当然、それらの球団も独自の球団経営をすることは言うまでもない。
年俸が安い選手が中心なら、地方の地元企業でも球団経営をしやすいだろう。
そして、各地域ごとにリーグを作り、NPBファーム球団と独立球団で公式戦を行えばいいのだ。
そうなると現行の独立リーグは発展的解消となるだろうが、これまでの独立リーグ経営のノウハウを活かせばいい。
筆者の知人には独立リーグ球団の経営に関わった人物がおり、話を聞くとその経営努力はNPB二軍の比ではない。
もちろん、NPBの親球団も、ファームチームには積極的に援助する。
さらに、社会人野球との連携も図る。
最近は不況のために社会人野球の企業チームは激減しているが、プロ(独立球団を含む)のファームチームを都市対抗の予選に参加させるのだ。
すると社会人野球も活性化するだろうし、ファームチームも一発勝負の厳しさを体験できる。
アマチュアの社会人野球がプロの参加を認めるのか?と心配する人もいるだろうが、実は四国アイランド・リーグが発足するときに、社会人野球側から都市対抗予選に参加する気はないか、と打診していたのだ。
残念ながらこの時は四国リーグ側が断ったために、この画期的な試みは実現しなかったが、プロ・アマの垣根が取り払われつつある今、練習試合ではなく公式戦で戦うのは有意義だと思う。
【球団増によるレベル低下に対し、どう対処するか】
エクスパンションには球団経営以外でも、レベルの低下が懸念される。
12球団が16球団になるのだから、一軍選手が水増しされるのは当然考えられることである。
だが、この問題は案外すんなりと解決するのではないか。
球界の受け皿が広がると、在野に埋もれている選手を発掘しやすくなる。
チャンスが増えるために、素質があるのに出番がないという、いわゆる「飼い殺し」にされる選手が少なくなると考えられるのだ。
現在、NPBにはファーム組織が今一つ機能していない、という問題がある。
高校から直接プロ入りするような選手は、本来なら大学や社会人へ進む選手よりも逸材のはずだ。
ところが実際には、ファームではなかなか芽が出ず、3,4年後には社会人や大学出身者の新人に追い抜かれる選手のなんと多いことか。
もちろん、選手によっては20歳過ぎから急激に伸びる選手もいるだろうが、その点を差し引いてもプロの二軍より、大学や社会人の方が選手はよく育つのである。
二軍には、前述したとおり一軍枠の28人以外、即ち42人もおり、さらに育成枠を含めると球団によっては50人以上にもなってしまう。
しかも、中には若手選手だけではなく、怪我や不調により二軍で調整している一軍レベルの選手もいるのだから、なかなか試合を経験できない二軍選手も多い。
これでは育つ選手も育たなくなってしまう。
しかし、ファームチームが増えると選手が試合を経験するチャンスが増え、レベルアップが期待できる。
それでも心許ないというなら、外国人枠を撤廃すればいい。
現在のNPBでは支配下登録選手(育成枠も含む)については外国人の人数制限をしていないが、一軍枠での外国人選手は4人のみ(しかも、4人とも投手や、4人とも野手というのは不可)。
こんな制度では、力がある外国人選手でも、ファーム暮らしを余儀なくされる。
これを撤廃すれば、本当に実力のある選手が一軍でプレーできるわけだ。
「そんなことをすれば、外国人ばかりのチームになってしまう」と危惧する人もいるだろうが、心配ご無用。
外国人選手ばかりだとチームバランスが悪くなるだろうし、むしろ外国人選手との競争で日本人選手のレベルが上がることが期待できるのだ。
現行の12球団制では、外国人枠を撤廃すれば働き口が狭まると選手会が反対するだろうが、16球団制にして門戸を広げるとそんな声は聞かれないだろう。
現実に、最近の独立リーグでは外国人選手が多く参加しており、外国人選手にとって日本が新たな働き口となっているのだ。
もう一歩進めて、前述のようにNPBを頂点としたファーム組織を全国展開すると、外国人にとっても日本は魅力的な野球天国となるだろう。
もちろん、日本人選手にとっても受け皿が広がることになり、活性化が期待できる。
【「机上の空論」で片づけるのは「何も考えていない」のと同じ】
当然、これらのことが全て上手くいくとは考えてないし、筆者ごときの浅はかな考えよりももっといい案があるかも知れない。
もちろん、計画上は実行可能でも、越えなければならないハードルも多いだろう。
そういう時こそ、政府なり地方自治体なりの協力が必要となる。
幸い、現在の政府はエクスパンションに理解があるようなので、NPB側が16球団制の案を考えて、政府に提出すべきなのだ。
政府に利用されるのではなく、政府を利用するのである。
余談ながら、MLBの本拠地球場の多くが税金で建設した公営球場であり、しかも球団に永久貸与されているのは、MLBが政府や地方自治体を巧く利用しているからだ。
税金で建てた球場を、球団によって違うがほとんどレンタル料もなく使用し、チケット代や売店の売り上げ及び駐車料金、広告収入はガッポリ球団の懐に入り、固定資産税もかからないのだから、これほど旨い商売はない。
NPBの多くの球団のように、私企業が建設した球場を高いレンタル料により使用し、入場料や売店の売り上げ、広告収入の何割かを球場に取られる事例とは大違いだ。
アメリカ合衆国はご存知のように二大政党制だが、MLBはどちらが与党になってもいいように、民主党と共和党の両方にヨイショしているのである。
さすがに最近では税金の無駄遣いが叫ばれて、100%税金で球場を建設することは少なくなったようだが、ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)たるMLBのアメリカでの地位が窺い知れる。
もっとも、NPBも実は政府を利用している面があって、球団名に企業名が入っているのは、国税庁から赤字を親会社の宣伝広告費として処理することが認められているからだ。
つまり、日本でもプロ野球という存在が政府に認識されているのである。
これを利用しない手はない。
現在のままでは、たしかに16球団制というのは簡単ではないだろう。
だが、検討もしないで「机上の空論」で片づけるのはいかがなものか。
色々シミュレーションを行った結果、ダメでしたというのならまだわかるが、肝心のNPBにその気がないというのなら何をかいわんや。
会社や組織がダメになっていく典型的な例である。
ダメな組織というのは、改革しようとすると検討もせずに「不可能な理由」を並べ立てるのだ。
なぜなら、改革しようとするとかなりのパワーを要するため、面倒なことに巻き込まれるのは嫌だから現状維持しようと「不可能な理由」を重箱の隅をつつくように探し出すのである。
本来なら、まず「可能な理由」を探り、問題点があればそれを解決する努力が必要なのだが。
成長せずに落ち込んでいく会社や組織は、間違いなくそんな空気が蔓延していると言えるだろう。
もう一度言うが、現在は経営が成り立っていると思われるNPBも、12球団制のままではジリ貧になる時が必ず来る。
その時になってから考えても遅いのだ。
自球団の既得権だけでなく、NPBの未来を本気で考えるなら、エクスパンションを真剣に検討すべき時期に来ている。
もちろん、16球団制を実現するには、まず地盤固めが必要なのは言うまでもない。