6月15日、オウム特別指名手配犯の高橋克也容疑者が逮捕された。
これで、オウム地下鉄サリン事件の被疑者は全員逮捕されたわけだ。
しかし、真相の究明がなされるのはまだまだ先だろうし、本当の意味での事件終結は永久に不可能かも知れない。
1995年3月20日、東京・霞が関で未曽有の大事件が起きた。
いわゆる地下鉄サリン事件である。
首謀者は、麻原彰晃(本名・松本智津夫)を教祖とする殺人宗教団体であるオウム真理教。
朝のラッシュ時に猛毒のサリンがばら蒔かれ、罪のない13人の死者を産み、負傷者は多数で現在も多くの人が後遺症に苦しんでいる。
まさしく日本犯罪史上、最大最悪の事件と言えよう。
この年の1月17日には阪神淡路大震災が起き、まだその傷痕が癒えぬ頃に起きた大惨事だった。
あの大震災で多くの人が命の尊さを学び、復興に向けて動き出した矢先での出来事。
なぜそんな時期に、いやどんな時期でもそうなのだが、無差別殺人テロをどうして起こせるのだろうと、今から考えてもはらわたが煮えくり返る。
しかも、凶行を実行したのは、命の大切さを説くべき宗教団体である。
麻原彰晃をはじめ、事件に関わった多くの幹部が逮捕・起訴され、裁判でそれぞれ死刑、無期懲役という判決を受けた。
あれから17年、平田信容疑者の逮捕を皮切りに菊地直子容疑者、そして今回の高橋容疑者の逮捕により、風化されていたオウム事件が再びクローズアップされた。
そして一人の重要人物が、テレビメディアの前に姿を現した。
地下鉄サリン事件当時、オウム真理教の外報部長だった上祐史浩氏である。
よみうりテレビの「たかじんのそこまで言って委員会」という番組に上祐氏がゲスト出演した。
上祐氏はサリン事件には直接関わっていなかったということで、他の幹部と違い懲役3年の実刑判決という軽い刑だった。
出所後、上祐氏はオウム真理教から名前を変えたアレフの代表となったが、麻原彰晃を未だに崇拝する他の幹部と対立し、アレフ脱会後はひかりの輪という宗教団体を興してその代表となっている。
現在の上祐氏は、麻原彰晃のことを完全否定しているという。
では、地下鉄サリン事件が起こった時、上祐氏は本当にオウムの仕業ではないと思っていたのか?
実は、あの当時からオウムが起こした事件だとわかっていたのだそうだ。
あの時の上祐氏は、教団の広報として「サリン事件はオウムの仕業ではない!」と断言していた。
あまりにも強い口調、記者の質問を遮るように自説を喋りまくるその姿は「ああ言えば上祐」という流行語さえ生み出した。
しかし、あの強弁は全て演じていたものだったのだ。
あれだけ正々堂々とウソをつき通していたのだから、この男の恐ろしさが窺い知れる。
日本の外務大臣に据えたいぐらいだ。
と言っても今ではあの強弁は影を潜め、声も小さくかすれがちになっており、17年という歳月を感じさせる。
現在は麻原彰晃のマインドコントロールも解け、アレフも脱会した上祐氏が、なぜまたひかりの輪などという宗教団体を興す必要があるのか。
もちろん、上祐氏は既に刑期を終え、一応は罪を償ったことになるが、事件の重大さを考えると僅か懲役3年で全ての罪が償えるわけがない。
事件当時は詭弁を弄し、被害者や被害者遺族、そして国民を欺き続けたのだから。
上祐氏がやらなければならないのは、被害者や被害者遺族に対し、賠償し続けることである。
上祐氏は現在49歳。
80歳まで生きるとするとあと約30年だが、たった30年で償いきれるものではない。
ハッキリ言って、宗教団体など興している暇はないのだ。
それどころか、あの「ああ言えば上祐」が宗教団体を興したと知れば、被害者や被害者遺族はどう思うだろう。
いくら上祐氏が麻原彰晃のことを否定しても、ひかりの輪で被害者救済はやっていても、またあのサリン事件のような忌々しい大事件が起きるのではないか、と不安を抱いても不思議ではない。
上祐氏は番組内で、ひかりの輪を興した理由について、オウムでのことを反省し、オウムを超える宗教団体にする、と語っていた。
オウムを否定する、ではなく、オウムを超える、である。
麻原彰晃を、オウム真理教を否定するなら「オウムを超える」という表現はおかしい。
ここにひかりの輪の危うさを感じる。
上祐氏のmixiを見ると、ひかりの輪の活動として「霊的進化をもたらす修行」と書いてあった。
この男、なんにも変わっていない。
麻原彰晃のマインドコントロールは解けたのだろうが、本質的にはなにも変わってないのだ。
あのオウム事件当時、麻原彰晃の空中浮遊の写真が話題になった。
当時の上祐氏も「私も尊師(麻原彰晃)の空中浮遊を見ました」と言っていたが、もちろんウソ八百だろう。
こういうウソ八百の「霊的現象」を見せ付け、麻原崇拝を促してマインドコントロールしていったのがオウム真理教ではなかったか。
オウム真理教だって、最初はただのヨガ教室だった。
そこからだんだんエスカレートし、麻原彰晃を神様のように崇め奉って、やがては殺人集団と化した。
いくら麻原彰晃を否定しても、上祐氏がいつ「第二の麻原」になっても不思議ではない。
上祐氏はオウムの大量殺人を黙認し、国民に正々堂々とウソをつき続けた人物だ。
こういう宗教団体の恐ろしさは、教祖様を無条件・無批判で盲目的に崇拝し、信者が全くものを考えなくなることである。
その時に利用されるのが、この世に存在しない霊能力や超能力とやらで多くの人を騙して、マインドコントロールするという方法である。
さすがにオウムのような殺人集団になることは稀だが、宗教団体や霊能者(もちろん自称である。この世に本物の霊能者など存在しない。当然、超能力者も同じ)などによる宗教的被害や霊感商法の被害はあとを絶たない。
人の弱みに付け込む連中も悪質だが、人々も霊能力や超能力など存在しないことをいい加減に認識すべきだ。
有りもしないものを全否定する、という姿勢があれば、こうした被害は防げる。
何よりも宗教的被害や霊感商法に引っ掛かると、被害者が損をするだけでなく、こうした連中が増長してさらに被害者が増えることが最大の問題だ。
人々はもっと賢くならなければならない。
と言っても、例えば肉親が不治の病で、そんな時に「どんな病気でも治せる魔法の壺がありますよ」などと言われれば、何百万円払ってでもその壷が欲しいと思う気持ちも理解できるが……。
僕の周りにも、Tというインチキ男がいた。
Tは当時50歳は超えていただろう男だったが、とにかく言うことがメチャクチャ。
N子という女に「Tさんの講義があるので一緒に来ない?」と誘われてそこに行ったのだが、Tは自分は他人の心が読めるだの、テレポーテーションができるだの、2年後には九州に大地震が起こるなど、荒唐無稽なことばかり吹聴していた。
バカバカしくて聞いていられなかったが、N子を含めそこにいた10名ぐらいの人はみんなTの言うことを信じていた。
もちろん宗教法人でもなんでもなかったが、あんなに気色の悪い会は体験したことがない。
何が気色悪いって、Tもそうなのだが、それ以上にTの言うことを無批判・無条件で盲目的に信じている連中がである。
この連中はオウム事件で何も学んでいない、そう思った。
ちなみにN子はあとで知ったことだが、歳をとれば自分に霊が舞い降りてくると本気で信じていたバカ女である。
結局、Tは僕の心を読んでくれなかったし、テレポーテーションもしてくれなかったし、2年後に九州では大地震は起きなかった。
その後もN子はTがいかに素晴らしい人物であるかをしつこく説いたが、僕は一切それには応じず、結局はTと会ったのはその時が最初で最後だった。
僕が霊的なことを一切信用しないのでN子は諦めたようだが、今度は自分も体験したという自己啓発セミナーを僕にしつこく勧めてきた。
このセミナーは霊的、宗教的なものとは関係ないので、僕も乗ってくると思ったのだろう。
そのセミナーは35万円ほどかかると言ったが、自分を変えるためには35万円位安いもの、などと言う。
要するに、僕は35万円もかけて変わらなければならない人間、ということである。
これほど人をバカにした話もあるまい。
人を勧誘すればセミナーから謝礼でも出るのだろう、N子はしつこく誘ってきた。
金が絡んだ時のN子は、ヘビのようにしつこい。
「何も考えずに、私を信じて!」
「あなたは賢い人だけど、たまにはアホにならんとアカンよ」
あまりのしつこさに根負けしそうになったが、思い直してネットでこのセミナーのことを調べてみると、被害者情報がワンサカ。
N子が言うようにアホになっていたら、本当にアホを見るところだった。
もちろんセミナーの件は断り、N子にも絶縁を言い渡した。
N子はそれまで親友面していたのとは打って変わり、メールでゴチャゴチャ言い訳して自分の正当性を主張したが、何の反省もなくあまりに自分勝手な論理を展開したので僕も呆れてしまい、一切無視してそれ以来会っていない。
N子はかつてこのセミナーに参加したと書いたが、その頃は70万円近くもかかったらしく、要するにN子は70万円もかけてこんなサイテー女に成り下がったのだ。
このセミナーは前述した通り宗教団体ではないし霊的な奇跡体験を謳い文句にしているわけではないが、本質的には宗教団体と全く一緒である。
それはN子の「私を信じて」「アホになれ」という言葉がよくいい現している。
要するに、何も考えるな、ツベコベ言わずに言うことを聞け、という意味である。
この点は宗教団体と全く同じだ。
信者は何も考えるな、教祖様の言うことを聞いていればよろしい、ということである。
この教えが、教祖様やセミナー、霊能者にとって都合のいい民を生み出すことになる。
これは政治の世界でも同じで、何も考えない国民ほど独裁者にとって都合のいいものはない。
話を上祐氏に戻すと、上祐氏がしなければならないのは、被害者および被害者遺族に対して一生償い続けなければならないのはもちろん、もう一つはオウムの残党であるアレフと徹底的に戦うことである。
アレフは現在でも麻原彰晃を崇拝しており、特に最近ではサリン事件を知らない若い信者が増えているという。
そしてアレフの幹部は、サリン事件を正当化し、あれは国家の陰謀だったと17年前と変わらない洗脳教育を行っている。
そんなアレフの信者に対し、上祐氏はマインドコントロールを説く活動をして、実際にアレフを脱会した信者もいると言うが、やはり手ぬるいと言わざるを得ない。
上祐氏自身がオウムの残党の宗教団体を運営している限り、説得力はないのだ。
結局はアレフを脱会してもひかりの輪に入信することになり、要するに信者の勧誘をやっているだけとも取れる。
上祐氏が本当に麻原彰晃のマインドコントロールから解けたというのなら、宗教団体なんて率いずに、アレフの信者に対して裸でぶつかるべきである。
そして、サリン事件当時の私はウソをついてました、私は取り返しのつかない大罪を犯してしまいました、今の私にできることはあなた方のマインドコントロールを説くことです、と死ぬ気で説得することだろう。
盲目になって個人崇拝をする恐ろしさを一番知っているのは上祐氏のはずである。
そして、当時のオウム内部ではどんなことが行われていたか、事の真相を全て話すべきだ。
もちろんこれは、被害者や被害者遺族、そして国民に対しても行わなければならない。
アレフ信者を本当の意味で救済し、二度とあんな事件が起こらないように真相を話せば、被害者や被害者遺族も少しは救われるだろう。
それができるのは、上祐氏をおいて他にいない。
当時のオウムの重要参考人で、娑婆にいるのは上祐氏だけなのだから。
これは上祐氏に課せられた義務である。