九州学院の攻撃で一死満塁のチャンス。
ここで打者の放った打球はレフト前へ、ヒットになるかと思われたがレフトが好捕。
三塁走者はタッグアップして本塁へ向かうが、二塁走者が飛び出していて既に三塁の手前まで来ていた。
これを見たレフトが、悪送球を恐れたのか、そのまま二塁まで走って行って二塁を踏んでスリーアウトとなった。
ところが、レフトが二塁を踏む前に三塁走者はホームインしていたため、得点が認められた。
この記述を読んで、ピンとくる人もいるのではないだろうか。
そう、漫画「ドカベン」で伝説となっている「ルールブックの盲点による決勝点」と全く同じケースである。
そのシーンを再現してみよう。
山田太郎高校二年の夏、神奈川大会三回戦、明訓×白新である。
0−0で迎えた10回表、明訓の攻撃で一死満塁と白新のエース・不知火を攻め立て勝ち越しのチャンス。
ここで五番・微笑はスクイズを敢行するが、小フライとなってこれを不知火が好捕、一塁走者の山田が飛び出していたため一塁へ転送、山田は帰れずスリーアウトとなった。
ところがこの前に、三塁走者の岩鬼が既に本塁を踏んでいたため、得点が認められ、結局はこの1点が決勝点となり、明訓が白新を1−0で破った。
このケースでは三塁走者の岩鬼はタッグアップしてなかったものの、白新がアピールプレーを怠ったため、得点が認められたのだ。
不知火は一塁ではなく三塁に送球していれば何の問題もなかったのだが、バントの打球が一塁側だったので、一塁走者の山田が目に入ったのだろう。
だが、先に一塁走者をアウトにしていても、岩鬼のタッグアップが早いのに気が付き、その後に三塁に送球してアピールプレーを行えば、先の一塁アウトは抹消され、後の三塁アウトがスリーアウト目となる(この場合、一塁走者の山田には残塁が記録される)。
しかし白新はアピールプレーを行わずに、ピッチャーの不知火および内野手がファウルラインをまたいでしまったため、岩鬼の得点が成立したのだ。
不知火は9回まで明訓打線をパーフェクトピッチングという完璧な投球内容だったが、ルールブックの盲点に泣いた、とよく言われる。
だが実際には、ルールブックをちゃんと読んでいなかったために負けた、というべきだろう。
とはいえ、初めてこの話を読んだのは小学生の時だったが、こんなルールがあるのか、と思ったものだ。
と同時に、現実には起こらないだろう、とも。
だが、今日実際にそういうプレーが起きてしまったのだ。
それにしても、今日のNHKアナウンサーおよび解説者はいただけなかった。
このプレーに関し「ここでフォースプレーになって」「二塁走者がフォースアウト」と連発していた。
アナウンサーならまだしも、いやしくも解説者たる者がそんなトンチンカンなことを言うのは困る。
このプレーは断じて「フォースプレー」ではない。
「フォースプレー」とは、例えば一塁に走者がいる時に、打者がゴロを打ったら一塁走者はトコロテン式に押し出され、二塁への進塁義務が発生する(ただし、打者走者が先にアウトになれば、進塁義務は消滅する)。
この状態を「フォース」というのだ。
「フォースアウト」でスリーアウト目を取った場合は、先にホームインした走者がいても、得点は認められない。
わかりやすい例でいうと、一死満塁でサードゴロ、サードは三塁を踏んでツーアウト、セカンドに転送して二塁がフォースアウトでスリーアウト。
タイミング的にはおそらく三塁走者は二塁フォースアウトの前に本塁を踏んでいるだろうが、得点は認められない。
これが「フォースプレー」「フォースアウト」の大原則で、その点を踏まえていれば「レフトフライで飛び出していた二塁走者がフォースアウト」などという言い方は出てこないはずだ。
大体、飛球を直接捕球した場合、進塁義務など発生するわけがなく、むしろ帰塁義務が発生する。
直接捕球された場合、進塁するためには再度の触塁(リタッチ)、即ちタッグアップしなければならない。
もっとも、正しくタッグアップしなくても、守備側からのアピールプレーがなければアウトにはならないのだが。
今回のケースでは「フォースアウト」ではなかったからこそ、得点が認められたのである。
高校野球の解説者は大抵がアマチュア野球の指導者だが、その指導者がこんな基本的なルールを知らないようでは、選手たちにどんな指導をしているのだろう。
今日、このプレーにより余計な1点を失った履正社は幸いにも勝つことができたが、試合展開によればそれこそ不知火のように泣くに泣けない敗戦になっていたかも知れないのである。
練習も大切だが、こうしたルールの勉強を何よりも指導者に求め、それを選手たちに教えてもらいたい。