昨日、ラグビートップリーグの関西開幕戦が長居スタジアムで行われた。
17:00からの第一試合が近鉄ライナーズ×横河武蔵野アトラスターズ、19:00からの第二試合が神戸製鋼コベルコスティーラーズ×NECグリーンロケッツである。
例によってラグビー専門のSNS「楽苦美愛」の同志が20名ほど集い、長居のスタンドに陣取った。
近鉄の本拠地は言うまでもなく近鉄花園ラグビー場なのに、なぜ開幕戦に長居スタジアムを選んだかと言えば、長居にはナイター設備があるからに他ならない。
土曜日だからデーゲームでもいいだろうと思うのだが、やはりこの季節は残暑がまだまだ厳しく、暑い中で選手たちにプレーを強いることはできない、と判断したのだろう。
それだけに、秩父宮ラグビー場のように花園もナイター設備ができることを強く望む。
花園は東大阪市の外れにあって、電車で行くには近鉄奈良線のみの一本だけなのでやや不便だが、それでも来春には阪神電車と近鉄電車が一本で結ばれ、神戸方面からも簡単に来ることができるので非常に便利になる。
それに、広大な駐車場もあるので、車で来るには持って来いだ。
僕は長居にはラグビーだけではなくサッカーやアメフトも観にきたことがあるが、何度訪れても好きにはなれない。
交通の便はJRと地下鉄の二本があるので悪くはないのだが、JR環状線の外側にあるので、花園よりはマシとはいえ都心からはやや遠い印象がある。
でもそれは、長居公園のような広大な敷地を都心に造るわけにはいかないので、これは仕方がない。
むしろ不満なのは、長居スタジアムの建物そのものだ。
サッカーワールドカップや世界陸上などが行われた5万人収容の西日本屈指のスタジアムであるが、その中身は実に貧弱だ。
スタンド下にはだだっ広いスペースがあるだけで、ちゃんとした食堂などの設備はない。
ただ、サッカーやラグビーのイベントがあるときのみ、簡易の売店が出店するだけである。
それは実に殺風景だと言わざるを得ない。
阪神甲子園球場や京セラドーム大阪、スカイマークスタジアムなどのプロ野球本拠地球場なら、ちゃんとした売店が連ね、ゆったりと食事ができるレストランまである。
長居スタジアムにはそういった設備は皆無に等しい。
その点では花園ラグビー場のほうがずっとマシだ。
メインスタンド下には食券方式とはいえラーメン、うどん、カレーや各種定食を食べることができる食堂があり、試合観戦以外にも楽しむことができる。
それらの楽しみを一切排した長居スタジアムは、本当に客を呼ぶ気があるのか。
それに何度も言われていることだが、陸上用のトラックがあるので球技を見る時には臨場感に欠ける。
花園の最前列で観ると選手同士のぶつかり合う音が聞こえてくるので、迫力は満点だ。
長居の最前列だと観にくくて仕方がない。
ただ、長居の芝生は見事で、さすがにワールドカップが行われただけのことはある。
また、メインスタンドとバックスタンドには大屋根が覆っているので、中段辺りだと雨の心配はない。
第1試合、近鉄の試合が始まったが、双方共にトップリーグに昇格したばかりのチーム同士の試合なので、トップリーグ上位の対戦を見慣れた者にとっては物足りない試合内容である。
でも、近鉄はトップリーグ入りに向け、かなりの選手補強をしており、これからの伸びしろに期待できる。
ただ、地元大阪の古豪・近鉄の開幕試合なのに、スタンドは寂しい限り。
おそらく1万人も入っていなかっただろう。
これが長居の5万人収容を誇る大スタンドでは一層客の少なさが際立つ。
こうなることは予想されており、試合会場のキャパシティも考えるべきではないだろうか。
第1試合が終わり、19:00開始の第二試合が近づくと、人気チームの神戸製鋼が登場するとあってさすがに客は増えてきた。
ゴール裏のスタンドには一人も客はいなかったが、メインスタンドとバックスタンドはほぼ埋まり、おそらく1万2千人ぐらいは入っただろう。
それに、トップリーグ上位を担う両チームの激突だけあって試合のレベルは高く、見応えのある応酬が続いた。
まだ見ていない人のために結果は書かないが、ラグビー界の至宝・神鋼のWTB大畑大介が復活のトライを挙げた。
昨日、長居に訪れたファンにとっては、大畑がフィールドで躍動する姿を見ただけでも満足だったのに、トライまで見られて入場料は只みたいなものだったのではないか。
いや、本当に只だったのだ。
実は「楽苦美愛」メンバーの20人近い全員が招待券で観戦した。
長居に訪れた1万2千人のファンも、多くは招待券による客ではなかったか。
いくら開幕戦で客を集めたいからと言って無料券をばら撒くのはいかがなものか。
しかも、その無料券でも1万2千人しか集まらなかったのである。
無料でラグビーを知らない人を招待して、ラグビーの魅力を知ってもらってラグビーファンになってもらうという意図はよくわかる。
しかし実際に来ているのは、入場料を払ってでもラグビーを観たいというコアなファンがほとんどだ。
これでは本末転倒である。
それに、無料券ばら撒きは重大な副作用を伴う。
見せかけだけの客ばかり集めると、どの程度人気があるのかわからなくなり、本気の営業活動ができなくなるのだ。
そうなると、赤字補填は親会社に頼らざるを得なくなり、プロのチームとして成り立たなくなってしまう。
プロ野球でも、かつてのパ・リーグは客が入らなくても親会社の宣伝料として球団を成り立たせてきた。
ところが時代の流れでそれが通用しなくなり、球団削減危機によりパ・リーグ各球団がファン獲得に本腰を入れ、現在ではセ・リーグを食ってしまうほどに繁栄している。
無料券ばら撒きによる弊害はそれだけではない。
数年前、ナゴヤドームに中日×ヤクルトを観に行ったことがある。
どう考えても満員になるようなカードではないのに、ダフ屋がやたら目立った。
満員必至の甲子園でもこれほどのダフ屋を見たことはない(ちなみに、最近の甲子園周辺ではダフ屋をほとんど見なくなった。警察の取り締まり強化が功を奏したのか、それともダフ屋は地下活動をしているのか……)。
そのほとんどが「買い」で、たどたどしい日本語の若い男がチケットを買っていたので、おそらく留学生がアルバイトをしているのだろう。
そして一見して暴力団とわかる男がチケット売り場の前で堂々と客にチケットを売っているのである。
チケット売り場の前には制服を着た警官が座っているのだが、見て見ぬふりだ。
ちなみに、チケット売り場でチケットを買っている客など僕ら以外には一人もいない。
こんな不人気カードでダフ屋が商売になるのかと不思議に思っていたが、スタンドに入ってその謎が解けた。
指定席のため、客はチケットに書いてある席番号を見ながら自分の席を探しているが、そのチケットを見るとみんな無料招待券だ。
要するにダフ屋は、無料招待券が余っている客を探して格安で買い、無料招待券を持っていない客に実際のチケット料よりも安く売っているのだ。
そしてこの堂々たるダフ屋行為を、警察は見て見ぬふりをしている。
これを警察と暴力団の癒着と言わずしてなんと言おう。
このことを、スポーツとは全く関係のない週刊誌で指摘したことがある。
これはプロ野球の高額すぎる正規のチケット料と、無料チケットばら撒きという二つの弊害が合わさった歪んだ構造だと言える。
プロの興行とは客を満足させるパフォーマンスを見せ、その対価として適正な入場料をいただく、というのが正しいあり方である。
それを高すぎる入場料(安すぎても問題だが)に無料券ばら撒きでは無意味だ。
ファン獲得のために多少の無料招待券は必要だろうが、それに観客動員を頼るようではいつまでたっても真の意味でのプロの興行はできない。
昨日のトップリーグを観て改めて思ったのだが、ラグビーを生で観ると本当に面白いのである。
特にトップリーグはレベルが高く、生で観た人はほとんどが「面白かった」と言う。
それに今年はルール改正もあって、逃げのタッチキックやモールでゴリゴリ押すプレーが少なくなり、展開ラグビーが期待できる。
かつての日本ではサッカーよりもラグビー人気の方が高かった時代が長く続いていたこともあり、潜在的にはラグビーは日本人の感性に合ったスポーツだとも思える。
トップリーグは新たなファンを開拓し、プロリーグとして興行を成り立たせる方策を打ち出さなければ、トップリーグを立ち上げた意味がない。