昨日の日記で映画「キャプテン」を観てきたと書いたが、その映画館は堺市の埋立地に最近できたものだった。
この埋立地というのは堺臨海工業地帯の真っ只中にあり、すぐそばに新日鉄の工場がある。
映画館のある辺りは土地が余っているが、最近発表されたようにシャープの世界最大規模となる工場が建つ予定だ。
いずれにしても映画館の周りは殺風景で、映画館の立地場所としてはそぐわないと思われる。
この映画館は複合施設の中に入っていて、映画館の他にボーリング場や飲食店、ゲームセンターやパチンコ、温泉まである。
だが、アクセスは南海電車の堺駅や堺東駅からのバスのみで、便利とは言えない。
ただ、駐車場は広くてしかも無料だったので、車で行った僕には不便さは感じなかったが、館内は夏休みにもかかわらず閑散としていた。
考えてみれば、映画館のありようも随分変わったものだ。
子供の頃から大阪郊外の田舎に住んでいた僕は、周りに映画館など無かったので、映画を観ようと思えば電車に乗ってはるばる大阪市内の難波まで出かけなければならなかった。
当時は難波まで出かける、と言えば、よそ行きの服を着せられたものだ。
いい服を着て、電車に揺られること30分、着いたところは僕が住んでいるところとは別世界の大都会だ。
真っ暗の映画館内に入ると、非日常の光景が目に飛び込んでくる。
都会の中でありながら、真っ暗の空間で繰り広げられる非日常、それが僕の子供の頃の映画体験であった。
最近では、冒頭で書いたような郊外型のシネマ・コンプレックスが当たり前になってきた。
広大な駐車場を備え、マイカーで気軽に映画を楽しめる環境が整っている。
難波には最近まで、南街会館という映画館専用のビルがあったが取り壊され、現在では百貨店のマルイになってシネコンも併設されている。
これは郊外型のシネコンとは違うが、やはり映画館としての情緒は失われている。
南街会館のような映画館専用ビルはもちろん、かつてはあった街中の地下に降りて行くような単独映画館も見かけなくなった。
マイカーで気軽に映画を楽しめる、それはいいことなのだろうが、やはり僕は、映画を観るときは非日常を楽しみたい。
電車に乗ってはるばる都会に出て、映画館独特の雰囲気を味わいたいのだ。
それはシネコンでは絶対に体験できない感覚である。
ちなみに、子供の頃から宮崎市内にずっと住んでいた友人にこんな話をすると、
「私が映画を観るときは、自転車で通っていたよ」
と言っていた。
家のすぐ近所に映画館があったので、非日常を感じることもなく手軽に映画を楽しんでいたらしい。
自転車に乗って映画を観に行く、僕には考えられないことだ。
地方の県庁所在地に住んでいる者より、都会の郊外に住んでいる僕のほうが、時代遅れだったということだろう。