全国で高校野球の地方大会が宴たけなわだが、もちろん野球どころの大阪も例外ではない。
特に今年は平成の超怪物、大阪桐蔭の中田翔選手がホームランの高校通算記録を破ったとあって、例年にも増してヒートアップしている。
なにしろ、大阪桐蔭が試合をするということで、住之江公園球場や万国博記念公園球場で予定されていたのが、キャパシティが狭くて混乱を招くという理由で、急遽南港中央球場で行われることになった。
ところが、この南港球場も、いささか問題がある球場だ。
現在、夏の高校野球大阪大会で使用される球場は全部で8球場。
このうち、最もキャパシティの広い京セラドーム大阪は、開会式が行われる初日にしか使われず、実質7球場だと言っていい。
この7球場のうち、観客動員が多いのが、先に挙げた南港球場と、メイン会場である舞洲ベースボールスタジアムで、共に1万人の収容能力がある。
この両球場は完成したのが比較的最近で、当然綺麗だし、共に両翼98m以上、中堅122mと広さも申し分ない。
しかし、どこか無機質な感を受けるのだ。
まずこの両球場、売店というものが無い。
あるのはソフトドリンクの自動販売機だけだ。
僕が現在の大阪大会使用球場で行ったことがあるのは、両球場以外では住之江、万博、久宝寺の各球場だが、いずれも小規模とはいえ売店はちゃんとあった。
ちょっとした弁当や、弁当はなくてもビールのつまみになる唐揚げやフランクフルト、もちろん冷えた缶ビールも売っていた。
これらの球場はいかにも古めかしく、フィールドもスタンドも狭いのだが、なんとも言えない情緒がある。
夏の地方大会とはこういう球場でやっているのだな、と実感できる。
舞洲球場や南港球場にはそれが無い。
メイン会場である舞洲球場では、試合によってはちょっとした弁当が売り出されることがあるが、それも大した数ではない。
ただ、球場のすぐ近くにちょっとした食堂があって、そこで腹ごしらえをすることはできる。
ただし、その場合は試合を見ながら食事、というわけにはいかない。
もちろん、売り子がスタンドを徘徊しているわけではない。
スタンドで腹ごしらえをしようとすれば、コンビニかホカ弁で購入する以外には無いが、この舞洲というのは人工の無人島で、そんなものは近所には無い。
おまけにアクセスが非常に悪い。
最寄の駅からバスで20分もかかってしまう。
しかも、無人島だけにバスの本数も少ない。
この舞洲はオリンピック招致のためだけに造られた、大阪市のムダ行政を象徴する人工島なのだ。
それに、海に近いので強風が吹き荒れる。
酷いときは野球どころではない。
間違いなく、千葉マリンスタジアムより上だろう。
こんな球場で高校生たちにプレーさせていいのか。
それに比べると、南港球場も海の近くにあるとはいえ舞洲球場よりはマシだが、サービスの悪さは舞洲球場以上。
まずこの球場に売店が出されたことはなく(全試合に行ったわけではないので断言はできないが、まず間違いないだろう)、球場の近くに飲食店なんてない。
ただ、近くにニュートラム(大阪市交通局の新交通システム)の駅があるので、舞洲球場よりはアクセスの点ではマシ。
また、駅の近くに商業施設があるので、そこで弁当やビールを購入することができる。
それなら南港球場をメイン会場にすればいいのではないかと考えられるが、南港球場は大阪では珍しい全面人工芝なので、真夏のデーゲームには適さないと判断されたのかも知れない。
あるいは、舞洲球場を造ったのはムダと思われないように、メイン会場として使っているだけだったりして。
2年ほど前、明治神宮球場の西東京大会準々決勝を観に行って、驚いた。
午前中の結構早い時間帯だったのに、内野席には相当な観客が埋まっていた。
売店が忙しそうにしていたのはもちろん、スタンドでは売り子たちが声を張り上げて闊歩していた。
今の大阪大会では考えられない光景だ。
神宮でも、神奈川大会が行われる横浜スタジアムでも、決勝戦ともなると2万人以上の観客が詰め掛けるという。
もっともこれは、地方大会が終わればおいそれと甲子園には行けないために、ファンが生で高校野球の見納めのために来ていると言えなくもないが。
しかし、かつて大阪も、二年前に神宮で体験したような雰囲気だった。
昔は大阪のメイン会場は日生球場であり、藤井寺球場や大阪球場も夏の大阪大会に使用されていた。
いずれもプロ野球常打ち球場のため2,3万人とキャパシティも広く、しかもアクセスは抜群だった。
従って大阪大会でも多くの観客が詰め掛け、売店はもちろん、売り子だってスタンドで弁当やビールを売り歩いていた。
そしてなによりも、いかにも夏の大阪大会という情緒に満ちていた。
その頃に比べると、今の大阪の球場事情は、野球先進国という割にはあまりにも貧弱と言わざるを得ない。