ヨーロッパで行われているラグビーのシックス・ネーションズ(6ヵ国対抗)のイングランド×イタリアで、物議を醸すプレーがあった。
イタリアの戦法がオフサイドではないか?と議論を呼んだのである。
上の映像を見ると、タックルが成立した時点で、イタリア(青)の選手が明らかに前でプレーしているのがわかる。
普通なら、誰もがオフサイドと思うのだが、レフリーはオフサイドの反則を取らない。
日本代表のヘッドコーチとして2015年のワールドカップでは南アフリカ(スプリングボクス)を破るなど、3勝1敗の好成績を残してその手腕を発揮し、現在はイングランド代表のヘッドコーチを務めるエディ・ジョーンズは「あんなのはラグビーではない」と痛烈に批判した。
だがこれは、レフリーの判定通り、決してオフサイドではない。
なぜなら、タックルが成立した時点で、イタリアの選手は絡んでいないからだ。
つまり、タックルは成立したが、ラックは形成されていないのである。
そのため、レフリーは再三にわたって「タックル・オンリー!」と叫んでいる。
ラックとは、敵と味方の1人ずつが絡んで、初めて形成される。
この場合、タックルが成立してもイタリア(青)の選手は絡まずに、イングランド(白)の選手だけが集まっているので、ラックとは認められないのだ。
ラックが形成されていない以上、オフサイドラインは発生しないのである。
ラック(モールもそうだが)におけるオフサイドラインとは2本あり、ラックに参加しているそれぞれのチームの最後方にいるプレーヤーの足がオフサイドラインとなる。
つまり、敵と味方の双方に、それぞれのオフサイドラインがあるわけだ。
ちなみに、ラックやモールに参加しているプレーヤーには、オフサイドラインは存在しない。
この写真ではラックが形成されているので、水色の16番の選手がプレーに参加すればオフサイドの反則となる
ところが、ラック(モールもそうだが)が形成されなければ、オフサイドラインは発生しない。
上の映像のイングランド×イタリアの場合、ラックは形成されずに、単にタックルが成立しただけなので、前にいるイタリア(青)の選手はオフサイドにはならないのである。
ただし、前にいるイタリア(青)の選手が「タックルの地点(タックル・ボックス)」に働きかければオフ・ザ・ゲートという反則になる。
オフサイドとオフ・ザ・ゲートとの違いについては、下記を参照されたい。
イタリア(青)の選手は、タックルが成立しても、明らかにボールには絡んでいない。
おそらく、これは意図したプレーだろう。
そして、選手を前に出して、イングランド(白)の選手がパスアウトをする瞬間を狙ってタックル、あるいはインターセプトを狙っていると思われる。
多分、ルールを熟知して編み出した戦法に違いない。
だが「これがラグビーか?」と問われれば、その通り。
あまり褒められた戦法とは言えない。
法の穴をかいくぐった、マフィアのような戦術とも思える(イタリアだけにね)。
そもそも「タックルの地点(タックル・ボックス)」という概念が登場したのは西暦2000年という、比較的新しいルールだ。
そのため、このような戦法が頻発するならば、ルール改正の引き金となる可能性もあるだろう。
ただ、この戦術にも弱点はある。
タックルの地点よりも前方に選手を置くことによって、後ろのディフェンスが弱くなるからだ。
大抵の場合、タックルが成立すると攻撃側はラックを想定するため、防御側はイタリア(青)のようなディフェンス方法を編み出したのだが、逆に攻撃側はそのディフェンスを見越して、パスアウトせずにそのまま前方へ突進するという戦法もある。
しかし、イタリア(青)もそのあたりは想定してか、タックルの地点に多くの人数をかけ、突破を防ぐようにしている。
今後、ルール改正となるか、あるいは攻撃側が新たな戦術を生み出すのかはわからない。
ただ、自陣ゴール前での相手ボールのラインアウトで、わざとモールには加わらずに(つまり、モールは形成されない)、相手のアクシデンタル・オフサイドを誘うような戦術は「セコいなあ」と感じてしまう。
このあたりはルールの不備と言われても仕方がないが、上記のラック(にはならないプレー)も含めて、ルール改正の議論にはなりそうだ。
たとえば、以前はスクラムから出たボールをスクラムハーフがパス・ダミー(パスを放るふりをすること)して、相手のオフサイドを誘うようなプレーがあったが、現在では反則となっている。
要するに、ラグビーでは相手を欺くようなプレーは忌避されているのだ。
そう考えると、今回のイタリアのような戦法をさせないようなルールが生み出されるかも知れない。