今年(2016年)7月10日、日本国で参議院選挙の投開票が行われる。
しかし世間では、まだ告知日も迎えていない、しかも地方選挙に過ぎない東京都知事選挙の話題で持ち切りだ。
日本国民は、あるいは日本のメディアは参院選のことなど眼中にないのだろうか。
そもそも参議院選挙とは何か?
政治に興味がない人でも「総選挙」という言葉は知っているだろう(某アイドルグループのヲタならアホでも知っているはずである)。
しかし、参議院選挙は「総選挙」ではない。
なぜなのだろうか?
日本国はご存知のとおり、二院制を採っている。
ほとんどの先進国が二院制を採っており、アメリカ合衆国議会の場合は上院と下院に分かれている。
アメリカにおける上院が日本での参議院、下院が衆議院という位置付けだ。
日本における二院制の歴史は結構古く、明治時代までさかのぼる。
1890年、即ち大日本帝国憲法が発布された翌年に、日本で初めて国会(帝国議会)が開かれた。
その時の国会というのが衆議院と、貴族院の二院制だったのである。
衆議院の方は選挙で選ばれた議員によって運営されたが(ただし、選挙権があったのは一定の税金を納めた男性のみ)、貴族院は選挙によって選ばれたでのはなく皇族や華族によって構成されていた。
しかも、衆議院と貴族院は同等の立場にあり、貴族院議員には任期が無くて終身雇用だった。
つまり、国民に選ばれた議員よりも、国家の中枢にいた人物の意見が強かったとも言える。
さらに、大正の時代に入ると普通選挙法(納税額に関係なく、成年男子に選挙権が与えられる)が施行されたものの、その引き換えに治安維持法が制定されたこともあり軍部の力が強まって、内閣のほとんどが軍人による大臣によって占められるようになった。
その後はご存知のように、日本は戦争へまっしぐら。
大和魂とやらで大日本帝国はアホ丸出しの対米英戦争を仕掛け、フルボッコにされて日本国民の多くは死に、飢えの苦しみに突入してしまった。
しかも広島市民と長崎市民は、原子爆弾という地球人類史上最悪の地獄を味わったのである。
戦後になり、1947年に日本国憲法が制定されて、貴族院に代わる議会として参議院が発足した。
日本国憲法を、連合国からの押し付け憲法とのたまう輩がいるが、要するに当時の日本人に憲法草案を作らせたものの、ロクな憲法草案を作れなかったため、連合国が代わりに作っただけの話である。
参議院とは貴族院と違い、選挙で選ばれた参議院議員で構成されたものだ。
しかも、戦前とは異なって、男女に関係なく20歳以上の人に選挙権が与えられた。
ただし、戦前の衆議院と貴族院との関係とは異なり、衆議院が参議院に対して優越権がある。
そのかわり、衆議院議員の任期は4年だが、参議院議員の任期は6年だ。
したがって、参議院議員の方が政策をじっくり練るという時間的猶予が与えられる。
ちなみに言うと、代議士というのは衆議院議員に対する言葉であり、参議院議員のことを代議士とは呼ばない。
冒頭で「参議院選挙は総選挙ではない」と書いたが、なぜなのだろうか。
それは、参議院には解散が無いからである。
衆議院議員の任期は4年と書いたが、必ずしも4年というわけではない。
なぜなら、内閣総理大臣が「衆議院を解散!」と叫べば、4年の任期なんて吹っ飛んでしまうからである。
つまり、4年の任期など関係なく衆議院議員を全て取り換えてしまうので、正式名称を「衆議院議員総選挙」即ち略して「総選挙」と呼ぶのである。
しかし、衆議院には解散というリスクがある代わりに、内閣不信任決議というカードも持つ。
それに対し、参議院には解散など無いので、問題が無い限りは6年間の任期を全うできるのだ。
そのかわり、内閣不信任決議を出すことはできない。
あるのは問責決議だが、こちらは法的拘束力はない。
ただし、内閣を揺さぶることはできる。
とはいえ、参議院には解散が無いため、3年に1度は必ず参議院選挙が行われる。
それも7~8月という、夏の時期だ。
参議院議員の任期は6年と言ったが、全員が任期を迎えるわけではない。
参議院議員のうち、半分が任期となるのである。
つまり、3年ごとに参議院選挙が夏の時期に行われるわけだ。
したがって、参議院議員は衆議院議員のように総入れ替えするわけではなく、半数だけ3年ごとの夏に選挙が行われるため、 正式名称は「参議院議員通常選挙」と呼ばれるのである。
今回の参院選は、舛添要一前東京都知事のあまりにセコイ政治資金流用により、都知事選の隠れ蓑にされた感があるが、実際には東京都知事選よりも今回の参院選の方が遥かに重要である。
大マスコミはそのことを知ってか知らずか、大衆受けをする都知事選出馬は誰か?と狂想曲を奏でるのみ。
あるいは、参院選から目を逸らす、大きな力が働いているのか?
しかし改憲派の与党は、これを声に大にしてはいない。
まだまだ改憲にはアレルギーが大きいだろうという与党の読みと思える。
だが、衆議院では既に改憲派の与党が3分の2を占めているのだ。
これで参議院でも改憲派の与党が3分の2を占めれば、心置きなく改憲の国民投票に踏み切ることができる。
国民投票の恐ろしさは、イギリスでのEU離脱の国民投票で多くの人が思い知っただろう。
つまり「戦争の放棄」というヤツだ。
改憲派も、憲法堅持派も、このことばかり議論しているが、本丸はそこではない。
つまり日本を、国民主権ではなく、明治時代からの天皇主権に戻そうという試みである。
要するに、国民の自由を奪い、お国のために忠誠を尽くせ、という憲法草案だ。
憲法堅持派の野党が、なぜそこに切り込まないのか、理解に苦しむ。
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今回の選挙によって、日本国民の自由が奪われる可能性があるということを、肝に銘じて投票しなければならないだろう。
これは決して、夢物語ではない。
実際に、昭和初期の日本国民はそれなりの暮らしをしていたものの、軍部が力を持って戦争に突入した途端に、一気に貧窮のどん底に陥ってしまったのだ。
さらに大都市部は、悪夢のような空襲に晒されたのである。
「日本死ね!」というネット上での発言が物議を醸したが、もし改憲勢力が大多数を占めれば、こんな発言をしただけで北朝鮮のように強制収容所送りになるかも知れない。